どうしても、あなたの犬になりたい! 美貌の王子が溺愛したのは、内気な落ちこぼれ令嬢でした。

湖宮つばめ

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第六章

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 ふと、年上の妻の顔が、グレイの頭に浮かんだ。
 女神のひかりに収められた目覚めの話を読み聞かせながら、彼女は優しく微笑んでいた。
「それで? お前の好きではない《女神のひかり》にある物語が、今回の魔女の件と、いったい何が関係あるんだ?」
「あの物語では、魔女は王子を手に入れるために、呪いをかけようとしました。からくも、眠りについたのは王子をかばった侍女でしたが、魔女に狙われていたのは王子だったのです」
「まさか、俺やお前が、魔女の狙いだったと?」
「実際、魔女は僕たちを引きずり出しました。普段は王都に――女神の力が、最も強くおよんでいる場所にいる僕たちを、ね」
「女神のもとから引き離した、と言いたいのか」
「ええ。そうして、僕たちを手に入れるつもりだったのかもしれません。もし、あの物語が本当にあったことで、あの魔女が、いま、僕たちが追い込んでいる魔女だとしたら? 昔の雪辱を果たすために、王子を手に入れようとしているのです」
「想像力が豊かだな」
「冗談のつもりはありませんよ」
「俺たちにかけられた呪いは、眠りにつかせるようなものではなかったが」
 グレイは犬に、サフィールは猫に。
 眠りにつかせるのではなく、獣に変えられる呪いだった。
「同じ呪いはかけないでしょう。昔、失敗しているのですから。……眠りにつかせる呪いも、獣に変える呪いも、似たようなものでしょう。要は、相手を無力化して、手に入れようとしているのですから。――グレイ、油断しないでくださいね。あなたが傷を負っても、何度だって僕は治します。けれども、あなたが魔女の手に落ちた後、僕にはあなたを取り返す力はありません」
「分かっている。油断せず、はやくに魔女を倒して、俺はエスメのところに帰らなければならないからな。冬のオルコット領では、いろいろと大変のようだからな。雪害対策はしているらしいが、大きな災害があったら大変だ。あと、せっかくエスメとはじめて過ごす冬なのに、一緒にいられないのはもったいないだろう?」
「色惚けも大概にしていただきたいですよ、本当に。まあ、でも、……王城にいたときよりも、あなたは良い顔をするようになりましたね」
「良い顔?」
「ええ。だから、あの冴えない奥方は、あなたの心を支えてくださる女なのでしょうね。誰かに手を差し伸べてばかりだったあなたに、当たり前のように手を差し伸べてくれる人。王城にいた誰もが、そんなことはできませんでしたから」
 王太子としてのグレイは、誰かに助けを求めることを許されなかった。
 それは王城にいた者たちに責任があるわけではない。ただ、グレイは王位を継ぐ者として、そのように生きるしかなかったのだ。
「エスメに出逢うことができて、俺は幸運だったのだろうな。……サフィール。我儘な兄を許してくれとは言えないが、臣下として、生涯、お前を支える覚悟はある。だから、どうか、エスメのことは悪く思わないでほしい」
「はじめから、悪くなど思っていませんよ。ただ、大切な兄を取られたような気がして、面白くなかっただけで。はやく魔女を倒して、帰りましょう。あなたの帰りを待っている人がいるのですからね」
「ああ」
 グレイは力強く頷いた。
 今度こそ魔女を仕留めるために、二人の王子は軍をつれて雪山に入った。

 しかし、魔女と対峙したグレイとサフィールを待っていたのは、想定外のことだった。
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