遊佐賀奈子と八人の鬼婦人

マヤカナヒロキ

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27話

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午後の投与の時間が迫ってきた。


午前中は10名の患者の家を調べたが手がかりとなる物は何ひとつ見つけられなかった。


「そろそろ時間かな。一度戻らないと。」


遊佐が自分のスーツにかかった埃を払いながらムルドに話しかける。


「そうだな。戻ろう。」


二人は施設へと戻る道中、お互いに確認を行う。


「何か気づいた事はあるか?」


「んー。今のところ気になる事はあるんだけど。」


遊佐は腕を組んでうなだれながら歩いている。


「なんだその気になる事というのは?」


「まず被害者が全員学生でしょ。あとは匂いと動機。」


ムルドはしかめっ面で顎髭を触る。


「匂いとは?」


「ほら、すごく甘い香りがするって聞いてたけど全然しなかったじゃん。いくら時間が経っているからって、それほど強い香りならベットのシーツや衣服とかにも匂いがついていてもおかしくないじゃない?」


「確かにな。煙果にある強く甘い香りは調べた家には感じなかったな。そういえば調査の際に貴様がベットや衣服に顔を近づけたりしていたのはそういうことか。」


「うん。」


「ん?だが全員はしてなかったな?女性の学生の家ばかりではなかったか?」


ムルドからの指摘に遊佐はギクッとして立ち止まる。


「?」


ムルドは遊佐が立ち止まった事が不思議で首を傾げる。


「た、たまたまだよー。」


遊佐は動揺しているのか声が震えて裏返りながら答える。目線はムルドとは反対側の下の方を見ながら歩き始める。


「?。まあいい。それで動機とは?」


ムルドは遊佐のよくわからない挙動不審に疑問を持ちながらも次の気になる事に話題を変える。


「ど、動機はほら、煙果ってただ甘い香りがするだけでしょ?なのにそれだけの理由でわざわざ買うかなと思って。」


遊佐は動揺する自分を落ち着かせながら答える。


「ふぅむ、確かに。部屋の芳香剤の香りとして使用するほどの物とは思えんし、そもそも芳香剤として使用したのであれば部屋に匂いが残っているはずだからな。」


「でしょ。何の利益もない煙果をわざわざ日常生活で使う理由がわからない。」


「そうだな。う~む。わからない事ばかりだ。」


ムルドは顎髭をなぞりながら困り顔を浮かべる。


「とりあえず。戻って投与を済ませて、まだ調べてない家を調査かな。患者がまともに話せるようになったら聞き取りもしてみなきゃ。」


「、、、。」


ムルドは悩んでる遊佐の横顔をジッと見る。


「?。どしたのおっさん?」


「いや、まあ最初の頃とはだいぶ雰囲気が変わったなと思ってな。初めの頃の貴様はいかにも嫌々やってますという雰囲気を出していたからな。それが今は見違えるほど積極的ではないか。」


ムルドは嬉しそうに遊佐へ問いかける。


「はは。似たような事を私の先輩たちからもよく言われる。」


遊佐は苦笑いしながら答える。


そして二人は施設へと一度戻った。
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