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初めての女友達
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「リオ!今日は庭で一緒にお昼食べない?」
ココンと軽快にノックされて開いたドアに視線を向けると、一人のメイドが飛び込んできた。薄茶の髪を緩くまとめたのは、ルイ付きのメイドのエミーだった。
「庭で?」
「そう!お天気もいいし。私もピクニックしたかったのよ」
そう言いながらエミーは、新緑のような鮮やかな緑の瞳をキラキラさせた。ピクニックはこの世界では一般的ではなく、理緒が提案したものだ。いつも部屋での食事は飽きるだろうとルイに試してみたのだが、これがルイだけでなく屋敷の使用人の間でも密かに人気になっていた。エミーはルイ付きだが、ルイがいる間は仕事時間なのでピクニックを十分に楽しめなかったのだ。
「いいですね。今日は過ごしやすい日だし」
「でしょ!じゃ、そのように準備しておくわね!」
今日は久しぶりに休みの日だった。というよりも、ルイの子守には休みなどなかったのだが、今日は辺境伯がルイと母親の面会をすると言って朝からルイを連れて行ったのだ。やはり子供には母親が一番だろう。最近は落ち着いてきたルイにとっても、今回の訪問はいい様に思えた。
そういう訳で今日は、屋敷全体が休みのような感じになっていた。勿論、主がいないからと言って警備やメイドの仕事がなくなるわけではないが、それでも使用人は久しぶりにまったりとした雰囲気の中で過ごしていたのだ。
「やっぱり気持ちいいわね~」
パンに野菜や肉を挟んだ、いわゆるサンドイッチを頬張りながら、エミリーは空を仰いだ。お昼休み、理緒はエリーと庭の木陰に敷物を敷いてランチを楽しんでいた。理緒もエリーが準備してくれたサンドイッチを有難く頂いていたが、このサンドイッチも実は理緒が広めたものだった。
エリーとは年が近く、またルイの側にいる事が多いため、自ずと会話する機会が増えて仲良くなった。貧乏男爵家の三女だと言うエリーとは価値観も近く、理緒にとってはこっちの世界で初めて出来た同性の友達だった。
ちなみに理緒が女である事は、この屋敷に担ぎ込まれた時にバレてしまった。しかし理緒はいずれ冒険者に戻るつもりだったので、屋敷では男の子のような服装で過ごす様にしていた。その方がルイの相手をするのが楽だったのもある。こちらの世界のメイド服はやけにヒラヒラしていて、理緒には動きづらかったのだ。
「ルイ様、数日は戻らないんでしょ?」
「うん、マシューさんもそう言ってたね」
「じゃ、その間はゆっくり出来るかなぁ…リオは何してたの?」
「え、あ~マシューさんから勉強教わってるよ。ルイ様がいない間はいい勉強の時間ですね、なんて笑顔で言われちゃって…」
「そっか、それも大変ね」
「でも、文字とか色々教えて貰えるのは助かるよ。この仕事が終わっても知識はなくならないし」
「そっか。でも…ルイ様のお世話が終わってもここで働けば?これだけ広いと、やる事はいくらでもあるんだし」
「雇ってもらえたらね…」
苦笑を返しながらそう答えたが、理緒はここで働き続ける気はなかった。この世界の人間じゃないとバレる可能性があるからだ。さすがに長く居続けてボロが出るのはまずいのだ。ピクニックもサンドイッチも、思いついただけで…と誤魔化したが、あまり度重なると不信に思われるかもしれないのだ。
「それなら大丈夫よ!メイド頭のネリーさんだって、リオにはずっと居て貰ってもいいって言ってたわよ。あの仕事に厳しい人がそう言うんだから大丈夫だって!」
ネリーとは、マシューの妻でこの屋敷のメイドを束ねている人だ。亜麻色の髪はきっちりと後れ毛もなく結われ、薄緑の瞳は常に理知的で揺らぎがない。いつも無表情で滅多に表情を変える事がない、ある意味メイドの鏡だった。普段からにこりともしないが、既に二人の子を育て上げ、子供たちは騎士団に見習いとして入っている、子育ての先輩だ。
「そうは言っても…辺境伯が許さないでしょ?今でも自分の事は胡散臭い目で見てるし…」
そういうと理緒は、一つため息をついた。既にこの屋敷に来てから一月が経つが、相変わらずルイの保護者は理緒を認めたくないのか、猜疑心満載の目で見ているのだ。先々代が命じたからとはいえ、そんなに気に入らないなら首にすればいいのに…と思う。まぁ、それでもここの生活はもう少しいたいなと思うほどには報酬もよく、快適なのだが…
「もう!ルイ様が落ち着いたのはリオのお陰なのに…」
「そうは言っても、雇用主には勝てないからね」
怒ってくれるエリーの気持ちを嬉しく思った。身寄りがないのもあってか、この世界に来てからは小さな心遣いも嬉しく感じられるのだ。他愛もないお喋りの時間すらも、理緒にとっては貴重な時間だった。
「なんだろ?屋敷の中が騒めいてるわね…」
きょうは客人もないのに…とエリーが屋敷の方に視線を向けた。確かに屋敷の方で複数の人の声がしていて、その様子から予定外の事が起きているように感じられた。
「リオ!悪いが直ぐに来てくれ!」
何事かと思っていた二人の元に、ルイの護衛役のダリルが駆けてきた。
ココンと軽快にノックされて開いたドアに視線を向けると、一人のメイドが飛び込んできた。薄茶の髪を緩くまとめたのは、ルイ付きのメイドのエミーだった。
「庭で?」
「そう!お天気もいいし。私もピクニックしたかったのよ」
そう言いながらエミーは、新緑のような鮮やかな緑の瞳をキラキラさせた。ピクニックはこの世界では一般的ではなく、理緒が提案したものだ。いつも部屋での食事は飽きるだろうとルイに試してみたのだが、これがルイだけでなく屋敷の使用人の間でも密かに人気になっていた。エミーはルイ付きだが、ルイがいる間は仕事時間なのでピクニックを十分に楽しめなかったのだ。
「いいですね。今日は過ごしやすい日だし」
「でしょ!じゃ、そのように準備しておくわね!」
今日は久しぶりに休みの日だった。というよりも、ルイの子守には休みなどなかったのだが、今日は辺境伯がルイと母親の面会をすると言って朝からルイを連れて行ったのだ。やはり子供には母親が一番だろう。最近は落ち着いてきたルイにとっても、今回の訪問はいい様に思えた。
そういう訳で今日は、屋敷全体が休みのような感じになっていた。勿論、主がいないからと言って警備やメイドの仕事がなくなるわけではないが、それでも使用人は久しぶりにまったりとした雰囲気の中で過ごしていたのだ。
「やっぱり気持ちいいわね~」
パンに野菜や肉を挟んだ、いわゆるサンドイッチを頬張りながら、エミリーは空を仰いだ。お昼休み、理緒はエリーと庭の木陰に敷物を敷いてランチを楽しんでいた。理緒もエリーが準備してくれたサンドイッチを有難く頂いていたが、このサンドイッチも実は理緒が広めたものだった。
エリーとは年が近く、またルイの側にいる事が多いため、自ずと会話する機会が増えて仲良くなった。貧乏男爵家の三女だと言うエリーとは価値観も近く、理緒にとってはこっちの世界で初めて出来た同性の友達だった。
ちなみに理緒が女である事は、この屋敷に担ぎ込まれた時にバレてしまった。しかし理緒はいずれ冒険者に戻るつもりだったので、屋敷では男の子のような服装で過ごす様にしていた。その方がルイの相手をするのが楽だったのもある。こちらの世界のメイド服はやけにヒラヒラしていて、理緒には動きづらかったのだ。
「ルイ様、数日は戻らないんでしょ?」
「うん、マシューさんもそう言ってたね」
「じゃ、その間はゆっくり出来るかなぁ…リオは何してたの?」
「え、あ~マシューさんから勉強教わってるよ。ルイ様がいない間はいい勉強の時間ですね、なんて笑顔で言われちゃって…」
「そっか、それも大変ね」
「でも、文字とか色々教えて貰えるのは助かるよ。この仕事が終わっても知識はなくならないし」
「そっか。でも…ルイ様のお世話が終わってもここで働けば?これだけ広いと、やる事はいくらでもあるんだし」
「雇ってもらえたらね…」
苦笑を返しながらそう答えたが、理緒はここで働き続ける気はなかった。この世界の人間じゃないとバレる可能性があるからだ。さすがに長く居続けてボロが出るのはまずいのだ。ピクニックもサンドイッチも、思いついただけで…と誤魔化したが、あまり度重なると不信に思われるかもしれないのだ。
「それなら大丈夫よ!メイド頭のネリーさんだって、リオにはずっと居て貰ってもいいって言ってたわよ。あの仕事に厳しい人がそう言うんだから大丈夫だって!」
ネリーとは、マシューの妻でこの屋敷のメイドを束ねている人だ。亜麻色の髪はきっちりと後れ毛もなく結われ、薄緑の瞳は常に理知的で揺らぎがない。いつも無表情で滅多に表情を変える事がない、ある意味メイドの鏡だった。普段からにこりともしないが、既に二人の子を育て上げ、子供たちは騎士団に見習いとして入っている、子育ての先輩だ。
「そうは言っても…辺境伯が許さないでしょ?今でも自分の事は胡散臭い目で見てるし…」
そういうと理緒は、一つため息をついた。既にこの屋敷に来てから一月が経つが、相変わらずルイの保護者は理緒を認めたくないのか、猜疑心満載の目で見ているのだ。先々代が命じたからとはいえ、そんなに気に入らないなら首にすればいいのに…と思う。まぁ、それでもここの生活はもう少しいたいなと思うほどには報酬もよく、快適なのだが…
「もう!ルイ様が落ち着いたのはリオのお陰なのに…」
「そうは言っても、雇用主には勝てないからね」
怒ってくれるエリーの気持ちを嬉しく思った。身寄りがないのもあってか、この世界に来てからは小さな心遣いも嬉しく感じられるのだ。他愛もないお喋りの時間すらも、理緒にとっては貴重な時間だった。
「なんだろ?屋敷の中が騒めいてるわね…」
きょうは客人もないのに…とエリーが屋敷の方に視線を向けた。確かに屋敷の方で複数の人の声がしていて、その様子から予定外の事が起きているように感じられた。
「リオ!悪いが直ぐに来てくれ!」
何事かと思っていた二人の元に、ルイの護衛役のダリルが駆けてきた。
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