戦車バカ一台(戦車に憑依した俺がアメリカで無双する件)

TANK_KONG

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第一章

05

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 シャワールームから出て、髪を乾かしながら美奈子は独り悪態をついていた。

 「くっそ~!あのスクラップ屋め」
 「壊れた電源売り付けやがったな!同業者としてあり得ねぇ!」
 「そして、この消火剤。粉末だって言ってんのに、なんで液体の消火剤入れてんだよバカが!!ホント信じらんない!」

 そもそもがズボラな美奈子だが、あまり風呂に入りたがらないのは、水道代が非常に高額であることも原因だ。
 飲料水もガラス瓶に入れて売られていたが、水道代はその水と同額であった。
 1リットル100円もする水道など、以前の日本では考えられないが、除染された水はそれだけ貴重であり、核戦争前のような風呂桶に水を溜めて入るような贅沢は、よほどの大富豪でもない限りあり得ないのだ。
 ともかく、鉄男が仕掛けたポルターガイスト現象は、結果として同業スクラップ屋の評判を不当に貶める結果となってしまった。
 元々その業者からあまり良い評価を受けていなかった美奈子だが、この事態を受けて完全に自分が嫌がらせを受けたと信じ込んでしまったようだ。
 消火剤の件については単なるミスと思われるが、これでお互いに信用出来ない相手となってしまった。
 業者が信用出来ないなら自分で探すしかない。
 汚染地域である旧富士演習場まで出向いて、そこに埋まっているであろう自衛隊や米軍の兵器のスクラップを漁りにいく事にした。
 行程も含めかなりの重労働となるため、美奈子は早めに睡眠を取ることにした。


 田宮美奈子が、自宅としている地下街の倉庫を出たのは、昼近くになってのことだった。
 彼女の住む地下街は静岡駅の地下にあって、デパートの地下階とも繋がっている比較的大規模なものだ。
 デパートは核攻撃で崩壊してしまったが、建物の基礎部分は無傷で、新静岡駅の地下部分も含めると、この一帯でおよそ3000人が暮らしている。
 核攻撃から55年が経ち、一年の半分以上雨天が続くおかげで、放射性物質そのものは流されて地表にあまり残ってはいないが、関東より北の地域は完全に砂漠化しており、雨も滅多に降らないため、放射性物質が多く残っている。
 逆に静岡より南の地域は、雨が一年中降り続くため、極度の高温多湿となりジャングルと化して、とても人が住める状況にない。
 これだけ気候が極端に分かれた原因については良く分かっていないが、おそらく日本アルプスと呼ばれる山脈群と富士山の存在が影響していると思われる。
 偏西風によって常に西から風を受けているため、山脈の反対側、つまり関東以北の平野はフェーン現象により、高温になり乾燥する。
 更に、赤道付近の海水温が40℃以上に達しており、中緯度圏では常に雨雲に覆われているのだが、偏西風が吹くあたりを境に乾燥した気候になる。
 山脈によってその境界がより顕著に現れたものと思われる。
 なので、日本においては静岡市から焼津市にかけての富士山の南側と、長野県、岐阜県の一部が、雨天と晴天が半々となる、唯一まともな生活が可能な地域なのだ。
 ただ、晴天時には地表に太陽放射線が直接降り注ぐため、防護服無しで外に出ることは自殺することに等しい。
 普段着で外出出来るのは、完全に曇りの日か、小雨の時しかないのだ。
 今日も、弱い雨が一日中降り続く予想だが、美奈子は傘など持たず、タケウマと呼ばれる二足歩行式の小型の乗り物にまたがり、スクラップを探し求めて富士山麓にある廃棄場を目指す。
 タケウマは、階段が多い地下街で重い荷物を輸送するため開発されたものだが、開発した人間は20年前に既に亡くなっており、今ではロストテクノロジーとなりつつある。
 ただ、その構造自体は単純なので、美奈子のようにきちんと教育を受けず、見よう見まねで機械をいじっているような者でも、整備して動かすことは可能だった。
 しかし、その中枢となるコントローラユニットは、もはや完全にブラックボックス化してしまい、ユニットだけでもかなりの高値で取引されている。
 動力は充電式のモーターだが、パワーを出すため消費電力が大きく、搭載してあるバッテリーでは1時間しか持たない。
 そのため、遠出をする際は予備バッテリーを2~3本用意しておくのが普通だ。
 美奈子も片道2時間掛かる富士演習場の跡地に向かうため、バッテリーを6本用意し出かけて行った。
 タケウマは、完全に舗装された路面であれば、車輪で走行することも可能なのだが、そういう土地はもはやほとんど残っていない。
 かつて、東名高速道路と呼ばれた道は、植物が繁茂し、路盤が割れ、あちこちに段差が出来ているため、4輪駆動車でも踏破するのは至難の業だ。
 その点タケウマは二足歩行なので、車よりは時間が掛かるが、倒木や段差も問題とならない。
 ひどく揺れるのと、うるさいということを除けば、安全に移動出来る手頃な交通手段なのだ。
 かつての富士演習場は北朝鮮からの2度目の核攻撃で消え去ったが、当時ここで演習をしていた自衛隊と米軍の装備が今でもたくさん見つかる。
 ほとんどが使い物にはならないが、掘り返すといくつか放射線の影響を受けなかった電子機器や、火器類が見つかることがある。
 大部分は持ち去られてしまったが、裏返しになった車両をもとに戻したりすれば、使える装備品はまだまだ見つかるようだ。
 ただ、残留放射能が強いのと、砂漠とジャングルの境目なので、曇天か小雨の時にしか漁れないという制限が付くため、時間かけて本格的に採掘することが出来ない。
 そのおかげで、今もこうしてスクラップ屋に生活の糧を提供する場所となっているのだ。


 旧富士演習場の爆心地には未だに強烈な放射能が残っており、防護服を着ていても近づくことは出来ない。
 だが、その爆心地から2km離れれば、幾分線量は下がって、防護服を着ていれば2時間程度なら活動可能となっている。
 なので、他者が持っていない装備を探そうと思えば、線量の強い爆心地に近づくことになるが、それによって事故が起きたり、癌になる者が増えたため、入場制限を掛けて、必ず線量計を身に付けて、被曝量が基準を超えたら強制的に退去させられるようになった。
 だが、それを管理しているのがこの近辺に土地を持つ美沙婆みさばあと呼ばれる老齢の女性一人だけである。
 この演習場の管理をする代わりに土地の資産税を免れているという噂もあるが、本人は完全にボランティアだと主張している。
 因みに婆と呼ばれているが、実際にはまだ40代という話で、爆心地に近いせいで放射線にやられてあんな見た目になったのではと専らの噂になっているが、真相は怖くて誰も聞けていない。
 スクラップの状況は毎日変わるので、その日の朝、ドローンで撮影した演習場の状況が公開される。
 それを見て、スクラップ屋たちは発掘のルートを予め決めて発掘に臨む。
 基本的には1箇所に長居するより、広く浅く速く、が稼ぐ上では効率的だろう。
 その反面、目当ての物がある場合は目標を定めて、ある程度時間をかけて発掘する必要がある。
 その分被爆する危険も高まるわけで、美奈子の父親の死期が早まったのも、おそらくこれが原因だろう。
 その轍は踏むまいと思っていても、ギャンブルと同様、目当ての物がある時にはどうしてももう10分だけ、もう一掘りだけと粘ってしまうのが人間の心理である。
 今回の目当ては、何でも良いからコンピューターのパーツと、大容量バッテリーだ。
 どちらもレアな代物であり、仮に両方見つけられたら一生分の幸運を使い果たすことになるかもしれない。
 事前に当たりを付けた発掘ポイントを効率よく回るために、ルートと発掘時間を計算し攻略に臨む。
 決して幸運の女神に抱かれて生まれたわけでは無い美奈子は、予想どおり最後の発掘ポイントでも当たりは引けなかった。
 1時間浚った時点で拾ったのが、約4リットルのディーゼル燃料と45口径の拳銃の弾50発と4発の手榴弾だ。
 何の目的も無く来たのなら、これだけでもかなりの成果と言えるが、必要なものは見つけられなかった。
 その後30分程探ったところで、そろそろ引き上げようとした矢先、横倒しになったSUV車の下に光る金属ケースが見えた。
 掘り出してみると割れたジュラルミンケースの中に昔のカメラが入っていた。
 カメラはもちろん壊れていたが、メモリカードなどは使える可能性がある。
 そのケースを引っ張り出して、使えそうな物を物色していると、ケースの埋まっていた下に、パソコンのキーボードと思しき物体を発見したのだ。
 更に掘り出してみたところ、残念ながらキーボードは割れてしまって、使い物にはならなかったが、キーボードがあるということは、それに関係する物が近くにあるということ。
 そう考えて、しばらく掘り進んでいくと、なんと銀色のビニール袋に入ったパソコンのマザーボードが箱に入ったまま見つかった。
 つまり未使用のPCパーツが出てきたのだ。
 これはとんでもなく稀なことである。
 マザーボードは防護フィルムに入ったままだったので、放射線の影響を受けてない可能性が高いし、同じ袋にメモリカードも入っていて、こっちも防護フィルムに入った状態だったので、同様に無傷の可能性が高い。
 状況からして、おそらくパソコンショップから買ってきたままの状態で、持ち主は死亡し放置されてしまったのだろう。
 持ち主には気の毒であるが、こういう状況でもない限り、当時の最先端パーツを未使用のまま入手出来ることはまず無い。
 美奈子は喜ぶと同時に、まさしく一生分の幸運を使い果たしてしまったのかもしれないと、空恐ろしい感触も覚えるのだった。


 その後10分程、大容量バッテリーについても探してみたが、さすがにそれまでは無理だったようだ。
 PCのパーツが見つかっただけでも大幸運なのだ、それ以上は欲張りすぎというものだろう。
 ディーゼル燃料と45口径ACP弾がそれなりの値段で売れるので、今日は大収穫と言って良い。
 美奈子はホクホク顔で家路を急いだ。

 *

 美奈子がスクラップ場で発掘している間も、鉄男は電源を落とされた中で、地道にイメージング作業を続けていた。
 一昼夜かけて、ほぼ自身の全体像を網羅するに至った。
 ただ彼にとって唯一不明だったのが、主砲の種類だ。
 通常の25式であれば、120mm滑腔砲が搭載されているはずだが、この戦車には彼の知らない良く分からないものが載っていた。
 一見するとレールガンのようでもあるが、レールガンにしては小型すぎるし、レールガンに必要な高電圧を生み出す電源装置も見当たらない。
 そもそもレールガン自体は試験段階で、2028年時点で実際に配備されたものは無かった。
 鉄男は知らなかったが、その後、超低温にしなくても超伝導に近い状態を維持出来る導体が開発され、2029年に、火薬によらない実体弾の射出が可能になった。
 そこから、火薬を使った伝統的な大型の火砲は姿を消し、低威力だがコンパクトな簡易型のレールガンが普及していった。
 一般にはリニアガンと呼ばれ、旧式の大掛かりなレールガンとは区別される。
 リニアガンは火薬を使った火砲より威力は落ちるものの、直径120mmの砲弾を音速に近い速度で発射出来るため、大型のPC程度の大きさのコンパクトな機構部と、電気さえあればいくらでも撃ち続けられる簡便さを買われ、旧式の火砲を駆逐していった。
 電源についても、旧来から使われているリチウムイオンバッテリーは温度変化に弱く、製造施設も失われてしまったため、蓄電池に代わる新たな給電方式として、水素が見直されていた。
 太陽光によって生み出された電気を水素に置き換え、それを燃やすことで再び電気として利用出来る水素サイクルが確立されていたのだ。
 当初は効率が悪かったものの、前出の高温超伝導物質のおかげで、驚くほど高効率なエネルギーシステムに変貌し、今や水素サイクルは人間の生存に無くてはならない重要な社会インフラとなっていた。
 このように鉄男の死後、社会は大きく変容していたのだが、彼はまだそれを知らない。
 情報が限られた中では、そんな変容を想像することもままならなかった。
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