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第6話:戦国の因縁、現代で再燃
しおりを挟む■ 教室に満ちる殺気
昭和19年の湿った空気が、一瞬で凍りついた。
徴用された国民学校の職員室。
大テーブルを挟み、二人の男が対峙している。
一人は豪奢で古びた鎧。
もう一人は白衣(びゃくえ)のような装束。
戦国の龍と虎が、昭和の教室で睨み合っていた。
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「……貴様のその“面(つら)”、久方ぶりに見たが、相変わらず策謀の匂いが鼻につく」
白衣の男――上杉謙信が、抜き放つ寸前の構えで低く言い放つ。
その瞳には、信心深さと狂気が同居した青白い炎。
「くかっ、相変わらず堅苦しい男よ。
貴様のように“義”などと寝言を言っている間に、この地は灰になるぞ」
鎧の男――武田信玄が椅子にどっかと座り、軍配で机を叩く。
二人の間に走る火花は、
傍らに立つ昭和の将校たちの肌を、ナイフのように切り刻んだ。
---
■ 軍の目論見と最悪の空気
「……双方、そこまでにしてもらおう」
割って入ったのは憲兵隊の少佐。
震える手で軍刀の柄を握り、必死に威厳を保とうとしている。
「貴様ら二人の実力は、先日の試験で十分に分かった。
ゆえに軍は、それぞれに“特務小隊”を預ける。武田……そして上杉。
互いに競い、どちらがより多くの敵を――米英を屠るか証明してみせろ」
軍は、伝説の名を騙る“異能の剣客”として扱いつつ、
宿命的な敵対心を利用して戦果を挙げさせようとしていた。
---
「競え、だと? 笑わせるな」
謙信が冷たく言い放つ。
「我らがおぬしらのような、志なき者の手駒になるとでも思うたか」
---
そこへ――
廊下から軍靴の音が響き、土方歳三が現れた。
土方は信玄と謙信の間を割り、
少佐の机に一通の書付を叩きつける。
「内輪揉めなら他所でやれ。
少佐、総司の薬の件だ。話の続きをしようか」
---
■ 噛み合わぬ視線
土方は、睨み合う二人を一瞥する。
(……何だ、この時代錯誤な格好は。
武田に上杉? まさか本物だと言うつもりか)
土方にとって、武田信玄も上杉謙信も“伝説上の人物”。
だが、二人から放たれる“戦場を支配する者の気圧”だけは、本物だった。
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一方、信玄もまた土方を鋭く観察していた。
(……浅葱色の羽織。見たこともない仕立てだが、
あの男の目は多くの死線を越えておる。どこぞの小大名の精鋭か)
互いに相手の素性など知る由もない。
ただ――
この昭和という狂った時代に放り込まれた“同類”であること。
そして、自分たち以上に得体の知れない“軍”という巨大な力に翻弄されていることだけが共通していた。
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■ 闇からの観察者
廊下の薄暗い影。
宮本武蔵は壁に背を預け、
開け放たれた扉からその様子を静かに眺めていた。
(……龍と虎か。相まみえれば山が動くと言うが、なるほど、化け物よ。
それにあの青い羽織の男……あれもまた、死神を背負うとる)
武蔵の目には、三人が放つ“気”の激突が、
物理的な衝撃波として見えていた。
だが同時に、冷笑を浮かべる。
(だが、あの少佐とやらは愚かだ。
猛獣三頭を同じ檻に入れ、自分の思い通りに動かせると思っている。
繋いでおける鎖など、この時代のどこにも無いというのにな)
武蔵は木刀を軽く回した。
彼は知っている。
この者たちが真に暴れ出した時――
この基地も、
この“日本”という国の軍の規律さえも、
跡形もなく壊れてしまうことを。
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「……さて。誰が最初に、この檻を壊すかねえ」
武蔵の呟きは、
遠くから響く空襲警報のサイレンにかき消された。
(第6話・了)
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