混血エルフ アフネス奇譚

シャーロット乙女子

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後章

後章その2 別離と出会い 新たな旅へ

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 フリムラフ軍の先頭にいるのは、頭をツルツルに剃りあげた筋骨隆々の大男だった。
 へローフ教の白い法衣の両袖を引きちぎり、大きく胸元を開け、盛り上がった筋肉を見せつけていた。

「まーた、いい獲物が引っ掛かったぜい。
 エルフに猫人か…
 お前達だな?5年前にペペイン司教をった奴は。」

 筋肉男は、片手に何かの骨付き肉を持ち、それをかじりながら話しかけてきた。
 首元をよく見ると、見覚えのあるネックレスをしている。

「それはリザードマンのネックレス!?」

 父が気付き、その筋肉男に向かって言った。

「そうさ。近頃、亜人どもときたら、皆、ドラークとやらの所に行きたがる。
 だから此処で待ち伏せしていると、次々と獲物がやって来てくれる…楽なこった!」

「獲物だと!?」

「亜人なんて俺達にとっちゃ人じゃねえんだよ!その辺の動物と一緒さ。だからリザードマンも狩った。
 リザードマンの骨や皮は加工して色んな使い道があるし、肉も中々におつな味なんだぜ。」

 (まさかアイツが食べてる、あの肉…)

「まさか、お前が持ってる肉は!?」

 父も私と同じ事を思ったらしく、筋肉男に尋ねた。

「おお、察しがいいねぇエルフ君よ。そうさ、リザードマンの肉で、こいつが最後さ。
 これは、確かメスのガキの肉だったかな?」

「この悪魔め!!」

「俺達にとっちゃ、お前達エルフや獣人の方が悪魔なんだよ!
 さあ、大人しく狩られやがれ!!」

 我々、猫人族が弓を構えるより早くフリムラフ軍は石を投げてきた。
 距離が縮まった上での不意討ちなので、投石はかなり有効だった。
 石に当たって、仲間の猫人族がバタバタと倒れた。
 我々は弓を捨てて短剣で戦うこととなった。
 せっかく修練した弓を不意討ちによって台無しにされてしまったので仕方がなかった。
 一対一では身体能力に勝る我々であったが、数が違いすぎた。圧倒的多数のフリムラフ軍に、あっという間に押されていった。
 祖父の猫人族族長へルマンも、短剣を両手持ちして奮戦していたが、フリムラフの大軍に囲まれ、直ぐに姿が見えなくなった。
 更に、筋肉男が振るう大剣の威力は凄まじく、この筋肉男には一対一でもかなわなかった。
 仲間の猫人族は、一人、また一人と倒れていった。

「敵の大将を狙うニャ!!」

 母が果敢にも筋肉男に飛び掛かっていったが、その振るう大剣に弾き返されてしまった。
 胸の部分を大きく斬られてしまっていた。

「ママ!!」
「フランカ!!」

「…アフネス…逃げニャさい…お前は…生きる…のよ……」

「…そんな、ママ!ママーーッ!!」

「…フランカ…
 くっ、アフネス!私が活路を開くからお前は全力で駆け抜けろ!!」

 近距離でも父の腕前ならば弓も有効だった。
 目にも止まらぬ速さで矢をつがえ、次々と敵を射倒していった。
 しかし、背負っていた大きなかご一杯に入れていた矢も残り少なくなっていた。

「イヤだ、私も残る!一人だけ生き残るなんて…」

 その時、雷鳴がとどろき、空が閃光で満たされた。
 幾条もの稲妻が凄まじい振動を伴って地に落ちていった。
 雷?晴れているのに?
 文字通りの青天せいてん霹靂へきれきだった。
 雷は幾度もフリムラフ軍の中に落ち、そのたびに叫び声が上がった。
 フリムラフ軍は大いに崩れ、その崩れた間から新たな軍勢が現れた。
 敵の増援?いや違う。
 その二頭の龍の旗印を掲げた軍勢はフリムラフ軍を蹴散らしていく。

「リシャルト・ドラーク見参!!」

 その軍勢の中の、一際ひときわ大きな黒馬に跨がった銀色の鎧をまとった男性が叫んだ。
 あれがドラーク公!話に聞いていたドラーク公の軍が助けに来てくれた!!

「ええい、小癪こしゃくな!体勢を立て戻せ!弓隊、前へ!!」

 筋肉男が指揮すると、多数のフリムラフ弓兵達が一斉にドラーク軍に矢を射掛けた。
 ドラーク軍も崩れ、たちまち乱戦になった。
 せっかくの救援だが、大多数のフリムラフ兵に阻まれ、ドラーク軍は中々こちらまで届かない。

「ふむ、これで良かろう。弓隊!次は、あのエルフの父娘をて!!」

「アフネス!!!」

 私の目の前は一瞬暗くなった。
 気付くと、父が私をかばうようにおおかぶさっていた。
 父の肩先から顔を出して覗くと、父の背に何本もの矢が突き刺さり、まるで針のむしろのようだった。

「イヤーッ!パパ!!パパーーッ!!!」

「フッ、しぶとい奴め!まだ生きてやがる。今度こそ娘もろともとどめを刺してやる!弓隊、て!!」

「ウッ、ウゥッ、みんな、みんな消えちゃえーっ!!」

 私が叫んだところ突風が沸き起こり、フリムラフ弓兵達の放った矢が空高く舞い上がって遥か後方に飛んでいった。
 そして大地が割れ、その割れ目にフリムラフ兵達が吸い込まれるように落ちていった。

「…アフネス…今のは…風の魔法と…土の魔法…そうか…消したのではなく…魔法を奪っていたんだな…
 その奪った魔法を…使えるのか…凄い…じゃない…か……」

「クソッ、この混血ハーフエルフの小娘が!俺が直々に引導を渡してやる!!」

 筋肉男は地の底に落ちるのをまぬがれており、大剣を持って私の方に近づいてきた。

「雷の魔法!迅雷撃じんらいげき!!」

「ギャアアアァーーーッッ!!!」

 一筋の青白い雷が筋肉男の頭上に落ち、筋肉男は丸焦まるこげになって、ゆっくりと倒れていった。
 知らぬ間に、目の前に背の高い褐色肌の女性が立っていた。その右手に小さな稲光の残像が残っている。
 先の尖った長い耳をしている。この人もエルフだ!

「お願い!パパを助けて!!」

 私はその褐色肌の女性に懇願こんがんしたが、女性は小さく首を横に振った。

「そんな…パパ!しっかりしてパパ!!」

「…この人達と行きなさい…アフネス…お前の…お前の力を貸してあげなさい…そして……」

「パパ!?」

「…愛して…いる…ア…フ……ネ………」

「パパーーッ!!
 …もっと、もっと早く気付いていれば!
 奪った魔法を使えることに!!
 そしたら、パパも、ママも、猫人族の皆も…
 あああーーーっっ!!!」

 どれくらい泣いていただろうか。大将を失ったフリムラフ軍は敗走し、戦いはドラーク軍の勝利に終わった。
 戦いの後に降りだした雨が私の全身を濡らしていた。
 その褐色肌の女性は、ずっとそばに立っていて、私が泣き止むのを待っていた。

「……アフネス、私達の元へ来なさい。
 こんな悲劇を終わらせるために、あなたの力を貸して欲しい。」

 泣き止んだ私に、その女性は話しかけてきた。

「……あなたは…?」

「私はリーセロット。褐色ダークエルフのリーセロットよ。
 私が仕えるドラーク公は、この世に安寧をもたらそうとしておられるわ。」

「安寧…」

「そう、亜人を含む全ての人々の安寧よ。その為にはフリムラフを滅ぼさないといけないわ。
 見てたわ、あなたの魔法。
 あなたの魔法を役立てて欲しいの。」

「…アフネス…お前が授かったその魔法が、いつか多くの人の役に立つ時が必ずやってくる…」

 (…パパ…)

「判ったわリーセロット。私、あなたと、あちらにおわすドラーク公の元へ行くわ!」


「……アフネス…アフネス!コラッ、アフネス!!」

「ん?何じゃ、またリーセロットか?
 おや?ララもいるのかや?」

 アフネスは、またしわがれた老女のような声で言った。
 アフネスが突っ伏していた机から顔を上げると、リーセロットの横に、リーセロットよりやや背の低い、細身の褐色肌の女性が立っていた。頭にターバンを耳が隠れる程に巻いている。
 リーセロットと同じ褐色ダークエルフのララである。

「また人払いしてるわ。老けた演技はよして、アフネス」

「はーい、判ったリーセロットちん。」

と、アフネスは本来の姿に似つかわしい若々しい声で答えた。

 「…で、何じゃ、じゃないわ!アフネス、あなたまた仕事中に居眠りして!!」

「だーかーらー、猫人族の血は眠いのを我慢出来ないのー。」

「もう!…まあ、いいわ。さ、アフネス、今から私とあなた、ララの3人で明日の段取りについて話し合うわよ。
 高位ハイヤーエルフ様をお迎えするにあたってのね!」

「えーっ!もう今日の勤務時間が終わる時刻だよー。」

「何を!殆ど居眠りしていたくせに!
 今から残業よ、残業!!」

「ブーッ、ブーッ、それは横暴だー!
 ララちん、笑ってないで何か言ってよー。」

「私もリセと同意見ですよ。
 さ、意見がまとまるまで、夜を徹してでも話し合いましょう!」

「ひええぇぇーーーっっ!!」

 (…パパ…ママ…久しぶりに夢で逢えて嬉しかったわ。
 もう少し待っててね…
 パパとママが望んだ安寧で平和な世界は、もうすぐ、必ずやってくるから…)

    混血ハーフエルフ アフネス奇譚  完
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