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【8】モヤモヤする社畜
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あんな可愛らしい表情を、俺は向けられたことがない。
さっきまでの高揚感がさらさらと崩れていくが、部長には挨拶しておかないといけない。
黒い靄がかかったような気持ちで部長に声をかけた。
「部長、おはようございます。昨日はすみませんでした」
部長が振り向いた横で吉岡さんも俺を見ている。しかし妙な緊張と意地で彼女に目を合わせる事ができず、部長と会話を進める。
「おはよう。もう体調は大丈夫なのか?」
「はい。今日はしっかり働きます。本当に申し訳ありませんでした」
「わかった。でも無理はしないでくれよ。監査の準備は順調に進んでいるみたいだね。吉岡さんはとても優秀だもんなあ」
「いえ、そんな……」
吉岡さんは恥じらいながら俯き、頬を桜色に染めている。
その表情を見ていると、可愛らしいと思う反面、苛立ちが湧いてくる。
まだ始業までには時間があった。俺はエレベーターで最上階まで上がり、一服することにした。
朝っぱらから屋上で喫煙してる奴はいない。そもそも喫煙仲間もどんどん減っていっているが。
俺も禁煙しなければと一応は考えるのだが、なかなか上手くはいかない。
ふーっと煙を吐き、柵に突っ伏す。
昨夜のこと、ありがとうって吉岡さんに言いたかったのにな。
あんな嬉しそうに部長と話してるのを見たら……。
もしかして昨日のことを部長は知ってるのか? つーか、部長の差し金で昨日俺の家に来たのか?
いろいろ聞きたいことがあるのにな。
「あーもう……」
頭をぐしゃぐしゃかき回し、胸ポケットから携帯灰皿を出して煙草を押し潰す。気分転換しに来たのに逆効果だ。
そんな状態で昼休みを迎えた。
資料室に行き、昨日吉岡さんがピックアップしてくれた資料から俺が選ぶ。
本当なら昨日終わっていた業務だったが、俺が倒れてしまったせいで今日になった。
昨日まではここに俺よりも早く来ていたのに、今日はなかなか来ない。
「避けられてんのかな……」
つい弱気なことを口走る。捲っていた資料を閉じて次の資料へと手を伸ばした時、ドアが開いた。
部屋の中をひょっこり覗く吉岡さんの黒髪ボブがさらりと揺れている。
「ごめんなさい、遅くなりました」
「あ……いや、大丈夫?」
「大丈夫です。午前中に仕上げなきゃいけない業務があったので。申し訳ないです」
「いや、俺は……」
急に心臓の鼓動が速まりだして、何も言えなくなる。
吉岡さんは走ってきたのか、息を切らせていたのを落ち着かせるように深呼吸して、俺が持っていた資料を覗き込んだ。
ふわりといい香りがして、ますます心臓がうるさくなる。
さっきまでの高揚感がさらさらと崩れていくが、部長には挨拶しておかないといけない。
黒い靄がかかったような気持ちで部長に声をかけた。
「部長、おはようございます。昨日はすみませんでした」
部長が振り向いた横で吉岡さんも俺を見ている。しかし妙な緊張と意地で彼女に目を合わせる事ができず、部長と会話を進める。
「おはよう。もう体調は大丈夫なのか?」
「はい。今日はしっかり働きます。本当に申し訳ありませんでした」
「わかった。でも無理はしないでくれよ。監査の準備は順調に進んでいるみたいだね。吉岡さんはとても優秀だもんなあ」
「いえ、そんな……」
吉岡さんは恥じらいながら俯き、頬を桜色に染めている。
その表情を見ていると、可愛らしいと思う反面、苛立ちが湧いてくる。
まだ始業までには時間があった。俺はエレベーターで最上階まで上がり、一服することにした。
朝っぱらから屋上で喫煙してる奴はいない。そもそも喫煙仲間もどんどん減っていっているが。
俺も禁煙しなければと一応は考えるのだが、なかなか上手くはいかない。
ふーっと煙を吐き、柵に突っ伏す。
昨夜のこと、ありがとうって吉岡さんに言いたかったのにな。
あんな嬉しそうに部長と話してるのを見たら……。
もしかして昨日のことを部長は知ってるのか? つーか、部長の差し金で昨日俺の家に来たのか?
いろいろ聞きたいことがあるのにな。
「あーもう……」
頭をぐしゃぐしゃかき回し、胸ポケットから携帯灰皿を出して煙草を押し潰す。気分転換しに来たのに逆効果だ。
そんな状態で昼休みを迎えた。
資料室に行き、昨日吉岡さんがピックアップしてくれた資料から俺が選ぶ。
本当なら昨日終わっていた業務だったが、俺が倒れてしまったせいで今日になった。
昨日まではここに俺よりも早く来ていたのに、今日はなかなか来ない。
「避けられてんのかな……」
つい弱気なことを口走る。捲っていた資料を閉じて次の資料へと手を伸ばした時、ドアが開いた。
部屋の中をひょっこり覗く吉岡さんの黒髪ボブがさらりと揺れている。
「ごめんなさい、遅くなりました」
「あ……いや、大丈夫?」
「大丈夫です。午前中に仕上げなきゃいけない業務があったので。申し訳ないです」
「いや、俺は……」
急に心臓の鼓動が速まりだして、何も言えなくなる。
吉岡さんは走ってきたのか、息を切らせていたのを落ち着かせるように深呼吸して、俺が持っていた資料を覗き込んだ。
ふわりといい香りがして、ますます心臓がうるさくなる。
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