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1話
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ベッドで寝ている女性が一人。
そして彼女の頭部近くに、拳くらいの大きさの黒い球状の物体が浮遊している。
その物体から機械的な音声がでる。
「朝です。遊佐。起きてください。」
「朝です。遊佐。起きてください。」
ベッドの中の女性は目を覚ます。
まだ意識がはっきりしない状態で黒い球状の物体に返事する。
「もう起きるから、何度も言うのはよして。グッチ。」
黒い球状の物体はグッチという名前だ。
「起きてません。朝です。遊佐。起きてください。」
「朝です。遊佐。起きてください。」
グッチは彼女が完全に起きるまで止めないようだ。
繰り返し聞かされることに嫌気がさした彼女はついに
ベッドから起き上がる。
ブラウンの瞳、鎖骨まで伸びたブラウンの髪、毛先は少しウェーブしている、前髪は額の右端から別れ、左に流れている。身長は160センチ、細く引き締まった体つきをしている
彼女は遊佐賀奈子。年齢22歳。
遊佐が起きたのを確認したグッチは
「転送室で北海が待ってます。急ぎ支度して向かってください。今現在予定時刻から43分の遅れです。」
「43分の遅れです。」
「44分の遅れです。」
やっと復唱を止めたかと思えばまた復唱し始める。
遊佐はめんどくさいと感じながらグッチに返事を返す。
「わかったってば。急ぐから何度も言うのはやめて。」
そう遊佐が言うとグッチは沈黙する。
遊佐はふぅっと息を吐いて準備を始める。
洗面台で顔を洗う。額の髪の毛の生え際が黒くなっているのに気づく。
「髪の毛伸びたなー。また染めないと。」
遊佐の髪の毛は黒色である。しかし瞳の色がブラウンなので色を合わせるためにブラウンに染めている。ほんとは染める作業は面倒でやりたくないのだが、どうしても黒の髪とブラウンの瞳の組み合わせが合わないと感じるため仕方なくやっている。
部屋着のシャツを脱ぎ、黒のスーツへと着替えて部屋の外へ出る。
ドアを開けると、白く長い通路が横に伸びている。肉眼では通路の突き当りが豆粒のように小さくみえる
そしてその通路には一定間隔でドアがついて、突き当りまで並んでいる。
「確か転送室はE層150番だったかな。」
遊佐はグッチに尋ねる。
「そうです。至急向かってください。」
グッチは相変わらずだ
「わかったよ、もう。」
ここは地下施設だ
階層がA~M層まであり、各階層に300の部屋がある。転送室は施設の中心部にある。
遊佐が住んでいるのは地上に一番近いA層150番だ。
つまり一度通路の突き当りまで行き、E層までエレベーターで降りてまた150番の部屋まで向かわなければならない。
それだけでちょっと疲れるし意外と時間がかかる、すごく面倒だ。
「なんでもっと移動がしやすい構造をしてないんだろね。」
遊佐がグッチに話しかける
「。。。70分の遅れです。」
グッチは遊佐の言葉を無視してどれだけ遅れているかを詳しく伝えてくる。
遊佐はちょっとイラつきながらも返事する。
「わかったよ!もう。」
そして通路の端に向かって走り始める。
エレベーターを使いE層まで降りて150番の部屋まで向かう。何部屋か通り過ぎたところ150番の部屋から二人出てきているのを遠くから見かけた。
その二人はこちらに向かって歩いてくる。
二人との距離がだんだんと近づいてくると誰だかわかってきた。
青の瞳、顎くらいまでまっすぐ伸びた髪は金髪、下まつげまである前髪は横に流して片方の目の半分を覆っている。身長は165センチ、遊佐と同じく細く引き締まった体つきをしている。
名前は三島 重。年齢24歳。
もう一人は
黒の瞳、髪色はダークブラウン、栗のイガみたいにトゲトゲした感じで髪が立っている。
身長は180センチ、厚い胸板、太い腕と太い脚と引き締まった腹部と黒のスーツ姿でも綺麗な逆三角形の体系なのが見てわかる。
名前は鹿目 児島。年齢24歳
三島は自分の目の前で止まった遊佐に話しかける。
「あら、遊佐。」
続いて鹿目がちょっと面白そうに話す。
「遅刻かー。」
遊佐はゆっくりと深呼吸して息を整えた後に二人に返事する。
「寝坊しちゃって。」
そう言ってバツが悪そうな口調で二人に返事する。
三島と鹿目がやれやれという感情が読み取れるような表情で遊佐を見る。
その後すぐに鹿目が何かを察した顔をしながら三島に話しかける。
「あーどおりで博士がイライラしていたわけか。」
三島も事態を把握したという顔をして返事する。
「なるほどね。」
そして遊佐に話しかける。
「遊佐、急いだ方がいいわよ。少し前に博士は私たちが回収してきたサンプルを見に転送室を出たからしばらくは戻らないはずよ。」
「博士に鉢合わせする前に出発してきなさい。」
そう三島は遊佐に助言をする。
「ほんと!よし、じゃあすぐ出発しよう!ありがと!三島さん、鹿目さん!」
遊佐は三島の言葉を聞いた途端にやる気が満ち溢れた表情に変わり目の前の先輩二人にお礼を言いながら150番の部屋に駆けていく。
遊佐が150番の部屋に入っていったのを見た後、鹿目が三島に話しかける。
「遊佐大丈夫か?」
「、、たぶん。」
転送室に遊佐が入ると目の前に一人の女性が立っていた。
彼女の名前は北海 道。年齢29歳。
身長は164センチ、黒髪、前髪は右から左に横に
流して左右とも顎下まで伸びている。耳のあたりから後頭部までの髪は襟足のあたりでヘアゴムでまとめられてる。
瞳の色は黒で一重瞼、幸薄そうな顔をしている。
遊佐が転送室に入ってきたのに気付いた北海は遊佐に話しかける。
「遊佐、予定の時間に来なかったから心配したのよ。体調でも崩したの?」
そう尋ねる北海に、遊佐は申し訳なさそうに答える。
「いえ、寝坊しました。」
北海は普段よりも幸薄そうな表情からいつも通りの幸薄そうな表情に戻った。
「ならよかった。、、、本当に体調悪かったりしない?」
北海は遊佐に対してかなり過保護である。さっき遊佐は寝坊したとは言ったものの、本当は体調が悪く、私を心配させないために嘘をついてるのではと思い、再度遊佐へ確認する。
「本当に大丈夫ですって。」
遊佐は北海の性格を知ってるので、それを踏まえた上で再度答える。
「それで北海さん。さっそく転送の準備を進めてもらいたいんだけど。」
遊佐は博士が来る前に早く出発したいため話を進める。
北海は遊佐がやる気?なのを見て嬉しそうに返事する。
「ええ、すぐ準備を始めるわ。」
そして遊佐の側に浮いているグッチに指示を出す。
「グッチ、準備をお願い。」
グッチは機械的な声で返事をする。
「承知しました。転送の準備を始めます。異世界の検索、接続まで約5分かかります。お待ちください。」
グッチの返事を聞いてから、北海は再び遊佐の方を見て話しかける。
「準備ができる前に、遊佐、これからやる事を再確認しましょう。まずこれからどこに向かうのでしょう?」
と、なんというか、おつかいに出かける前の子供が、きちんとやる事を憶えているかを親が確認するみたいに聞いてくる。
遊佐はなんとも言えないような気持ちが表情にでながら答える。
「異世界。」
北海がまた質問し、遊佐はそれに答える。
「目的は?」
「私たちの世界にない未知の物質もしくは生命体を調査して可能であれば回収する事。」
「うん、大丈夫ね。」
北海は幸薄そうな顔で笑みを浮かべた。
「それじゃあ、もう少しで準備ができるから。待ってて。」
「はーい。」
北海と遊佐は転送室のモニターを見る。
「ねえ。北海さん。質問していい?」
「ええ大丈夫よ。何?遊佐。」
「先輩達が持ち帰ってきた物質や生命体って、実際に私たちの世界に普及してるの?」
「そうね。今まで私たちが回収してきたものの中で、世界の発展に影響する可能性がある物質や生物はあったわ。でも実際に普及されたものはないのが現状ね。」
「何かあったの?」
「そうね。これは数あるうちの一つの事例だけど、以前、種を植えてから1日で大木まで成長して、2日目で実をつける植物が回収されたの。どんな環境にも適応し手間もかからない、味も良い。ということで回収されて間もない頃は注目されてたんだけどね。ある時、職員の一人が実を食べた後に全身に痛みを感じると言ったの。レントゲンで撮影してみるとその植物の根が血管を通して身体中に伸びていた。その後数時間のうちに職員は身体の内側で肥大した根に引き裂かれて死亡した。」
「うわグロ。種でも食べたんですかね?」
「それが種は取り除いて食べてたの。もちろん職員が口にする前に他の生物にも食べさせたし、他にも実を食べた職員もいた。回収してきたメンバーも実を食べている。それなのに発症したのはその職員だけ。メンバーが異世界の住人に死亡した職員のようになった者はいないか確認しても、そんな事になったのは見たことも聞いたこともないと答えたそうよ。」
「こわ。それじゃあ原因がわからないままなの?」
「そう。この件以降、その植物の実を人が口にする事は禁止されて再調査する事になったわ。当然普及の為に同時進行してた関係各所への調整も中止よ。」
「そうなんだ。じゃあその植物だけじゃなく、他に先輩達が見つけてきたものも何か理由があって普及できてないってこと?」
「そうね。あるものは他の生物を絶滅させる可能性があったり、あるものは特定環境だと有害物質を放出するようになったりとか、、。どれも有益な機能を備えてはいるのだけど、それ以上の危険性が確認されているの。その危険性を無くす事ができれば普及もできるかもだけど、そもそも今確認されている事以外にも危険性があるかもしれない。様々な環境や状況での反応を調査するのにはかなりの時間がかかるのよ。」
「なるほど。」
「結局一つのものを何年もかけて調査した結果、普及ができないというケースが今のところね。でも世界中に普及はできなくても、この施設の中だけ普及してる物もあるわ。私達の体に定着してるナノマシンやグッチも異世界から回収してきたものよ。」
「え?そうなの?知らなかった。」
「ええ(たしか前に教えたはずだけど)。それに他にも成果はあるのよ。」
「それってな 」
遊佐が北海に聞こうとした瞬間、後ろのドアが開く音がした。
遊佐がドアの方を見ると白衣を着た中年男性が険しい顔つきで立っている。
名前は進藤 光。年齢52歳。
身長は170センチ、遊佐たちみたいな引き締まった体つきで細いのではなく、運動不足からなる必要最低限の筋肉しかついていないであろう細身の体型。黒髪、どこまでが額かわからないくらい髪の毛が後退していて頭頂部は薄く横の髪を流して上に乗せている。研究チームの責任者である。
遊佐は思わず「うわっ!」と声を出してしまった。
遊佐のその反応を見て、進藤博士はより一層険しい表情になり、歳相応のしわがれた声で
「うわっ!とは何だあぁぁぁっ!」
と叫びながら両手を挙げて遊佐へと走り、掴みかかろうとした。
遊佐は驚きながらも、掴みかかろうとした博士の両手首を掴んで動きを止める。そしてぎこちない作り笑顔で博士に話かける。
「な、ん、ですか!博士いきなり掴みかかって!」
博士は動きを止められているのを何とかしようと力を込めているようだが、遊佐はビクともしないため博士だけプルプルしている。
「それは貴様が一番わかってるんじゃあないかね。エージェントとしての教育が終了して、記念すべき初の転送日にこんなにも遅刻してきてからに!入社式に遅刻してくる新入社員と同じだぞ貴様!」
「それは申し訳ないと思ってますって!」
「なら!私を見て!先に!言う言葉は!遅れてきて!すみませんだろうがぁぁ!」
博士は両腕を抑えられながらも顔を近づけて至近距離で遊佐に怒鳴りつける。同時に唾が遊佐のスーツに飛んできた。
「や!汚い!」
遊佐は博士を捕らえていた手を離し唾を避ける。
「このっ!」
避けたと同時に博士の背後に回り両脚の足首を掴み引っ張り上げる。
「がっ!」
博士はうつ伏せにおもいっきり倒れる。
そのまま遊佐は博士の膝裏太もも側に両足を乗せて、素早く博士の足首を自分の足に引っ掛ける。
博士が必死に抵抗する。
「クソォォ!」
博士は腕を掴まれないよう前に伸ばすのだが、
それを見た遊佐は博士の両脇腹を勢いよく両腕でパンッ!と叩いた。
「うおっ!?」
反射的に叩かれたところを守るために博士は腕をさげてしまった。
遊佐はそれを見逃さず素早く博士の両腕を掴んだと同時に後ろへと転がる。博士は両腕両足は固定されたままで仰向けにされた。プロレス技のロメロスペシャルを博士にくらわせる。
「ぐわぁぁぁぁぁ!」
博士は苦悶の表情を浮かべ悲鳴をあげる。
「ぐっ!きさまぁぁ!」
博士は必死に抵抗しようと暴れるが完全にキメられているためどうしようもない。暫く暴れていたが疲れたのか動きが鈍くなり弱々しい声色に変わる。
「お、降ろせぇ、、。」
北海は急な事態に呆気にとられていたが、目の前でぐったりしている博士を見て、慌てて遊佐を止めようと話しかける。
「ゆ、遊佐!もうその辺にしてあげて。博士がすごくぐったりしているから。」
北海はおろおろしている。
遊佐は北海の言葉を聞いて少しした後、博士を横に放り投げるようにして解放する。博士は床の上でゴロゴロと三回ほど転がった後、ピクピクしながらなんとか立ち上がろうとしている。
「くぅ、な、なんて非常識な奴だ。目上の私に暴力など。」
疲れきった声色でそう言いながら博士は立ち上がる。
「だっていきなり襲ってきたのは博士じゃないですか。」
「屁理屈言いよって。まぁいい。とりあえず!だ。早く異世界を調査してくるのだ!貴様は他のエージェントよりも初任務の時期が2年遅れているのだからな!」
「わかってますよ。もう。北海さん、あとどれくらい?」
北海はまだオロオロしながら答える。
「そ、そうね。もう大丈夫なはずよ。グッチ。」
「はい。転送の準備はできてます。指示を出していただければ実行します。」
「うん。いいみたいね。それじゃあ遊佐、マーカーを受けって。」
北海はそう言うと遊佐に黒くて長方形の手のひらサイズの物を渡す。
「これがマーカーなんだ。」
「そう。それが異世界でのあなたの位置を私たちに教えてくれる。GPSみたいな物よ。他にも救難信号や転送指示とかの機能もあるから教えたことを思い出して使ってね。」
「うんわかった!ありがと北海さん!」
「それと最後に。」
「なに?」
「異世界の住人に私たちの組織の目的を話して協力してもらうのは自由よ。実際に協力してもらった例もたくさんあるわ。でもね、中にはよく思わない住人もいるから慎重にね。結局のところ異世界の住人から見て、私たちは自分たちの土地の資源を奪いにきた侵略者なのだから。」
「、、、了解。それじゃグッチ!転送お願い!」
「承知しました。転送します。」
そうグッチが返答した瞬間、遊佐の体が徐々に薄くなって消えた。
「ふん。行ったか。本当に送り出して大丈夫だったのかね!北海。」
そう博士が北海に尋ねる。
「いろいろと心配な点はありますけど。。2年遅れたとはいえエージェントの教育を最後までうけれたので何とかなるかと。」
「だといいがな!今回生還してきたとしても、早めに他のエージェントと同様に転化てんかできんと未来はないぞ。」
そう博士は言うと指をパチンと鳴らした。その瞬間博士の目の前に画面が映し出される。
その画面に記載されている内容は
遊佐 賀奈子『 』
鹿目 児島『語』
三島 重『魔剣』
山佐 和歌『魔法少女』
根岸 島忠『隠隠』
川田 神奈『魔笛』
高畑 知念『自爆』
武分 大『撃鉄』
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そして彼女の頭部近くに、拳くらいの大きさの黒い球状の物体が浮遊している。
その物体から機械的な音声がでる。
「朝です。遊佐。起きてください。」
「朝です。遊佐。起きてください。」
ベッドの中の女性は目を覚ます。
まだ意識がはっきりしない状態で黒い球状の物体に返事する。
「もう起きるから、何度も言うのはよして。グッチ。」
黒い球状の物体はグッチという名前だ。
「起きてません。朝です。遊佐。起きてください。」
「朝です。遊佐。起きてください。」
グッチは彼女が完全に起きるまで止めないようだ。
繰り返し聞かされることに嫌気がさした彼女はついに
ベッドから起き上がる。
ブラウンの瞳、鎖骨まで伸びたブラウンの髪、毛先は少しウェーブしている、前髪は額の右端から別れ、左に流れている。身長は160センチ、細く引き締まった体つきをしている
彼女は遊佐賀奈子。年齢22歳。
遊佐が起きたのを確認したグッチは
「転送室で北海が待ってます。急ぎ支度して向かってください。今現在予定時刻から43分の遅れです。」
「43分の遅れです。」
「44分の遅れです。」
やっと復唱を止めたかと思えばまた復唱し始める。
遊佐はめんどくさいと感じながらグッチに返事を返す。
「わかったってば。急ぐから何度も言うのはやめて。」
そう遊佐が言うとグッチは沈黙する。
遊佐はふぅっと息を吐いて準備を始める。
洗面台で顔を洗う。額の髪の毛の生え際が黒くなっているのに気づく。
「髪の毛伸びたなー。また染めないと。」
遊佐の髪の毛は黒色である。しかし瞳の色がブラウンなので色を合わせるためにブラウンに染めている。ほんとは染める作業は面倒でやりたくないのだが、どうしても黒の髪とブラウンの瞳の組み合わせが合わないと感じるため仕方なくやっている。
部屋着のシャツを脱ぎ、黒のスーツへと着替えて部屋の外へ出る。
ドアを開けると、白く長い通路が横に伸びている。肉眼では通路の突き当りが豆粒のように小さくみえる
そしてその通路には一定間隔でドアがついて、突き当りまで並んでいる。
「確か転送室はE層150番だったかな。」
遊佐はグッチに尋ねる。
「そうです。至急向かってください。」
グッチは相変わらずだ
「わかったよ、もう。」
ここは地下施設だ
階層がA~M層まであり、各階層に300の部屋がある。転送室は施設の中心部にある。
遊佐が住んでいるのは地上に一番近いA層150番だ。
つまり一度通路の突き当りまで行き、E層までエレベーターで降りてまた150番の部屋まで向かわなければならない。
それだけでちょっと疲れるし意外と時間がかかる、すごく面倒だ。
「なんでもっと移動がしやすい構造をしてないんだろね。」
遊佐がグッチに話しかける
「。。。70分の遅れです。」
グッチは遊佐の言葉を無視してどれだけ遅れているかを詳しく伝えてくる。
遊佐はちょっとイラつきながらも返事する。
「わかったよ!もう。」
そして通路の端に向かって走り始める。
エレベーターを使いE層まで降りて150番の部屋まで向かう。何部屋か通り過ぎたところ150番の部屋から二人出てきているのを遠くから見かけた。
その二人はこちらに向かって歩いてくる。
二人との距離がだんだんと近づいてくると誰だかわかってきた。
青の瞳、顎くらいまでまっすぐ伸びた髪は金髪、下まつげまである前髪は横に流して片方の目の半分を覆っている。身長は165センチ、遊佐と同じく細く引き締まった体つきをしている。
名前は三島 重。年齢24歳。
もう一人は
黒の瞳、髪色はダークブラウン、栗のイガみたいにトゲトゲした感じで髪が立っている。
身長は180センチ、厚い胸板、太い腕と太い脚と引き締まった腹部と黒のスーツ姿でも綺麗な逆三角形の体系なのが見てわかる。
名前は鹿目 児島。年齢24歳
三島は自分の目の前で止まった遊佐に話しかける。
「あら、遊佐。」
続いて鹿目がちょっと面白そうに話す。
「遅刻かー。」
遊佐はゆっくりと深呼吸して息を整えた後に二人に返事する。
「寝坊しちゃって。」
そう言ってバツが悪そうな口調で二人に返事する。
三島と鹿目がやれやれという感情が読み取れるような表情で遊佐を見る。
その後すぐに鹿目が何かを察した顔をしながら三島に話しかける。
「あーどおりで博士がイライラしていたわけか。」
三島も事態を把握したという顔をして返事する。
「なるほどね。」
そして遊佐に話しかける。
「遊佐、急いだ方がいいわよ。少し前に博士は私たちが回収してきたサンプルを見に転送室を出たからしばらくは戻らないはずよ。」
「博士に鉢合わせする前に出発してきなさい。」
そう三島は遊佐に助言をする。
「ほんと!よし、じゃあすぐ出発しよう!ありがと!三島さん、鹿目さん!」
遊佐は三島の言葉を聞いた途端にやる気が満ち溢れた表情に変わり目の前の先輩二人にお礼を言いながら150番の部屋に駆けていく。
遊佐が150番の部屋に入っていったのを見た後、鹿目が三島に話しかける。
「遊佐大丈夫か?」
「、、たぶん。」
転送室に遊佐が入ると目の前に一人の女性が立っていた。
彼女の名前は北海 道。年齢29歳。
身長は164センチ、黒髪、前髪は右から左に横に
流して左右とも顎下まで伸びている。耳のあたりから後頭部までの髪は襟足のあたりでヘアゴムでまとめられてる。
瞳の色は黒で一重瞼、幸薄そうな顔をしている。
遊佐が転送室に入ってきたのに気付いた北海は遊佐に話しかける。
「遊佐、予定の時間に来なかったから心配したのよ。体調でも崩したの?」
そう尋ねる北海に、遊佐は申し訳なさそうに答える。
「いえ、寝坊しました。」
北海は普段よりも幸薄そうな表情からいつも通りの幸薄そうな表情に戻った。
「ならよかった。、、、本当に体調悪かったりしない?」
北海は遊佐に対してかなり過保護である。さっき遊佐は寝坊したとは言ったものの、本当は体調が悪く、私を心配させないために嘘をついてるのではと思い、再度遊佐へ確認する。
「本当に大丈夫ですって。」
遊佐は北海の性格を知ってるので、それを踏まえた上で再度答える。
「それで北海さん。さっそく転送の準備を進めてもらいたいんだけど。」
遊佐は博士が来る前に早く出発したいため話を進める。
北海は遊佐がやる気?なのを見て嬉しそうに返事する。
「ええ、すぐ準備を始めるわ。」
そして遊佐の側に浮いているグッチに指示を出す。
「グッチ、準備をお願い。」
グッチは機械的な声で返事をする。
「承知しました。転送の準備を始めます。異世界の検索、接続まで約5分かかります。お待ちください。」
グッチの返事を聞いてから、北海は再び遊佐の方を見て話しかける。
「準備ができる前に、遊佐、これからやる事を再確認しましょう。まずこれからどこに向かうのでしょう?」
と、なんというか、おつかいに出かける前の子供が、きちんとやる事を憶えているかを親が確認するみたいに聞いてくる。
遊佐はなんとも言えないような気持ちが表情にでながら答える。
「異世界。」
北海がまた質問し、遊佐はそれに答える。
「目的は?」
「私たちの世界にない未知の物質もしくは生命体を調査して可能であれば回収する事。」
「うん、大丈夫ね。」
北海は幸薄そうな顔で笑みを浮かべた。
「それじゃあ、もう少しで準備ができるから。待ってて。」
「はーい。」
北海と遊佐は転送室のモニターを見る。
「ねえ。北海さん。質問していい?」
「ええ大丈夫よ。何?遊佐。」
「先輩達が持ち帰ってきた物質や生命体って、実際に私たちの世界に普及してるの?」
「そうね。今まで私たちが回収してきたものの中で、世界の発展に影響する可能性がある物質や生物はあったわ。でも実際に普及されたものはないのが現状ね。」
「何かあったの?」
「そうね。これは数あるうちの一つの事例だけど、以前、種を植えてから1日で大木まで成長して、2日目で実をつける植物が回収されたの。どんな環境にも適応し手間もかからない、味も良い。ということで回収されて間もない頃は注目されてたんだけどね。ある時、職員の一人が実を食べた後に全身に痛みを感じると言ったの。レントゲンで撮影してみるとその植物の根が血管を通して身体中に伸びていた。その後数時間のうちに職員は身体の内側で肥大した根に引き裂かれて死亡した。」
「うわグロ。種でも食べたんですかね?」
「それが種は取り除いて食べてたの。もちろん職員が口にする前に他の生物にも食べさせたし、他にも実を食べた職員もいた。回収してきたメンバーも実を食べている。それなのに発症したのはその職員だけ。メンバーが異世界の住人に死亡した職員のようになった者はいないか確認しても、そんな事になったのは見たことも聞いたこともないと答えたそうよ。」
「こわ。それじゃあ原因がわからないままなの?」
「そう。この件以降、その植物の実を人が口にする事は禁止されて再調査する事になったわ。当然普及の為に同時進行してた関係各所への調整も中止よ。」
「そうなんだ。じゃあその植物だけじゃなく、他に先輩達が見つけてきたものも何か理由があって普及できてないってこと?」
「そうね。あるものは他の生物を絶滅させる可能性があったり、あるものは特定環境だと有害物質を放出するようになったりとか、、。どれも有益な機能を備えてはいるのだけど、それ以上の危険性が確認されているの。その危険性を無くす事ができれば普及もできるかもだけど、そもそも今確認されている事以外にも危険性があるかもしれない。様々な環境や状況での反応を調査するのにはかなりの時間がかかるのよ。」
「なるほど。」
「結局一つのものを何年もかけて調査した結果、普及ができないというケースが今のところね。でも世界中に普及はできなくても、この施設の中だけ普及してる物もあるわ。私達の体に定着してるナノマシンやグッチも異世界から回収してきたものよ。」
「え?そうなの?知らなかった。」
「ええ(たしか前に教えたはずだけど)。それに他にも成果はあるのよ。」
「それってな 」
遊佐が北海に聞こうとした瞬間、後ろのドアが開く音がした。
遊佐がドアの方を見ると白衣を着た中年男性が険しい顔つきで立っている。
名前は進藤 光。年齢52歳。
身長は170センチ、遊佐たちみたいな引き締まった体つきで細いのではなく、運動不足からなる必要最低限の筋肉しかついていないであろう細身の体型。黒髪、どこまでが額かわからないくらい髪の毛が後退していて頭頂部は薄く横の髪を流して上に乗せている。研究チームの責任者である。
遊佐は思わず「うわっ!」と声を出してしまった。
遊佐のその反応を見て、進藤博士はより一層険しい表情になり、歳相応のしわがれた声で
「うわっ!とは何だあぁぁぁっ!」
と叫びながら両手を挙げて遊佐へと走り、掴みかかろうとした。
遊佐は驚きながらも、掴みかかろうとした博士の両手首を掴んで動きを止める。そしてぎこちない作り笑顔で博士に話かける。
「な、ん、ですか!博士いきなり掴みかかって!」
博士は動きを止められているのを何とかしようと力を込めているようだが、遊佐はビクともしないため博士だけプルプルしている。
「それは貴様が一番わかってるんじゃあないかね。エージェントとしての教育が終了して、記念すべき初の転送日にこんなにも遅刻してきてからに!入社式に遅刻してくる新入社員と同じだぞ貴様!」
「それは申し訳ないと思ってますって!」
「なら!私を見て!先に!言う言葉は!遅れてきて!すみませんだろうがぁぁ!」
博士は両腕を抑えられながらも顔を近づけて至近距離で遊佐に怒鳴りつける。同時に唾が遊佐のスーツに飛んできた。
「や!汚い!」
遊佐は博士を捕らえていた手を離し唾を避ける。
「このっ!」
避けたと同時に博士の背後に回り両脚の足首を掴み引っ張り上げる。
「がっ!」
博士はうつ伏せにおもいっきり倒れる。
そのまま遊佐は博士の膝裏太もも側に両足を乗せて、素早く博士の足首を自分の足に引っ掛ける。
博士が必死に抵抗する。
「クソォォ!」
博士は腕を掴まれないよう前に伸ばすのだが、
それを見た遊佐は博士の両脇腹を勢いよく両腕でパンッ!と叩いた。
「うおっ!?」
反射的に叩かれたところを守るために博士は腕をさげてしまった。
遊佐はそれを見逃さず素早く博士の両腕を掴んだと同時に後ろへと転がる。博士は両腕両足は固定されたままで仰向けにされた。プロレス技のロメロスペシャルを博士にくらわせる。
「ぐわぁぁぁぁぁ!」
博士は苦悶の表情を浮かべ悲鳴をあげる。
「ぐっ!きさまぁぁ!」
博士は必死に抵抗しようと暴れるが完全にキメられているためどうしようもない。暫く暴れていたが疲れたのか動きが鈍くなり弱々しい声色に変わる。
「お、降ろせぇ、、。」
北海は急な事態に呆気にとられていたが、目の前でぐったりしている博士を見て、慌てて遊佐を止めようと話しかける。
「ゆ、遊佐!もうその辺にしてあげて。博士がすごくぐったりしているから。」
北海はおろおろしている。
遊佐は北海の言葉を聞いて少しした後、博士を横に放り投げるようにして解放する。博士は床の上でゴロゴロと三回ほど転がった後、ピクピクしながらなんとか立ち上がろうとしている。
「くぅ、な、なんて非常識な奴だ。目上の私に暴力など。」
疲れきった声色でそう言いながら博士は立ち上がる。
「だっていきなり襲ってきたのは博士じゃないですか。」
「屁理屈言いよって。まぁいい。とりあえず!だ。早く異世界を調査してくるのだ!貴様は他のエージェントよりも初任務の時期が2年遅れているのだからな!」
「わかってますよ。もう。北海さん、あとどれくらい?」
北海はまだオロオロしながら答える。
「そ、そうね。もう大丈夫なはずよ。グッチ。」
「はい。転送の準備はできてます。指示を出していただければ実行します。」
「うん。いいみたいね。それじゃあ遊佐、マーカーを受けって。」
北海はそう言うと遊佐に黒くて長方形の手のひらサイズの物を渡す。
「これがマーカーなんだ。」
「そう。それが異世界でのあなたの位置を私たちに教えてくれる。GPSみたいな物よ。他にも救難信号や転送指示とかの機能もあるから教えたことを思い出して使ってね。」
「うんわかった!ありがと北海さん!」
「それと最後に。」
「なに?」
「異世界の住人に私たちの組織の目的を話して協力してもらうのは自由よ。実際に協力してもらった例もたくさんあるわ。でもね、中にはよく思わない住人もいるから慎重にね。結局のところ異世界の住人から見て、私たちは自分たちの土地の資源を奪いにきた侵略者なのだから。」
「、、、了解。それじゃグッチ!転送お願い!」
「承知しました。転送します。」
そうグッチが返答した瞬間、遊佐の体が徐々に薄くなって消えた。
「ふん。行ったか。本当に送り出して大丈夫だったのかね!北海。」
そう博士が北海に尋ねる。
「いろいろと心配な点はありますけど。。2年遅れたとはいえエージェントの教育を最後までうけれたので何とかなるかと。」
「だといいがな!今回生還してきたとしても、早めに他のエージェントと同様に転化てんかできんと未来はないぞ。」
そう博士は言うと指をパチンと鳴らした。その瞬間博士の目の前に画面が映し出される。
その画面に記載されている内容は
遊佐 賀奈子『 』
鹿目 児島『語』
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