どうしても、あなたの犬になりたい! 美貌の王子が溺愛したのは、内気な落ちこぼれ令嬢でした。

湖宮つばめ

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第五章

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「その魔女、どうやら死んでいなかったようです」
「それは。俺としたことが、まさか殺し損ねるとは。まだ、こちらに喧嘩を売る元気が残っているのか?」
「ええ。そこで、和平を確固たるものにするため、隣国とともに魔女の根城を殲滅する、という話になりました」
「なるほど。和平が反故になると困るから、隣国は、慌てて魔女の首を差し出してきたのか」
(和平といっても、こちらが情けをかけて和平の体をとってやっただけで、実質、隣国にとっては敗戦だからな)
 もともと、あまり隣国は国力がある国ではない。
 人口規模も領土も、何もかもが劣っているという自覚がありながら、グレイたちの国に攻め入ってきたことが不思議だった。
 それが、その魔女に唆された結果であったことは、すでに明らかになっている。
 その魔女のせいで、グレイたちは必要以上に苦戦することになった。
 終戦間際、呪いがかけられると同時、その魔女にはグレイが大怪我を負わせた。あそこで仕留めたと思っていたが、殺し損ねたらしい。
 とはいえ、和平が結ばれた今、もう隣国は魔女を頼れる状況ではないのだろう。頼ったところで、また、事実上の敗北をすることになるのだ。
(隣国も、俺たちの力が魔女よりも上だ、と分かっているはずだからな)
 隣国は、これ以上、この国の機嫌を損ねないように、魔女の首を差し出すしかないのだ。
「グレイ。あなたの力が必要です」
「今度こそ、あの魔女の息の根を止めるために?」
「はい。それに、魔女を殺さなければ、おそらく僕たちの呪いは解けません。あなたも困るでしょう? 時折、犬になる呪いなんて」
「……? 俺はエスメの犬として可愛がってもらえるから、あちらの姿はあちらで好きだが」
 恥ずかしがりやのエスメは、人間のグレイには、あまり自分から触れようとしない。
 だが、犬のグレイのことは、ぎゅっと抱きしめてくれるのだ。
 あのふわふわとした身体に抱きしめてもらう至福を失うのは、少しばかり、いや、とても、とても残念だった。
「あなたが犬で良くても、僕が猫になるのは困るんですよ。呪われた王が即位するなど認められない。いざというとき、猫の姿では何もできません。――王太子として呼び戻されたくない、オルコット領で大好きな妻と暮らしたい、というならば、分かっていますよね?」
「魔女を殺す。そうして、俺たちの呪いを解く、か」
「分かっているならば良かったです。ということで、あなたには魔女の殲滅作戦を指揮していただきます。得意でしょう? そういうの」
「まあ、お前よりは向いているだろうな」
 王太子でありながら、グレイが隣国との戦争で前線に立ったことには理由がある。
 グレイに与えられた女神の加護は、雷撃を落とすという、単純だが広範囲におよぶものだ。ただし、いろいろと制限があるため、かなり対象に近接しなければならない。
 サフィールはサフィールで、前線で負傷兵を癒やすという役目があった。攻撃には向かないが、サフィールが与えられた加護は、自分以外の傷を癒やす、というものだ。
 グレイたち双子は、自分たちをいちばん有用に使うために、前線に立たざるを得なかったのだ。
(国王陛下は若い。まだ、俺たちの下にも生まれる可能性はある。そうでなかったとしても、王家の血筋は俺たち以外にもいるからな)
 グレイとサフィールが死んでも代わりはいた。
 代わりがいるならば、一刻も早く、戦争を終わらせるべきだ。そういった国王の判断には、グレイたちも納得していた。
「あなたが嫌がったときには、辺境伯とは離縁させるように、と。国王陛下からは、そのように言われています」
「あ?」
 思わず、がらの悪い声が出てしまった。
「王家から籍を抜いたとしても、あなたが王太子だった過去は消えません。生涯、この国のために身をやつす義務がある。それが、力ある者として、王家に生まれた僕たちの果たすべき責務でもあります。――あと、思う存分、新婚生活を送りたいなら、憂いは経った方が良いのでは? 戦になったら、オルコット領は巻き込まれますよ」
 実際、先の戦争でも、オルコット領の西端が巻き込まれている。
 エスメたちが暮らしているような中心部や、暮らしている領民たちに大きな被害がおよぶことはなかったが、戦は戦である。
 亡くなったエスメたちの父――前の辺境伯も、戦の最中、病死した。持病だったというが、隣国との戦が心身に負荷をかけていたことは明らかだ。
 再び同じことが起きたら、辺境伯として、エスメも戦と関わるかもしれない。
 エスメ自身には武力がないとしても、領主として、矢面に立たねばならないときがくる。
「分かった。魔女を殺して、はやく片を付ける」
「ついでに、王太子に戻っていただけると嬉しいのですが」
「それは無理だな」
 グレイが言うと、サフィールは大きな溜息をついた。
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