アンドロイドの歪な恋 〜PROJECT I〜

松本ダリア

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第6話 問題児のアンドロイド 後編

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「要注意人物」ハレーがあろうことかイオの実験相手になると聞いて、雄飛は酷く動揺していた。何故なら彼はイオの相手をするのは自分しかいないと心に決めていたからだ。

水端流みずはしりゅうを中心としたプロジェクト上層部は計画方針以外のアンドロイドの見た目や性格などは基本的にメンバーに任せていた。だからまさかイオの実験相手を上層部に決められてしまうとは思いもよらなかったのだ。

(何でだ……しかも、よりによって相手がハレーだって?)

雄飛は想像した。大柄でガタイの良いハレーがイオに覆い被さり嫌がる彼女を欲望のままに弄び、乱暴に事に及ぶ様を。雄飛は悔しさと怒りのあまり思わず唇を噛み締め、拳を握り締めた。

(くそ……冗談じゃない。俺だってまだイオを最後まで抱いてないのに)

そして、水端流に向かって低い声で尋ねた。

「何でハレーなんです?」

「それは決まっておる。ハレーの身体能力が高いからだ。君が作ったイオはとても健康的で優秀だから、強くて元気な子供を産んでもらいたいのだよ」

雄飛は返す言葉が見つからなかった。確かにハレーは粗暴そぼうで性格は最悪だが、強い。格闘技、剣術はもちろん、様々な武器も使いこなすし、スポーツだって得意だった。

彗が間違えてしまったその「要注意人物」は元軍人だった。彼は非常に優秀で強く、上官や仲間達から一目置かれていたが、ある日重大な暴力事件を起こして軍を退いた経験があった。コアが送られてきたら、身元を調べることになっているのだが、その際に判明した。だから「要注意人物」として避けられていたのだ。イオとハレーがいない時に、雄飛は彗に尋ねた。

「何でコアを処分しなかったんだ?要注意人物として避けておくぐらいなら処分した方がいいだろ」

「父が残しておけって言ったんです。僕は反対したんですけど、身体能力が高いからもったいないって……。コアの取り違えに気づいた時も僕はすぐに父に報告したんです。起動する前にアンドロイドを廃棄はいき処分するべきだと」

「でも、水端教授は聞かなかった。もったいない。何かの役に立つだろう。とりあえず起動してみろと」

雄飛の言葉に彗はうなだれながら言った。

「仰る通りです……。父は昔からやたらと倹約けんやく癖があって『もったいない』が口癖でした。こんなことにまで発揮しなくてもいいのに……雄飛くん、本当にごめん。僕のせいでイオが危険な目に遭ってしまうかもしれない」

彗の目から涙がこぼれた。彼は続けた。

「イオが嫌な思いをしないよう、僕が責任を持ってハレーをきちんと見張ります。でも……君も見ただろう?ハレーはとんでもない奴なんです。下手に刺激したら……殺されるかもしれない」

「ああ、分かってる。でも、大丈夫だ。俺はハレーには負けない。例え殴られても殺されてもイオを全力で守る」

「雄飛くん、殺されたら守れないですよ……」

「ははっ大丈夫だ。化けて出てやるさ」

イオと彗とは違い、雄飛はハレーのことを怖いとは思わなかった。それよりもイオに危険が及ぶかもしれないということの方が何よりも心配で不安だったのだ。だから、いざとなればハレーに立ち向かう覚悟でいた。しかし、雄飛もきたえてはいるが、ハレーには到底敵わない。それは分かっていた。

(いざとなったら本当に死ぬ覚悟で立ち向かうしかないか)

雄飛は隣にいるイオを見た。彼女は明らかに怯えており、体を震わせて拒否反応を示していた。

「イオの担当として正直に言わせて頂きますが、彼女はハレーを怖がっています。嫌がる相手と無理矢理実験をさせるというのはどうなのでしょう。俺はあまり良いことだとは思いません。最悪の場合、イオの健康状態に悪影響を及ぼし兼ねません」

「うむ。確かに君の言うことも一理ある。では、ハレーはどう思っているか聞いてみようではないか。おいハレー、お前はどう思う?」

すると、それまで黙っていたハレーが口を開いた。

「さっきから聞いてりゃ、お前ら寄ってたかってオレを馬鹿にしやがって。だがな、お前らがオレを怖いとか嫌いとかそんなことオレには知ったこっちゃねえ。お前らの気持ちなんてどうでもいいんだよ。オレはな、初めて会った時からイオを気に入ってんだよ。そしたらもうヤルしかねーだろ。オレにとっては好都合だぜ」

そして、イオの肩に手を掛け、前髪を乱暴に引っ張り顔を上向きにさせると耳元で低い声で言った。

「おい、イオ。思う存分可愛がってやるから覚悟しとけよ」

「……い、いや」

イオはそう呟いて首を横に振り、体を震わせた。

「ハ、ハレー!イオを怖がらせるのはやめてください!」

彗が慌てて言ったが、ハレーはイオの髪の毛をしつこく撫で回しながらニヤニヤと下卑げびた笑みを浮かべるだけだった。全く動じてない。雄飛はハレーのいやらしい手を乱暴に払い除け、イオを抱き寄せた。誰がどう見てもハレーの相手はイオには酷だと思われた。しかし、水端流はふむ、と納得したように頷くと言った。

「まぁ……とりあえずやってみてくれ。実験は明日から始める。今日は各自、準備を進めるように。もし、どうしても無理ならまた対策を考えようではないか。では、諸君。引き続き、プロジェクトに励むように」

そして、軽く手を振ると去って行った。

残された者達の間に絶望的な沈黙が流れた。しかしただ一人、真逆の表情を浮かべる者がいた。ハレーは楽しそうにニヤニヤと薄気味悪い笑顔を浮かべていたのだった。
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