アンドロイドの歪な恋 ~PROJECT III~

松本ダリア

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第1話 黒い感情 *

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※無理矢理、拘束こうそく表現あり。苦手な方はご注意ください。



すい、今日もメンテナンス、よろしくね」

医務室に入って来たイオは微笑みながらそう言うと、白衣を脱いだ。鮮やかなブルーのニットワンピースからは体の線がくっきりと出て、ふくよかな膨らみが一段と柔らかそうに見えた。シリウスが誕生してから大人の色気が増したイオに、彗は何度も胸の高鳴りを感じていた。冷静さを装いながら必死に笑顔を作って、イオをベッドの上へ導く。

「は、はい。今日もよろしくお願いしますね」

イオは大人しくベッドの上に横たわった。胸の上に両手を置いて彗を見上げる彼女のブルーの瞳はとても純粋で、まさか目の前にいる彗が自分に対してよこしまな感情を抱いていることなど夢にも思っていない。

(イオ、今日も可愛い……どうしよう……)

彗が必死に感情を抑え込もうとした、その時だった。

(彗、どうしてそんなに感情を抑え込もうとしているのです?自分の素直な気持ちに従ったらいいじゃありませんか)

暗闇から誰かが自分に向かって尋ねる声が聞こえて来た。その声は彗によく似ていたが、少し低くて意地悪そうな声色をしている。

(だ、誰?!)

(誰?言うまでもありませんねぇ。だって、ぼくのことはあなたが一番よく分かっているはずなんですから)

姿の見えないその声に、彗は怯えて怖気づいてしまった。一瞬の隙を見せたその瞬間、彗は誰かに腕を強く引っ張られた。

(うわっ!)

気がつくと、暗闇の中にいた。そして、今まで自分が立っていた場所に誰かが立っていることに気がついた。黒いパーカーの上に白衣を羽織っている。クセのある黒髪。振り向いたその人物を見て彗は驚いた。

(僕……?!)

もう一人の自分は彗のことを見下したような、冷たい目で見つめた。彗は思わずゾッとした。

(いや、顔は僕だけど僕じゃない。だって僕は……あんな顔したことない。あれは僕だけど……僕じゃない)

(あなたがやらないなら、ぼくがやります)

(な、何を……?)

すると、もう一人の自分はニヤリと笑った。その不適な笑みに彗は酷く嫌な予感がした。

一方、下を向いて固まっている彼を見て、イオは不思議そうにベッドから体を起こした。

「彗……どうしたの?」

すると、彼が顔を上げ、にこりと笑った。

「すみません、イオ。お待たせしてしまいましたね」

「ああ、良かった……急に黙り込むから、どうしたのかと思ったよ」

彼はそっと眼鏡を外し、床に投げ捨てた。

「イオ、ぼくがメンテナンスをすると思いましたか?」

「……えっ?」

「ふん、あなたはうとい子ですねぇ……自分を狙っている人間が他にもまだいることに、いまだに気づいていないなんて」

彼はそう言いながら不適な笑みを浮かべた。その表情を見てイオは驚愕きょうがくした。身の危険を感じて急いでベッドから降りた。

「彗……いつもと様子が違う……どうしたの?そんな顔、したことないよね?」

「ぼくはあなたのことを友達だと思っていました。でも、それは違うと気づいたんです。何故だか分かりますか?」

彼はイオを壁際に追い詰めると、最初に彼女の金色の髪に触れ、次に頬に触れた。イオの体が恐怖のあまりピクっと震えた。

「ハレーがあなたと関係を持っていた時、逐一ちくいちぼくに報告してくれたんです。あなたがどんな風にハレーの愛撫に感じて、どんな風に甘い声を上げて、どんな風に果てたのか。もちろん最初は真剣に、また興味深く聞いていましたよ。いつも純粋で可愛らしいあなたが、ベッドの上ではどんな風に乱れるのか、興味がありましたからねぇ」

彼はそう言って頬に触れていた手をゆっくりと首筋に滑らせた。イオの体がまたピクっと震える。

「でも、毎日聞かされている内に段々と黒い感情が湧いて来たんですよ。それは日に日に大きくなった。やがて、あなたはハレーとの関係を解消して雄飛くんの元へ戻りました。知っていましたか?ぼくの研究室ではあなた達が事に及んでいる声がよく聞こえるんですよ。すぐ隣ですからね。それを毎日聞かされる度にぼくは気が狂いそうになった。そうして気づいたんです。ぼくはあなたを友達としてではなく、女として見ていたってことにね」

イオの顔からサッと血の気が引いた。彼がこれから何をしようとしているのかを悟ったのだ。逃げようと咄嗟とっさに体を動かした。が、彼は両手を壁に付き、彼女の動きを封じた。

「逃げようとしても無駄ですよ。今のぼくはあなたが知っているいつもの……ヘラヘラしていてバカで間抜けなぼくじゃない」

真っ黒で不適な笑みを浮かべて自分を見下ろす彼に怯えながらも、イオは必死に口を開いた。

「す、彗は?!彗はどこにいるの?!あなた一体誰なの?!」

「彗?ああ、あの子なら今頃ぼく達の様子を見てるんじゃないですか?指をくわえながらね」

イオは恐怖のあまり全身を震わせた。が、彼の胸元を掴むと思い切り揺さぶりながら必死に呼びかけた。

「ねえ!彗ってば!どうしちゃったの?!ねえ!彗ってば……っ」

「……うるさい。ふん、黙らせるしかないようですね」

イオが言い終わらない内に彼は彼女の両手を掴んで動きを制止すると、その唇を塞いだ。自分の唇で。イオは驚きと恐怖のあまり動けなくなった。震える彼女を彼は強く抱き締めると、耳元に唇を寄せた。

「ああ……イオ、ずっとこうしたかった……」

そして、震えているイオの首筋にキスを落とし、ニットワンピースの上からそっと膨らみに触れた。イオはハッとすると、両手で彼の両肩を掴んで必死に抵抗した。

「い、いや!やめて!」

しかし、彼は全く動じない。抵抗する彼女には全く構わずに、彼女の膨らみをゆっくりと揉んで優しく愛撫した。

「ああっ、や、いやぁ!彗、やめて!んんっ」

感じやすく敏感なイオは必死に抵抗しながらも体の奥が徐々に熱を帯びてくるのを感じ、動揺した。微妙に変化していくイオの反応に、彼は顔を上げるとニヤリと笑った。

「……ぼくはハレーや雄飛くんと違って小柄ですけど、力はそれなりにあるんですよ?」

そう言って、抵抗するイオの両手を上に上げ、思い切り壁に押し付けた。そして、白衣のポケットから紐を取り出すと器用にイオの腕を縛った。

「っ?!」

「こういうの、好きなんでしょう?知っていますよ。いつもあなた達が盛り上がってるのを耳にしてますからねぇ。すぐ隣で」

息を飲んだイオの唇を再び塞ぐと、ニットワンピースをたくし上げた。そして、内側に手を入れて下着をずらし、膨らみを直に愛撫した。イオの体がピクンと跳ねる。

「あぁんっ」

彼は膨らみや先端の突起を愛撫しながら、イオの顔を覗き込んだ。イオは込み上げる快感に耐え、目を瞑り、頬を真っ赤に染めて必死に声を押し殺していた。

「んんっ……だ、だめぇっ……」

「ああ、そんな表情をするんですか。なんていやらしい……普段のあなたからは想像もつきませんねぇ」

彼は目を細めてうっとりした表情を浮かべ、愛撫に必死に耐えるイオの顔をじっと見つめた。

「いいですよ、イオ。もっとぼくに見せてください。いつもと違うあなたの顔を……」

そう言って、彼はイオの下腹部に手を伸ばした。イオはハッとして首を横に振った。

「そ、そこは!やだ、やだ……やめてっ!」

「ふぅん……こんな所に刻印しるしを入れるなんて……雄飛くんはいやらしい男ですね」

彼はそう言って内腿うちももの深い場所に刻まれた数字を指先でなぞった。イオの体が震えた。

「やぁんっ」

彼は次に下着の中に手を入れると、驚いた様子で言った。

「なるほど。ハレーが言っていたのは本当のことだったんですね……」

そして、溢れ返る蜜壺みつつぼに指を入れ、ゆっくりと優しく中をかき混ぜた。

「あっ……あぁっ……やんっ」

快感には勝てないようで首を横に振りながらもイオは堪らず甘い声を上げた。彼はイオの中を優しく愛撫しながら耳元に唇を寄せた。

「……ハレー、言ってたんですよ。イオは凄く感じやすいって。すぐに濡れて溢れてしまう……って。本当にその通りなんですね」

「ゃっ……ち、ちが……そんなこと……あぁん」

イオは必死に否定しようと尚も首を横に振るが、蜜壺からは次々に甘い蜜が溢れて来る。

「違う?そう言いたいんですか?でも、説得力ありませんよ。まったくね……ほら」

彼はそう言うと意地悪そうな笑みを浮かべ、指の動きを早めた。その途端、イオは体の奥底から激しいうずきが込み上げて来るのを感じた。

「はぁんっ!もうだめ、アタシ、ああっ!」

「イオ、体が震えてますよ。イキたいんでしょう?」

耳元で甘く囁く彼の声にイオは切羽詰まった様子で何度も頷いた。彼は目を細め、うっとりした表情を浮かべると指を激しく動かした。

「いいですよ。ぼくにも見せてください。あなたの一番いやらしくて可愛いらしい顔を」

「あぁっ……すい……んん~~!!」

果てる瞬間の甘く切ない声でイオに名前を呼ばれた彗はハッとした。ずっと想い焦がれていた彼女の淫らな姿を目の当たりにした彗は真っ赤な顔をして頭を抱えた。酷く胸が苦しく、心をき乱された。

(ああ、ああ……イオ……君はこんな……こんな表情で……ああ、僕は……!)

彗はもう一人の自分がイオを犯すのをずっと見ていたのだ。

(イオはずっと僕を呼んでた……必死に抵抗しながら……でも、僕は……止めようともしなかった……)

彗はその時、自分の中に生まれたドス黒い感情の正体に気づいた。そして、そのドス黒い感情が人格化した姿こそ、もう一人の自分だということも。

(遅いですね……ようやく気づいたんですか?ぼくが彼女を犯すまで気づかなかったなんて……本当にあなたは鈍感で、間抜けですね)

いつの間にかもう一人の自分が目の前に現れ、腕を組んで彗を見下ろしていた。

(近頃のあなたは劣等感の塊だ。他のメンバーは色々なものを乗り越えて成長していき、絆を深めて行くのに、あなただけがその輪の中に入れない。自分は臆病で何も行動しない。自分は無能な人間。そうやっていつも自分を責め、誰にも会わずに殻に閉じこもっている)

彗は何も言い返せなかった。全て当たっているからだ。今、彼はメンバーやアンドロイド達と顔を合わせないように過ごしていた。シリウスの一件で、何も出来なかった自分に対しての後ろめたさがあった。

(あのハレーだって今はもう立派なひとりの男です。ベネラの夫であり、志希しきの父親です。彼は成長し、独り立ちしていきました。あなたの手を一切借りずにね。情けないったらないですよ。自分の担当のアンドロイドを管理できないなんて)

彼は吐き捨てるようにそう言うと彗を馬鹿にしたように鼻で笑った。

(そうやって殻に閉じこもってばかりいるなら、ぼくが表へ出ていきます)

彼がきびすを返したので、彗は驚いて顔を上げた。

(ちょっ、ちょっと待って!出ていって……何をする気なの?!)

彼はくるりと振り返ると、再び不適な笑みを浮かべた。

(何をする気……ですって?ぼくは、あなたの中にあるドス黒い……『闇』の感情ですよ?じゃあ、何をしようとしているのか分かりますよね?)

そう言って彼の愛撫に悶え続けているイオの顔をうっとりした表情で眺めると、彼は唇をぺろりと舐めながら言った。

(最後の『仕上げ』ですよ。ほら、彼女……もの欲しそうな顔、してるじゃありませんか……)

彼の言葉の意味を理解した彗は首を大きく横に振った。

(だ、だめです!やめてください!それだけは……!)

彗は彼の手を必死で掴んだ。

(今更何を言ってるんです?あなたが望んだことでしょう?)

(お願い!それだけは……!僕は雄飛くんとシリウスを……何よりイオを傷つけたくないんだ……!だから、今まで必死に感情を抑えていたんだ!)

(……ごちゃごちゃうるさいですね)

彼は彗の手を乱暴に振り解くと、再びイオの元へ戻って行った。彗は頭を抱えて叫んだ。

(やめろーー!!)




「っ?!」

彗は飛び起きた。汗をびっしょりとかいた寝巻きは湿っていて、額からも大粒の汗が流れ落ちた。

「またこの夢……」

彗は肩で息をしながら、寝巻きの袖で額の汗を拭ったのだった。
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