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18章

地下4階にある会議室だったような広い空間に幹部6人とその中心点に奏臣が立っている。
幹部6人は秘術を何回も使用しているため息が上がっている者がほとんどだがそれに対し奏臣は顔色1つ変えずに
ただただ立っていた。
「誰だよ…幹部6人でかかれば勝てるだろとか言ったやつ…」
キングが息を上げながら言う。
「だって…ダメージは絶対に受けないから負けるほうがおかしいって思ってたんだもん…」
キングを見ながらシーラーも息を上げて言う。
秘術にはいろいろな能力があるがそれ以外にも全ての秘術が持っている基本的恩恵が存在する。
それは身体強化と指定した対象から受けるダメージを100%カットするというものだ。個人が秘術に対応することができるように身体強化を。もともと処刑がモチーフのため罪人から反撃を食らうことがないように100%カットが付属していると言われているが実際には不明である。
普通なら1対1や複数人対1で負けることなどない。
しかし今回は話が別である。
どれだけ奏臣を攻撃してダメージを与えようが殺そうが奏臣は何回でも蘇ってくる。拘束しようにも拘束している物の材質を変えられすぐに脱出される。そもそも攻撃を全てガードされているのでダメージが通らない。
幹部たちは消耗戦で完全に負けている。
ダメージを与えられなくても秘術を使うことによる疲労は溜まっていく。
「くっそぉ!」
キングが槍を奏臣に向けて発射する。
しかしそれは奏臣に届くことなく無に変換され、この世から消え去る。
今度はリンシャが奏臣に素手で殴りかかる。強化恩恵を受けているので普通なら超威力の攻撃だ。
しかしその拳は奏臣の目の間で見えない壁に阻まれるかのように止められる。
これは周りの空気を拳が当たる寸前に塊の気体に変換しているからだ。
変換。これを超えることができなければ奏臣を倒すことなど到底不可能。
これが生徒会の頂点に立つ者の力だった。
「バカだよねぇ。あなたたち」
メイクが他の幹部に向けてそう言い放った。その瞬間視線が奏臣から離れ、メイクの方に向いた。
「なんだ。お前に何が言えるんだよ。お前もあいつにダメージすら与えれてないじゃねぇか」
「いやそういうことじゃないんだよ」
メイクはそう言うと下を指差した。
他の幹部は全員「あ?」という顔つきになっているが奏臣は「はぁ」という感じにためいきをつく。
「私たちを倒せないってことはこの人もわかってるでしょ。わざわざ1人で来るかなぁ?」
その瞬間、幹部全員の視線が奏臣に戻る。同時に奏臣の右手が横に空を凪ぐ。
キキキキキキキンと会議室全体が氷漬けになった。ドアも床も天井も壁も全て氷漬けになって、この部屋から出る方法は無くなった。
「…貴様らに今行かれては困るのでな!」
奏臣はもう一度右手を空に凪がせる。
すると今度は氷の槍が奏臣の右手を凪いだところに現れ、そのまま幹部たちに向かって飛んでいく。
その攻撃を見て幹部たちは悪あがきをっ、と思ったが、それは幹部たちに向かって飛んでは居なかった。正確には幹部たちの足元。
氷の槍が刺さると同時に幹部たちの足元から氷が伸び始め、それに対応できなかったシーラー、マニアル、リンシャは氷に閉じ込められた。
ほか3人はいち早く対応し、氷から逃れた。
キング、スモッグ、メイクは天井に避難。しかし氷はまだ伸びてくる。
「ちっ、めんどくせぇな」そうキングは呟く。
奏臣はそんな3人、いやメイク自身にこう言い放つ。
「…私は昔のように弱くない。異人のためにこの力を振るうと決めたんだ!メイクお前が一番わかっているだろう!私を止めたければお前も強くなってみせろ!」
そう言われたメイクは少しムカッとし言い返す。
「強くなってみせろ?関係ないねそんなこと。強い弱いの話なんかじゃない。そんな固定観念とっくに捨ててきてる。力がなくても私はお前を叩き潰す!人間の未来のために!」
その2人の怒号にキングとスモッグは一瞬怯みつつも、すぐに自分のやるべきことを再確認し、メイクと共に最強に挑む。
全ては彼女の思惑通り。

「聖奈…いつまで僕のことを恨んでるの?僕が一体何をしたっていうのさ」
レキはめんどくさそうに幽美に問う。
それに幽美は
「覚えてないというのか霊兎!私を追い出そうと仕組んでおいて!」
「だから僕は何も知らないって…。誰から聞いたんだよそんな話」
2人の言い争いはヒートアップしていく。
ただ幽美が一方的に膜して立てている感じだが。
途中、急に幽美が黙り込み、黒山たちに向かって言う。
「こいつは私が1人で倒す」
咲川も黒山は止めたが、幽美は聞く耳を持たなかった。
幽美を何がそんなに震え立たせるのだろうか。黒山たちにはまだわからない。
そして先手を取ったのは幽美だった。
お得意の5本の紙槍攻撃を使ってレキを串刺しにしようと向かっていく。しかし、それをレキは高速で避ける。秘術の基本的恩恵の身体強化だ。
レキの反撃。紙槍が飛んでいる最中、幽美は動けない。その瞬間を狙って牙忍に浴びせた電流攻撃をする。
「君は5本しか同時に扱えないからね。そんなこと僕が知らないとでも思った?」
レキは攻撃をしながら幽美に言う。しかし、幽美はニヤリと笑って、
背後からもう1本の紙槍を出現させ、レキに向かって射出する。
レキは「な!?」と驚き、反応が遅れたがギリギリのところでかわす。
合計で6本の紙槍を戻し、幽美はレキに向かって言う。
「私だった成長しているんだ!全てはお前を倒すためにな!」
それに対しレキは
「…めんどくさいなぁ。そうか…なら少しだけ本気を出すよ」
とだけ言うと、着ていた白衣を脱ぎはじめた。
何がしたいんだ?と黒山たちが思っていた。そしてレキはその白衣を空中に投げ捨てると
ピキキキキキキィ
といった音とともに光の速さで幽美を攻撃した。
まさに「光」で黒山たちには目視できていなかった。気付いた頃には投げ捨てた白衣をレキがもう一回掴んでいるのが見えた。レキが通った跡らしき光の残滓が残っていたのがせいぜいわかることだった。
攻撃を受けた幽美は体のあちこちに切り傷のようなものができていてそこからツーと血がたれてきていた。
一つ一つの怪我は大したことはないが、傷が組み合わさって重症並みの怪我ができている。
幽美は傷を手で覆いきれず、手を肘につけ楽な姿勢になる。
息も荒くなってきていて、かなりのダメージが入っていることがわかる。
「流石に付いてこれないでしょ。これが僕の新しい力、雷通ず処刑だよ。君が6本目を使えたように僕も成長してるんだ」
幽美!と黒山が手を貸そうとするが駆け寄る途中、幽美の顔を見た。
笑っていた。
いろいろな感情が入り混じった笑い方だった。
黒山にはわからないがそこまでの因縁がこいつにあるのだろう。ということだけはわかった。
黒山は元の場所まで後ずさりする。
本人から求められるまで手を出さない。出したら本人に殺されそうだ、と黒山は思った。
レキはようやく気付いた。
幽美に作った傷の数がどんどん減ってきていることに。
そして幽美がニヤニヤと笑っていることに。
「おもしろいね…。じゃあ少しじゃない。本気を出すよ」
そう言うとおもむろにポケットからなにかのボタンを取り出した。
そしてそのボタンを1回押す。
するとレキの体の形状が稲妻状に崩れ始めた。
その崩れた稲妻は入り組み、組み立てられ、レキ本体の姿から形を変えた。
「ガァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
その姿は本体が稲妻で出来た目玉だった。黒目の部分は別色の稲妻が使われているためかろうじて目玉とわかる。もうレキの面影はない。
幽美はそんなレキの姿を見ても変わらずニヤニヤしていて、戦うのが待ちきれないといった風に見える。
そして、どこからかパキキキキキとなにかが凍るような音がすると2人は瞬間的に戦闘を開始する。
雷鳴が部屋全体に轟く。
幽美は紙槍を目玉に向かって5本発射させるが、紙槍はまるでレキに実体がないかのようにすり抜け、壁に突き刺さった。
すぐに紙槍を戻そうとするが、その途中にレキが動き始める。
目玉の全方位から雷が発射され、逃げ場無く幽美を襲う。
雷は床や天井や壁に帯電し、ビリビリと余韻が残る。
幽美はその電撃を耐えていた。正確には1本残していた紙槍を避雷針にして、自分が受ける雷の量を最低限にさせたのだ。そのおかげで少々怪我はしているものの戦闘不能という状態には陥っていない。
「紙槍に対雷性能があって命拾いした。今度はこっちの番だな!」
幽美はそう言うとまた紙槍5本を目玉に向かって発射させた。
すると今度は発射したうちの1本が目玉の中心点に入り、動きを止めた。
その瞬間に目玉の叫び声が響き渡る。
幽美は弱点見抜いたりと言った感じで、さらに4本を巻き戻して同じところに発射する。
目玉は形を崩してその攻撃を避ける。その一瞬の時間に中に幽美の槍が突き刺さったと思われるものが見えた。それは殻のようなものだった。そしてその殻にヒビが少し入っているのも確認できた。
「あれが核ね。あの殻を破ればあいつも倒れるはず」
そう言うと連打的に紙槍を発射させはじめた。ひたすら刺す刺す刺す刺す。
だがその攻撃中、本体は無防備。
目玉が動いた。
目玉の中心点から巨大な雷を幽美に向かって発射した。
また幽美は避雷針を立てて攻撃をそらそうとする。実際攻撃は避雷針の方に落ちていった。
しかし、雷は落ちると無数に散らばった。無数に散らばった雷は全て幽美の方へ向かっていった。
それに幽美は気づかない。
黒山が声を出すよりも先に雷のほうが幽美に到達した。
無数の雷は幽美の体に無数のかすり傷を作った。そのうち何個かは体を貫通し、幽美を感電させた。その証拠に幽美の体が一瞬、ぴくんと跳ねたように見えた。
幽美ががくんと膝から崩れる。片膝をついて目玉を睨みつける。
目玉が甲高い音を上げて幽美を威嚇する。
そして、感電して動きが鈍くなっている幽美に向かってまた雷を発射した。
その雷を幽美は精一杯の力で立てた避雷針で誘導しようとしたがなぜだか軌道は変わらない。
そのままガシャーンという音と共に雷は幽美に直撃した。
あたりに電流が走る。
ドサ、と幽美が倒れる音がした。
目玉はまた甲高い音を立てた。それは勝ちを確信した雄叫びのように聞こえた。
黒山たちはその様子を見ていた。
戦いの最初から最後まで。
そして、幽美が倒れる直前に笑っていたのも。
次の瞬間、目玉の中心点から1本の紙槍が貫通してきた。一瞬の間を置いて目玉の叫びが発せられた。
そして、目玉は動きを止めボロボロと崩れ始めた。
落ちていく稲妻の中に破壊された核と思われるものも一緒に落ちてきていた。
幽美はゆっくりと立ち上がり、その惨状を見て、
「作戦成功」と言った。
そして幽美は突然腕の皮を掴んだかと思うと、それを剥がし始めた。その中にはきれいな人間の皮膚がもう1枚存在していた。
その剥がした皮は紙槍を崩したものでそれを体中に貼り、雷攻撃を防いでいたということだった。
幽美の体から何枚もの紙槍が剥がれてくる。
普通に絵面がエグい。と黒山は思った
そして目玉の落ちた場所にレキが倒れていた。「う…」とうめいているので意識はあるだろう。
幽美は紙槍を一通り剥がし終わるとレキの元へ歩いていって
ガゴンとげんこつを一本ぶちかました。
その瞬間、レキはバタリと倒れて黒山を囲っていた牢獄も崩れていった。
そして幽美はレキの耳元で「私の勝ち」と言い、レキをゆっくりと床に寝かせたのだった。
勝者、幽美聖奈。
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