65 / 87
第四章~帝都編~
第64話『使者』
しおりを挟む
ベレイド子爵家における酒宴も酣の頃、帝国摂政エフェリーネは、ある人物を謁見していた。
しかし、謁見の人物はラウムテ帝国の貴族でも臣民でもない。
その人物は他国の使者であった。
他国の使者はただ一人で供も連れていなかった。
その使者は
年齢40歳がらみ
綺麗に整えた茶色短髪
口髭を生やした
中肉中背
の見るからに紳士然とした男性であったが、エフェリーネとその秘書官リーセロットが待つ執務室に入るなり、二人の目前で
身長約170cm
ずんぐりむっくりな体型
焦げ茶色のボサボサ短髪
目の周りと鼻の頭が黒い
まるっきりの別人の姿の男性に変化した。
この男性、頭上に獣のような半円形の耳を持ち、腰部から髪色と同じ焦げ茶色の毛並みを持つ太い尻尾が生えている。所謂獣人種の男性らしい。
「お初にお目にかかりやす摂政殿下。
あっしはステルクステ騎士団団長ペトラ・リデルの副官、アードルフと申しやす。以後お見知りおきを。」
「お久し振りですね、アードルフ殿。」
「へい、お久し振りでやんすね、リーセロット殿。」
リーセロットは、いつも耳を隠すように深く被っているウシャンカ帽を今は被っていない。
どうやら旧知の間柄らしく、エルフである事を隠さなくてもよい相手のようだ。
「アードルフ殿、変化の魔法をお使いになってお姿を変えておられたのは、やはりへローフ教の連中の目を眩ませるためですか?」
「へい、さいでやんす。あっしの面は随分と奴らに有名らしくて…
それはさておき本題に入らせて頂きやす。
我がステルクステ騎士団領はラウムテ帝国との攻守同盟を白紙に戻し、名誉ある中立国へと戻ることとなりやした。」
「……元々母上の…ヨゼフィーネ大帝の生ある限りということでしたものね、この同盟は…」
「ええ、さいでございやす摂政殿下。
この同盟は我が団長ペトラとヨゼフィーネ陛下の個人的友誼より発したもの。
ですので、ヨゼフィーネ陛下が御崩御なさった今、無効となるのは当然のことで。」
「…同盟継続の交渉の余地は無いのでしょうか?」
「へい、団長ペトラは同盟締結の際の御使者の一人であられた、そちらのリーセロット殿と久し振りに会いたいと申しておりました。
それと、何やら近頃帝国内で噂の、白金色の髪のエルフ少女とも会いたいと。
お二人が来て頂けるのなら、その折にでも話してみれば良いかと存じやす。」
「私はともかく、マイカ殿まで何故に…?」
「リーセロット殿は御存知の筈。我が団長ペトラが女の身でありながら、男よりも女性の方を好む嗜好の持ち主であることを…
あと、そのマイカ殿でやんすか?マイカ殿が飼い慣らしたケルベロスの子も見たいと申しておりました。」
「…同盟締結の際には、母ヨゼフィーネ大帝が直々にステルクステ騎士団領に向かいました。ですので今回は、妾がリーセロットと貴国へ向かおうと思うのですが。」
「へい、ペトラは今の皇帝陛下や摂政殿下には興味がない…いや失礼、失礼ながらそう申しておりやして、来て頂くのはリーセロット殿と、そのマイカ殿、そしてケルベロスの子だけで結構でございやす。」
「…判りました、リーセロットとマイカ、ケルンの3名を貴国へ派遣致します。」
「早速の御返答忝のうございやす摂政殿下。
交渉の結果に関わらず、その御三方の身の安全については、我がステルクステ騎士団の名誉にかけて保障させて頂きやす。」
「その点については心配しておりません。誉れ高きステルクステの皆さんが闇討ちのごとき真似など絶対にしないことを妾も知っています。
ですので他の随行員も付けずに、その3名のみで向かわせようと思います。」
「へい、我がステルクステ騎士団を上げて歓迎致しやす。」
「…御用件は以上でしょうか?使者殿。」
「へい、左様でございやす摂政殿下。」
「それでは、急のお越しゆえ充分なもてなしの準備は出来ておりませんが、どうぞ今宵はお泊まり下さい。
当皇宮においては天然温泉が湧いております。どうか旅の疲れを癒して下さい。」
「お心遣い感謝致しやす摂政殿下。
しかし、一刻も早く御返答をペトラの元へ持ち帰りたいので、あっしはこれにて失礼致しやす。」
そう言ったアードルフの目が妖しく光り、アードルフの姿が、現れた当初と同様の
年齢40歳がらみ
綺麗に整えた茶色短髪
口髭を生やした
中肉中背
の見るからに紳士然とした常人の男性の姿に変化した。
「では、これにて。」
と、一言残してアードルフは摂政執務室から去っていった。
第64話(終)
※エルデカ捜査メモ〈64〉
ステルクステ騎士団領はラウムテ帝国北西と境を接する約300名の騎士が治める小国である。
国民皆兵策を施き、ラウムテ帝国との攻守同盟締結前は長年に渡り中立を保ってきた。
領域北方をへローフ教を国是としたフリムラフ教国と接しており、度々フリムラフ側からの侵攻を受けてきたが、その都度撃退している。
ステルクステ騎士団団長ペトラの副官アードルフは狸人族と呼ばれる獣人種の男性で年齢は41歳。20歳の頃よりペトラの副官を務めており、そのずんぐりむっくりな体型やおっとりした見た目の雰囲気などからは想像出来ないほど戦闘においては凄まじい力を発揮し、巨大な戦闘斧を軽々と振り回して敵勢を刈る姿は、味方からも戦慄を持って見られている。
フリムラフ教国、へローフ教の者達はアードルフのことを
狸の皮を被った鬼人
と呼び、恐怖と憎悪の対象としている。
しかし、謁見の人物はラウムテ帝国の貴族でも臣民でもない。
その人物は他国の使者であった。
他国の使者はただ一人で供も連れていなかった。
その使者は
年齢40歳がらみ
綺麗に整えた茶色短髪
口髭を生やした
中肉中背
の見るからに紳士然とした男性であったが、エフェリーネとその秘書官リーセロットが待つ執務室に入るなり、二人の目前で
身長約170cm
ずんぐりむっくりな体型
焦げ茶色のボサボサ短髪
目の周りと鼻の頭が黒い
まるっきりの別人の姿の男性に変化した。
この男性、頭上に獣のような半円形の耳を持ち、腰部から髪色と同じ焦げ茶色の毛並みを持つ太い尻尾が生えている。所謂獣人種の男性らしい。
「お初にお目にかかりやす摂政殿下。
あっしはステルクステ騎士団団長ペトラ・リデルの副官、アードルフと申しやす。以後お見知りおきを。」
「お久し振りですね、アードルフ殿。」
「へい、お久し振りでやんすね、リーセロット殿。」
リーセロットは、いつも耳を隠すように深く被っているウシャンカ帽を今は被っていない。
どうやら旧知の間柄らしく、エルフである事を隠さなくてもよい相手のようだ。
「アードルフ殿、変化の魔法をお使いになってお姿を変えておられたのは、やはりへローフ教の連中の目を眩ませるためですか?」
「へい、さいでやんす。あっしの面は随分と奴らに有名らしくて…
それはさておき本題に入らせて頂きやす。
我がステルクステ騎士団領はラウムテ帝国との攻守同盟を白紙に戻し、名誉ある中立国へと戻ることとなりやした。」
「……元々母上の…ヨゼフィーネ大帝の生ある限りということでしたものね、この同盟は…」
「ええ、さいでございやす摂政殿下。
この同盟は我が団長ペトラとヨゼフィーネ陛下の個人的友誼より発したもの。
ですので、ヨゼフィーネ陛下が御崩御なさった今、無効となるのは当然のことで。」
「…同盟継続の交渉の余地は無いのでしょうか?」
「へい、団長ペトラは同盟締結の際の御使者の一人であられた、そちらのリーセロット殿と久し振りに会いたいと申しておりました。
それと、何やら近頃帝国内で噂の、白金色の髪のエルフ少女とも会いたいと。
お二人が来て頂けるのなら、その折にでも話してみれば良いかと存じやす。」
「私はともかく、マイカ殿まで何故に…?」
「リーセロット殿は御存知の筈。我が団長ペトラが女の身でありながら、男よりも女性の方を好む嗜好の持ち主であることを…
あと、そのマイカ殿でやんすか?マイカ殿が飼い慣らしたケルベロスの子も見たいと申しておりました。」
「…同盟締結の際には、母ヨゼフィーネ大帝が直々にステルクステ騎士団領に向かいました。ですので今回は、妾がリーセロットと貴国へ向かおうと思うのですが。」
「へい、ペトラは今の皇帝陛下や摂政殿下には興味がない…いや失礼、失礼ながらそう申しておりやして、来て頂くのはリーセロット殿と、そのマイカ殿、そしてケルベロスの子だけで結構でございやす。」
「…判りました、リーセロットとマイカ、ケルンの3名を貴国へ派遣致します。」
「早速の御返答忝のうございやす摂政殿下。
交渉の結果に関わらず、その御三方の身の安全については、我がステルクステ騎士団の名誉にかけて保障させて頂きやす。」
「その点については心配しておりません。誉れ高きステルクステの皆さんが闇討ちのごとき真似など絶対にしないことを妾も知っています。
ですので他の随行員も付けずに、その3名のみで向かわせようと思います。」
「へい、我がステルクステ騎士団を上げて歓迎致しやす。」
「…御用件は以上でしょうか?使者殿。」
「へい、左様でございやす摂政殿下。」
「それでは、急のお越しゆえ充分なもてなしの準備は出来ておりませんが、どうぞ今宵はお泊まり下さい。
当皇宮においては天然温泉が湧いております。どうか旅の疲れを癒して下さい。」
「お心遣い感謝致しやす摂政殿下。
しかし、一刻も早く御返答をペトラの元へ持ち帰りたいので、あっしはこれにて失礼致しやす。」
そう言ったアードルフの目が妖しく光り、アードルフの姿が、現れた当初と同様の
年齢40歳がらみ
綺麗に整えた茶色短髪
口髭を生やした
中肉中背
の見るからに紳士然とした常人の男性の姿に変化した。
「では、これにて。」
と、一言残してアードルフは摂政執務室から去っていった。
第64話(終)
※エルデカ捜査メモ〈64〉
ステルクステ騎士団領はラウムテ帝国北西と境を接する約300名の騎士が治める小国である。
国民皆兵策を施き、ラウムテ帝国との攻守同盟締結前は長年に渡り中立を保ってきた。
領域北方をへローフ教を国是としたフリムラフ教国と接しており、度々フリムラフ側からの侵攻を受けてきたが、その都度撃退している。
ステルクステ騎士団団長ペトラの副官アードルフは狸人族と呼ばれる獣人種の男性で年齢は41歳。20歳の頃よりペトラの副官を務めており、そのずんぐりむっくりな体型やおっとりした見た目の雰囲気などからは想像出来ないほど戦闘においては凄まじい力を発揮し、巨大な戦闘斧を軽々と振り回して敵勢を刈る姿は、味方からも戦慄を持って見られている。
フリムラフ教国、へローフ教の者達はアードルフのことを
狸の皮を被った鬼人
と呼び、恐怖と憎悪の対象としている。
11
あなたにおすすめの小説
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
社会の底辺に落ちたオレが、国王に転生した異世界で、経済の知識を活かして富国強兵する、冒険コメディ
のらねこま(駒田 朗)
ファンタジー
リーマンショックで会社が倒産し、コンビニのバイトでなんとか今まで生きながらえてきた俺。いつものように眠りについた俺が目覚めた場所は異世界だった。俺は中世時代の若き国王アルフレッドとして目が覚めたのだ。ここは斜陽国家のアルカナ王国。産業は衰退し、国家財政は火の車。国外では敵対国家による侵略の危機にさらされ、国内では政権転覆を企む貴族から命を狙われる。
目覚めてすぐに俺の目の前に現れたのは、金髪美少女の妹姫キャサリン。天使のような姿に反して、実はとんでもなく騒がしいS属性の妹だった。やがて脳筋女戦士のレイラ、エルフ、すけべなドワーフも登場。そんな連中とバカ騒ぎしつつも、俺は魔法を習得し、内政を立て直し、徐々に無双国家への道を突き進むのだった。
俺、何しに異世界に来たんだっけ?
右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」
主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。
気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。
「あなたに、お願いがあります。どうか…」
そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。
「やべ…失敗した。」
女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る
ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。
異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。
一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。
娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。
そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。
異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。
娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。
そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。
3人と1匹の冒険が、今始まる。
※小説家になろうでも投稿しています
※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!
よろしくお願いします!
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる