どうしても、あなたの犬になりたい! 美貌の王子が溺愛したのは、内気な落ちこぼれ令嬢でした。

湖宮つばめ

文字の大きさ
31 / 43
第五章

30

しおりを挟む
 ▼△▼

 グレイは、じっと、去ってゆく妻の背中を見る。
(今日もエスメは最高に可愛い)
 不意に、エスメがこちらを振り返った。彼女は困ったように眉をさげてから、控えめに、グレイに向かって手を振った。
 それから、自分の行動が照れくさくなったのか、すぐに去ってゆく。
(なんだ! なんだあれは! 可愛い!)
 グレイは、年上の妻の困り顔が大好きだった。最後、恥ずかしそうに目を伏せたのも、最高に可愛かった。
(よし。今夜は、いつもより、もっと仲良くしよう)
「グレイ。そのやにさがった顔、止めていただけますか? だらしがない。あなたのそのような顔は見たくありませんでした」
「鏡でも見ているようで嫌なのか?」
 グレイとサフィールは、髪と目の色が違うだけで、顔立ちはうり二つだった。
 目元にあるほくろの位置まで同じであるため、王妃である母は「生まれたときから仲良しね」と言っていたものだ。
「それもありますけれど。僕は、あなたが女ごときに現を抜かすことが嫌なのです」
「ごとき? エスメは素晴らしい女性だ」
「そもそも、あなたが婿入りをしたのは、オルコットの薔薇姫ではないのですか? あんな冴えない女とは思いませんでした。あれは、いったい誰なのですか? 薔薇姫の姉などと言っていましたが、本当に姉なんですか?」
「間違いなく、エスメはフレア嬢の双子の姉だな」
「双子。ぜんぜん似ていませんね、てっきり侍女かと」
「辺境伯の跡を継いだ女性に対して、その物言いか?」
「その跡継ぎだって、薔薇姫がするべきだったのでは? オルコット領は、国防の要のひとつ。あんな平凡そうな女では守り切れないでしょう」
「エスメは素晴らしい領主になる。それに、俺が支えるから何も問題ない」
 傲慢な台詞かもしれない。
 だが、グレイは自分が優秀であるという自負がある。
(俺にはエスメを支える力がある)
 グレイは思っている。
 自分こそが、エスメの婿にふさわしいのだ、と。
 他のどんな男でも、グレイよりは劣る。
「あなたにしてもらいたかったのは、辺境伯への婿入りではなく、王位を継ぐことですよ。――グレイ、今からでも遅くありません。どうか王家に戻ってきてください。あなたの方が、ずっと人望があったのですよ。国王陛下も、あなたを次の王にして、僕を臣籍にくだらせよう、と考えていたのですから」
「それはできない。俺は死ぬまでエスメの犬でいることにしたからな」
「縁起でもないことを。犬など」
「まだ呪いが解けていないから、か? それが、わざわざ、お前が話しかけてきた理由か」
 サフィールは王太子となったのだ。
 その身分からして、王立学院主催の社交場には出てこない。そもそも、今夜の招待客のリストには、サフィールは載っていなかったはずだ。
 対外的には、グレイのことを慕っているサフィールが、無理に参加してきた、とでも言うのだろう。
 サフィールが、少々様子がおかしいほどグレイを慕っている話は、貴族間でも有名な話である。だから、欺されやすい人間は納得してくれるかもしれないが。
「終戦の間際、僕とあなたに呪いをかけた魔女がいたでしょう?」
「ああ。あの憎たらしい」
 呪い。
 言葉どおり、グレイとサフィールは呪われた。
 相手を獣に変えるという、恐ろしい呪いだった。
 その呪いを受けた二人は、獣となり、大きく傷つけられた。からくも魔女を殺したものの、自軍から離されて、獣のままオルコット領の森に投げ出された。
 それも、グレイもサフィールも離れ離れの状態で、だ。
(あのとき、エスメが助けてくれなかったら、きっと、俺は犬のまま野垂れ死んでいただろう)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。 そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。 お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。 挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに… 意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いしますm(__)m

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました

古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。 前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。 恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに! しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに…… 見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!? 小説家になろうでも公開しています。 第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品

王宮地味女官、只者じゃねぇ

宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。 しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!? 王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。 訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ―― さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。 「おら、案内させてもらいますけんの」 その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。 王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」 副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」 ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」 そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」 けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。 王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。 訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る―― これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。 ★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。

処理中です...