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七章 間章 目を覚ませば、そこは見慣れた。
7ーex2.間章 銀狼は奔走す(3)
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引き継ぎを終えて婚約者の上司である鵜飼サキに電話で確認すれば、伊都は近隣で最も大きな総合病院に入院しているという。
彼が急いで駆けつけると、レールカーテンを引いただけの六人部屋のベッドの一つに、包帯を巻いた痛々しい姿の伊都がベッドに横になっていた。
カーテンの隙間から見える姿は、特に医療機器などは繋がっていなく、ただ眠っているだけのように見える。
白い壁、白いリネン。青ざめたかのような白い顔の伊都が静かに眠る殺風景な中に、折り畳み椅子を広げて小説を読んでいる中年の女性がいた。
その人は服装こそ普段着であるが、その居住まいやら貫禄が、妙にこの風景に馴染んでいる。
(そういえば、彼女の母親は看護師だったか……)
最近頻繁にやり取りをする、伊都のニット作家プロデューサーとでも言う存在の、伊都の親友から聞いた話に依れば、かなりのワーカホリックで、母の仕事の邪魔にならないようにと伊都は幼少期母方の祖父宅に預けられていたとか。
彼が孤児であったという事ではばかってか、伊都からは家庭の事など詳しく聞いた事はない。
ただ諸々とあけすけなリッコは、「大事な自分のニット作家の事だから」 とばかり、故郷《ティエラナタル》で今後展開する伊都の作品についてあれこれ言いつけてくる中で、偶に白銀が知りたがっているだろう事をうっかりを装って漏らすのである。勿論、リッコから諸々聞いてもいいかと伊都に断ってもいるが。
そういう意味で、彼にとって伊都の親友殿は、大事な情報源であった。
7ーex.間章 銀狼は翻弄す(3)
「失礼します。織部伊都さんのお母様でいらっしゃるでしょうか」
なるべく穏やかにと気をつけ、静かな声で話し掛けると、彼女の母は本を閉じると顔を上げて、一瞬驚いたような顔をした後、「ああ」 と小さく声を上げた。
「貴方、白銀君よね?」
母親だけにどこか伊都に似た女性が、こちらに確認を取るように言った。彼が頷けば、ベッドの方をちらりと見て。
「ああ、伊都は全然大丈夫よ。咄嗟の事だけど頭は庇ったようで、脳波も異常なし。手足を打っただけで、今はただ寝てるだけだから」
と、看護師らしく的確に見舞い客に知りたい事を教えてくれる。
「改めて初めまして、伊都の母の織部伊予です。こんな所でお会いするより早く会いたかったのだけれどね。恥ずかしいんだか何なのか、なかなかね」
そこで肩を竦めて見せ。
「お付き合いしてる人がいる事ぐらいは報告をくれてたんだけれど、なかなか会わせてくれなくって」
彼が急いで駆けつけると、レールカーテンを引いただけの六人部屋のベッドの一つに、包帯を巻いた痛々しい姿の伊都がベッドに横になっていた。
カーテンの隙間から見える姿は、特に医療機器などは繋がっていなく、ただ眠っているだけのように見える。
白い壁、白いリネン。青ざめたかのような白い顔の伊都が静かに眠る殺風景な中に、折り畳み椅子を広げて小説を読んでいる中年の女性がいた。
その人は服装こそ普段着であるが、その居住まいやら貫禄が、妙にこの風景に馴染んでいる。
(そういえば、彼女の母親は看護師だったか……)
最近頻繁にやり取りをする、伊都のニット作家プロデューサーとでも言う存在の、伊都の親友から聞いた話に依れば、かなりのワーカホリックで、母の仕事の邪魔にならないようにと伊都は幼少期母方の祖父宅に預けられていたとか。
彼が孤児であったという事ではばかってか、伊都からは家庭の事など詳しく聞いた事はない。
ただ諸々とあけすけなリッコは、「大事な自分のニット作家の事だから」 とばかり、故郷《ティエラナタル》で今後展開する伊都の作品についてあれこれ言いつけてくる中で、偶に白銀が知りたがっているだろう事をうっかりを装って漏らすのである。勿論、リッコから諸々聞いてもいいかと伊都に断ってもいるが。
そういう意味で、彼にとって伊都の親友殿は、大事な情報源であった。
7ーex.間章 銀狼は翻弄す(3)
「失礼します。織部伊都さんのお母様でいらっしゃるでしょうか」
なるべく穏やかにと気をつけ、静かな声で話し掛けると、彼女の母は本を閉じると顔を上げて、一瞬驚いたような顔をした後、「ああ」 と小さく声を上げた。
「貴方、白銀君よね?」
母親だけにどこか伊都に似た女性が、こちらに確認を取るように言った。彼が頷けば、ベッドの方をちらりと見て。
「ああ、伊都は全然大丈夫よ。咄嗟の事だけど頭は庇ったようで、脳波も異常なし。手足を打っただけで、今はただ寝てるだけだから」
と、看護師らしく的確に見舞い客に知りたい事を教えてくれる。
「改めて初めまして、伊都の母の織部伊予です。こんな所でお会いするより早く会いたかったのだけれどね。恥ずかしいんだか何なのか、なかなかね」
そこで肩を竦めて見せ。
「お付き合いしてる人がいる事ぐらいは報告をくれてたんだけれど、なかなか会わせてくれなくって」
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