編み物魔女は、狼に恋する。〜編み物好きOLがスパダリ狼さんに夢と現実で食べられる話。

兎希メグ/megu

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四章 冷たい部屋からの救出

二話 カフェ&バル・ティエラナタル

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「イトちゃん、ほんっとーにごめん!!」
 そこはいつもの喫茶店。
 店の奥、ロールカーテンで仕切った個室状の六人席で、なぜかサキが思い切り頭を下げていた。

(今日は、何だかよく謝られる日だわ)
 強気なサキの珍しい姿を見て不思議な気持ちになりながらも、伊都は「あの、頭を上げて下さい」 と、困り顔でサキに言う。

「でも! 親父がちょっと大人しくなったからって油断してたあたしのせいだわ。灰谷が、あのバカがイトちゃんにあんな、嫌がらせするだなんて……」
「それは……誰も予想出来なかった事ですよ。サキさんが謝る事ではありません。ほら、せっかくのお料理も冷めてしまいます、頂きましょう」

 古材を使った味のあるテーブルの上には、彩りのよい料理が並んでいる。
 スペインの小料理や大皿料理などをやや和風テイストを加えて出すのがこの、サキの夫、鵜飼の店「カフェ&バル 故郷ティエラナタル」 の名物となっている。

「鵜飼さんのお料理、何でも美味しいですから冷めたら勿体無いわ。私、さっきからお腹が空いていて……」
 気まずい雰囲気を嫌って、伊都は努めて明るくそう言った。

 喫茶店へ来たのは、今日の報告と今後の事を話す為だ。
 冷蔵室で長時間閉じこめられたという事で、救急で見て貰ったところ、風邪の引きはじめの症状が見られた為、薬を貰ってきた。
 それならば、薬を飲むには何か食べた方がいい、そのついでに話を聞こう、と、そんな流れでこの喫茶店に寄る事になった訳だ。
 ちなみにサキの子は、この緊急事態に行かない選択肢はないと思って、事情を知る義母さんに預けてきたという。

「イトちゃん……」
 伊都の空元気を読んだように、サキの表情は曇りがちだ。

 その後は、しばらく料理を食べる事に専念する。
 各自、あらかた食べ終えたところで、ようやく本題に移る。
 今日あった事については、病院に向かいがてら話してある。
 後は今後の話、となる訳だが……。

 控えめ量で作って貰ったリゾットを食べ終え、薬を用意しながら伊都はぽつりと呟く。
「でも本当に、今日の事は不思議でならないんです、私も」
 ぽつり、伊都が言えば、奈々や葉山も複雑そうな顔で頷く。

 あつあつのアヒージョをすくう奈々が左隣で「まあねぇ」 と言い。
「モラハラ気味でイヤな人だったけど、でも確かに、一応仕事関係でのトラブルはなかったし……」
 奈々の言葉に続けるように、葉山が話す。
「今までは、灰谷さんは真面目に働いてらしたし、ちょっと乱暴な人ではありましたけれど、誰かを傷つける事はなかったですしね」
 ……本当に、不思議です、と葉山は困惑したように溜息を吐く。
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