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三章 現実、月曜日。冷たい場所に閉じ込められました。
18話 現実、月曜日。大男に捕まりました。
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「なぁに、話は直ぐに済む。お前ぇさんが素直に聞けばなぁ」
ニヤニヤと笑う男に引きずられる伊都は、苦手な男の接近に怯えつつ、心底困惑していた。
(応対していたって、見ていた筈なのに……灰谷さんの様子がさっきからおかしいわ)
時刻は午後五時を回っていた。
普段ならタイムカードを切りに来るパート達だが、これが不思議な事に誰も来ない。
裏手を気にしている伊都に、「残念だな、奴らは早上がりさせたんだよ」 灰谷がからくりを暴露した。
(そこまで、して。嫌がらせの為に……?)
灰谷は、常より工場長たる自分を平気で叱りつける年嵩のパートを苦手にしている。だから早めに帰したのだろう。
ここには非力な女三人……いや、女四人しか居ない。一人は完全に無気力で、話を聞いているかすら分からない様子。
副社長はぼんやりと机に目を落としたまま、動かない。
益々、灰谷が己の行為は承認されたものと、調子に乗る訳である。
(どうしよう、このままじゃ私だけでなく、奈々ちゃん達まで……)
伊都や奈々達は、不利な状況に今更ながら気が付いた。
そこで、いつも強気な奈々が動き出してしまった。
「ちょっと、灰谷さんっ! 伊都が行くなら私も行くっ」
「私も、彼女の事をサキから任されているんです。ご用件なら私が聞きます」
奈々や葉山がこの状況を黙っている訳が無く、灰谷に抗議する。
ぼんやりと座っている副社長は、机に頭を押しつけるようにしながら見ない振りだ。
「うるせぇっ! そこにいる副社長サマだって俺の味方だぁっ! 手前ぇらも俺の敵かぁっ、そんなに会社辞めてぇかっ」
胴間声で叫び手を挙げる男を、震えながら何とか踏ん張り、引き留める事しか伊都には出来ない。
事態は悪化していた。
(私のせいで奈々ちゃんや葉山さんが殴られるなんて、そんなの駄目よ。嫌われてるのは私だけなのに……)
だから、ふるふると頭を振って、震える唇で「だいじょうぶ」 と言うしかない。
決して大丈夫ではないけど、今は気丈に振る舞うしかないのだ。
「じゃあ、ちょっとお話を聞いてきます……二人は、早く帰るのよ」
「おう、お前ぇは少しは頭が回るみてぇだな、サボり女。お前ぇがそうやって従順にしてれば、他の女は帰してやるよ、俺の温情に感謝しな」
「は、い……本当に、二人は気にしないで帰ってね」
真っ青な顔で、痛々しい笑みを浮かべる伊都に女二人は顔を見合わせた。
その手には、スマホが握られている。
示し合わせたように、一人は背を向ける灰谷にレンズを向け無音でシャッターを切り、一人は素早くメッセージアプリをタップし短文を書いて送る。
……後は、「その人」 に任せるしかなかった。
ニヤニヤと笑う男に引きずられる伊都は、苦手な男の接近に怯えつつ、心底困惑していた。
(応対していたって、見ていた筈なのに……灰谷さんの様子がさっきからおかしいわ)
時刻は午後五時を回っていた。
普段ならタイムカードを切りに来るパート達だが、これが不思議な事に誰も来ない。
裏手を気にしている伊都に、「残念だな、奴らは早上がりさせたんだよ」 灰谷がからくりを暴露した。
(そこまで、して。嫌がらせの為に……?)
灰谷は、常より工場長たる自分を平気で叱りつける年嵩のパートを苦手にしている。だから早めに帰したのだろう。
ここには非力な女三人……いや、女四人しか居ない。一人は完全に無気力で、話を聞いているかすら分からない様子。
副社長はぼんやりと机に目を落としたまま、動かない。
益々、灰谷が己の行為は承認されたものと、調子に乗る訳である。
(どうしよう、このままじゃ私だけでなく、奈々ちゃん達まで……)
伊都や奈々達は、不利な状況に今更ながら気が付いた。
そこで、いつも強気な奈々が動き出してしまった。
「ちょっと、灰谷さんっ! 伊都が行くなら私も行くっ」
「私も、彼女の事をサキから任されているんです。ご用件なら私が聞きます」
奈々や葉山がこの状況を黙っている訳が無く、灰谷に抗議する。
ぼんやりと座っている副社長は、机に頭を押しつけるようにしながら見ない振りだ。
「うるせぇっ! そこにいる副社長サマだって俺の味方だぁっ! 手前ぇらも俺の敵かぁっ、そんなに会社辞めてぇかっ」
胴間声で叫び手を挙げる男を、震えながら何とか踏ん張り、引き留める事しか伊都には出来ない。
事態は悪化していた。
(私のせいで奈々ちゃんや葉山さんが殴られるなんて、そんなの駄目よ。嫌われてるのは私だけなのに……)
だから、ふるふると頭を振って、震える唇で「だいじょうぶ」 と言うしかない。
決して大丈夫ではないけど、今は気丈に振る舞うしかないのだ。
「じゃあ、ちょっとお話を聞いてきます……二人は、早く帰るのよ」
「おう、お前ぇは少しは頭が回るみてぇだな、サボり女。お前ぇがそうやって従順にしてれば、他の女は帰してやるよ、俺の温情に感謝しな」
「は、い……本当に、二人は気にしないで帰ってね」
真っ青な顔で、痛々しい笑みを浮かべる伊都に女二人は顔を見合わせた。
その手には、スマホが握られている。
示し合わせたように、一人は背を向ける灰谷にレンズを向け無音でシャッターを切り、一人は素早くメッセージアプリをタップし短文を書いて送る。
……後は、「その人」 に任せるしかなかった。
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