【R18】爽やか系イケメン御曹司は塩対応にもめげない

四葉るり猫

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説明を求めたら想定外の答えが返ってきました

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「ちょっと、小林!どういう事か説明しなさいよ!」

 ストレスフルな食事会の後、再び小林のマンションに強制連行された美緒は、リビングに辿り着くなり小林に説明を求めた。社長一家に恋人と紹介されたのも荷が重過ぎるし、そもそも付き合う事に同意した記憶もない。勝手に話を進めていく強引さにも、それに流される自分にもうんざりしていて、かなりやさぐれていた。

「どうって…付き合う事になったから紹介しただけだけど?」

 何をいまさら?と言わんばかりに小首をかしげる小林に、美緒は額に青筋が浮かぶのを感じた。美緒が小林の顔が好きだという事を知っていて、あえてそういう表情をしてくるのも非常に性質が悪かった。いや、その表情もレアだし、目の保養ではあるのだが…

「それがどういう事かって聞いてるの!付き合うって話が出たのだって一週間前でしょうが。いくらなんでも早すぎるし、こっちはまだ納得していないんだけど」

 やっと言えた!と美緒は不思議な達成感すら感じて、これまでのもやもやが幾分かは解消された気がした。そう、ここからはっきりさせないと話にならないのだ。もっと早くに、それこそ昨日のうちに話すべきだったが、過去は変えられない以上、軌道修正するなら早いうちがいい。そして今度こそは流されまい、と美緒は自分に強く言い聞かせた。

「…酔ってたからって、俺の告白をなかった事にするのか?酔ってないと言い張ったのはお前なのに…」
「う…」

 急に悲しげな、切なげな表情を纏った小林に、美緒は直ぐには言葉が出なかった。その件に関しては、美緒も悪い事をしたと思っていたからだ。酔っ払いの戯言と捨て置く案件だろうとは思うのだが、もし自分が好きな人に告白してオーケーを貰ったのに、後で酔っていたから覚えてないと言われたら、暫くはショックで立ち直れないかもしれない…と思うと強く言えないのだ。

「そ、れに関しては…悪かったと思う…でも…」

 確かにそう思うのだが、美緒の方もじゃあこのまますんなりとお付き合いを…とはいかなかった。そもそも小林の顔は好きだがそれ以外には興味がなかったし、急に興味を持てと言われても、そう簡単にわかりましたとはいかないのだ。

「…美緒が俺を受け入れられないのは…昔の事があるからか?」
「…それは…」

 小林の指摘は、半分正解だが半分は不正解だった。確かに小林の学生時代の女性関係は褒められたものではなかったし、実際気持ち悪いと思っていた。だが、半分はそれ以前の問題だ。元々美緒は父親の不倫が元での男性不信であり、優しくて大好きだった父の豹変ぶりは、美緒に大きな恐怖と失望を与え、それ以降父に会っていないために癒される事もなかったのだ。

「昔の事は…気持ち悪いって思ってたし、今でもそれは…ある。でも…今は女遊びしていないっていうのは、嘘じゃないんだとは思う。でも…それとは…」

 そこまで言いかけて、美緒は口を噤んだ。その先の事は小林には無関係がなく、自分自身の問題だと気付いたからだ。無関係な事を言ったところで小林は困るだろうし、そもそも小林がどうこう出来る問題ではないのだ。

「…それじゃ…親父さんの事か?」
「…な…んで…」

 父親の事を指摘されるとは思っていなかった美緒は、驚いて小林を見上げた。その事を話した事があっただろうか…と記憶を辿るが、そこまで込み入った話をした記憶がない。となれば…告白された時、酔ってそんな話をしたのだろうか…

「お前が恋愛とか結婚に興味がないってのは、朱里らと飲んだ時に聞いた。その原因が親父さんの浮気だったって事も」
「そ、う…」

 そう言えば、大石や小林と合流した時にそんな話をしたっけ…と思い出して、美緒は少しだけホッとした。正直、泥酔した時の事を覚えていないので、小林に何をどこまで話したのかがわからず不安だったのだ。美緒は人の事を詮索するのが好きじゃなかったが、それは自分の中に必要以上に踏み込まれたくない事の裏返しでもあった。

「酔っていたお前に告白したのも…付き合って欲しいと言ったのも、今にして思えば失敗だったと思う…」
「え…?」
「だって、俺の気持ち、全く伝わってないだろう?」

 こっちはマジで死ぬほど緊張したんだけどな…と力なく小林が笑った。いつも爽やかさを纏いながらも俺様ないつもの姿とはかけ離れていて、美緒は申し訳ないと思う一方で、全くその通りだとも思った。実際に小林の気持ちは美緒には殆ど届いていない。もし素面の時だったら、もう少し違っていたように思う。それでもからかわれているのかとは思ってしまっただろうが…

「まぁ、そんな事言っても今更なんだけど。でも諦める気ないから」
「え…あの…」

 急に真剣な表情を浮かべて射るような目で自分を見つめる小林を、美緒は信じられない面持ちで見上げた。どうして自分にそこまでこだわるのかが理解出来なかったからだ。

「だ、から…何で私なわけ?私…あんたの事…」

 今更上っ面だけの話をしても無駄だと思った美緒は、ずっと疑問に思っていた事を口にした。正直好かれる理由が思い当たらない。見た目も能力も平々凡々で、好意があるならともかく嫌われているのに好意を持つなどあり得ないだろうと思う。

「そう、お前が俺を嫌っていたから」
「…は?」

 言われた言葉の意味が理解出来ず、美緒は小林の顔をまじまじと見つめた。嫌われていたのに好きになる心理が全く理解出来なかったからだ。普通、嫌われたら嫌いになるものではないだろうか…

「学生ん時からお前、俺の事嫌ってただろ?俺の連れがお前の友達と付き合ってた時に何度か顔合せたけど、お前、俺の事すげー嫌なもの見るような目で見てたし」
「……」
「子供の頃から俺の周りにはちやほやしてくる奴ばっかりだった。大学の頃にはそれが嫌でかなりやさぐれてて…かなりゲスな奴だったと、自分でも思う…」

 小林の言う通り、学生時代の美緒は、小林を今以上に嫌っていた。多分、ゴキブリとかと同じレベルで。それも全ては小林の女癖の悪さが原因で、更には不倫して自分達を捨てた父親への深い憎しみと嫌悪感が根底にあっただろう。時期的にもその直前に父親の事が発覚していたため、小林を見ているとどうしても父親の事を思い出してしまっていたのだ。あの頃は精神的にも不安定だったのもあり、取り繕う事が出来なかったというのも大きかったかもしれない。あまり顔に出さないようにと気を付けていた美緒だったが、小林にはしっかり伝わっていたと知って、美緒は今更ではあるが自分の稚拙さが恥ずかしくなった。

「まぁ、あの頃は何だこのクソ生意気な女は…って程度だったんだ。他にも俺を嫌っている奴らはいたけど…でも、お前ほどあからさまじゃなかったな」
「…そ、そぅ…」
「だから入社式にお前がいた時には驚いた。あんだけ俺の事嫌ってたくせにうちの社に入るのかよって……まさか、俺がこの社長の息子って事も知らなかったとは思わなかったけどな」
「…ぅ…」

 実際に美緒は入社するまで小林がこの会社の息子だとは知らなかったのだ。入社式で小林の顔を見て驚いたが、小林がここの息子だと知ったのはその後の新人研修の最中だった。あの時は、失敗した…と本気で転職を考えたほどだった。社長の息子への態度としては相当悪かった自覚があったからだ。

「いや~俺がここの息子だって知った時のお前の顔、傑作だったよなぁ…でも…それでもお前、全然俺に媚びないし愛想笑いすらしないし、それどころか転職考えっただろう?」
「な、んでそれを…」
「木下に相談してただろう?」
「え…?」

 木下の名前が出て美緒はたじろいだ。木下とは今は秘書課にいる同期で、新人研修時に美緒と同じグループだったのだ。男だが礼儀正しくて穏やかで優しくて、美緒は小林の事を知った時、木下に相談していたのだ。あの頃はこの会社に残っても未来はないと思い、本気で転職を考えていた。
 それでも、木下が小林はそんな陰険な性格じゃないし、美緒が嫌う理由も理にかなっていると言ってくれて、とりあえず一年は様子をみたらどうかとアドバイスしてくれたのだ。幸い、その後は部署も離れて接点がなくなり、特に不条理な扱いを受ける事もなかったので、美緒は転職せずにここで頑張ろうと思ったのだ。だが、何故その事を小林が知っているのか…

「ああ、木下って実は俺の幼馴染なんだよ」
「はぁ?」
「ついでにうちの顧問弁護士の息子で、いずれ俺が役員になった時秘書になる予定」
「…な…」
「ま、木下の事は置いておいて。それからだな、お前に興味持ったの。社長の息子だって媚びてくる奴ばっかりなのに、お前は相変わらず俺の事嫌ってますって態度でぶれなくて…」
「それは…大変失礼を…」
「だから最初は…意趣返ししてやろうと思ってたんだ」
「え…?」

 小林から出た穏やかではない言葉に美緒が身を固くしたが、小林はそれを見て軽く笑った。

「でも、木下に…お前は肩書や見た目で釣られない貴重な人材だからやめろって言われて…ああ、こいつ、俺の中身を見てたんだって思ったらなんか嬉しくて…」
「う、嬉しい?」
「ああ、何か…すげー気が楽になったんだ。だからいつか見返してやろうって思って、それからは必死だった」
「そ、う…」
「だから昨日、お前が嫌いよりも好きが勝ってるって言った時、凄く…嬉しかった」

 そう言った小林の表情はとても嬉しそうで、これまでに見たどの表情よりも輝いて見えて、美緒の胸の鼓動が跳ねた。好きとは言ってもせいぜいプラスに毛が生えた程度なのに、何を言っているのか…

「あ、頭、おかしいんじゃない?」

 悔しいがそんな些細な事でそんなに喜ぶなんて反則だろう…出てきた言葉は、可愛げの欠片もない言葉だったが、それは美緒の照れ隠しでしかなかった。

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