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51章

また一般生徒は日常が始まった。
記憶は改ざんされ、文化祭は滞りなく進んでいったという事になっていおり、それは入場した人たちも同じ。
だが一部の真相を知る人はこれから来るかもしれない災厄に不安を抱えていた。
全ての元凶、神天使。
奴が壊れないこの世界に痺れを切らして自身の手を下してきたのだ。
幸いそれは奏臣が阻止したがそれによって異人や秘術が生まれた原因や自身の生い立ちを明かすことになる。
生徒会たちは新たなる敵が現れたことや全ての真相を知り、まだ状況を飲み込めていなかった。
一方、ディストはメイクの目的と組織の目的が相違したため、対立してしまう。
1体5。
圧倒的な数の差。
まだ混乱は収まらない。

俺は異人に対する復讐がしたかった。
だからこの組織に入った。
だが現実は無常で異人というものはこの世から能力だけを消し去るという異人にとってご都合的な逃げ道が出来てしまった。
進んで人殺しをしたいわけじゃない。
異人を殺していくうちに自分の考えが変わっていることに気がついていた。
だがそれは組織の目的に反すること。
だから奥底にしまって消し去ろうとしていた。
結局は消しされなかったが。
異人は憎いがゲームセンターであの2人を見た特、普通の人間だと思ってしまった。
異人でもゲームをしたりするのか、と。
正直偏見だったと思う。
異人は一般人を見下している。異人は凶暴で殺戮を好む。異人は人を愛することなんてしないと。
そう考えていた。
だがそんな思考はあの2人を見て確信から疑問に変わっていた。
あの2人は狂うほどお互いを愛していて、普段は2人とも温厚で、特に一般人を見下している様子もない。
一般人と変わらない。
一体俺はどうすればいいのかわからない。
答えを誰か教えてくれ。

「とりあえず逃げるが勝ち。早くあっちと合流しないとね」
瞬間移動を繰り返して長距離移動するメイク。
あぁ啖呵は切ったが戦うより逃げたほうが早いか、と判断して逃げてきたのだ。
話せばわかってくれると思っていたが少し甘かったね。と自身の行動を反省する。
新しいアジトは本当に山の中であいつのいる高校とかなり距離がある。
その距離を制限のある瞬間移動で何回も飛んで時間短縮をする。
「来る時はあいつから力借りてたから一回で飛べたけど、さすがに私の能力じゃ時間かかっちゃうね」と飛びながら独り言を言う。
しかしそんな余裕は無いことに気付かされる。
後ろから幹部たちが追いかけてきているのを気配で察知した。
その距離10キロほど。
普通ならば十分な距離だが秘術師はそうはいかない。
キングが槍を飛ばしてそれに乗って高速で飛んできたり、マニアルが青龍に乗って飛んできたり、リンシャがその車輪を使って追いかけてきたり方法は無限にある。
だがこんなに早く来るとは思っていなかった。
「どうしたものか」
瞬間移動を繰り返しながら悩む。
瞬間移動の移動速度は一回につき1キロ。
そして幹部たちの移動速度は計算して秒速2キロ。
向こうに着く前に確実に追いつかれる。
簡易計算、あと10秒で追いつかれてしまう。
時間がないな。
一応、こっちの状況は向こうにも送ってるけど忙しいのかな。うーん気づくまで何分かかるだろうか。
頭で考えて覚悟を決める。
「迎え討ちますか」
そう言って瞬間移動をやめて立ち止まる。
すると一瞬で目の前に幹部たち全員が現れる。
キング、スモッグ、レキ、マニアル、リンシャ。
キングは槍を持ち、レキは体を電気状態にし、スモッグは自身の周囲に煙を振りまき、マニアルは幻獣を数匹呼び出し、リンシャは何個もの車輪を操作して臨戦態勢だ。
「どうした。諦めたのか」
リンシャが何も動かないメイクに向かって聞く。
メイクは幹部たちを目の前にしても何も行わない。
「君たちで私に勝てると思ってるの?」
メイクはそう言って幹部たちを煽る。
幹部たちは顔をしかめる。
「遠慮なく行かさせていただきますよ。元仲間としての情はもうありませんから」
スモッグが煙を毒々しい色に変換して言う。
そんな風に言われてもメイクは何もしない。
その様子がじれったいのかレキが最初に動いた。
電の球体にした自身の体をメイクに向かって突進させる。
勢いは十分、触れれば感電死は間違いない威力。
それをメイクは
右手だけで止める。
感電しているはずだがそんな様子は微塵も見せない。
そして雷は無に変換される。
バチッという断末魔とともに気絶したレキが地面に落ちる。
何が起きたかと幹部たちが何もわからず汗をかく。
メイクの能力にレキの雷を変換できるほどの能力はないはずだ。なのになぜ。
そしてメイクが一言。
「…あいつのフリっていうのも疲れるな」
絶望の声だった。
その話し方はメイクじゃない。
服装がメイクなだけのあの生徒会長だ。
「…真実を話したらこうなるというのは予測していた。だからあの子が行くより私が行ったほうが良いと思った。結果としては大成功だったわけだが」
そう言いながら奏臣は服を元の制服に変換し始める。
もののコンマ数秒で服が制服に戻る。
メイクのフリをやめた奏臣は手をうっと伸ばす。
「…さて私もできればお前たちを殺したくはないんだ。ここから立ち去ってくれればそれでいい。どうする?」
奏臣はそう選択の余地を与えた。
奏臣はこのディストの人間も戦力として育てている。
それも無駄にはしたくない。
と思っていたのだが
「そうは行かないぜ会長さんよ」
キングがそう言って一歩前に出る。
「こっちとしてもあんたの思惑通りってのは性に合わなくてな。負けるとわかってても戦わなきゃいけないんだ」
そう言い放った。
その言葉で他の幹部たちも一歩ずつ前に出てくる。
どうやら降伏の意思はないらしい。
結構めんどくさいことになったなと奏臣は思う。
「…そうか。ならば行くぞ」
戦いが始まった。
今回は手加減をしない。
最初から飛ばしていく。
手加減をする理由は消えた。
本気で来るのならそれに答えなければ生徒会長の名が廃る。
キングが槍を飛ばし、スモッグが動きを止める煙を撒き、リンシャが車輪を持って突撃し、マニアルが氷虎を放つ。
異人でも幹部の攻撃を耐えることは不可能。
奏臣が異常だとわかった上でそれを遥かに超える威力をお見舞いする。
これで打ち勝てるかどうかはわからない。
一撃で決める。
幹部たちはこれに賭けた。
だがその賭けはあまりにも絶望的な賭けだった。
「私たちに勝つのは億年早い」
奏臣がそう言うとキングの放った槍は方向を変えてキング自身に向かっていき、スモッグの煙は無に変換され、突撃してきたリンシャは何故か動きを止めて、マニアルの放った氷虎はなにもないところでぐちゃぐちゃに体を引き裂かれ死亡する。
幹部たちの全力はいともたやすく打ち破られた。
キングは槍を右腕に受け右腕が引きちぎられる。
絶叫するキング。
「フリっていうのも嘘」
奏臣がメイクのような口調で言う。
いつの間にか着ている服も変わっており、その姿はいつもの制服の上に白を貴重としたデザインのパーカーを羽織り、背中に天使の羽を生やした姿だった。
「私たちは本来の力を取り戻した。貴様らが勝てる可能性は0にすら満たない」
奏臣はメイクを取り込み元の力を手に戻していた。
無限と有限。
対をなすその2人が取り戻した1つの力、名は「零」。
あらゆる能力の頂点に立つ能力だ。
「時間神逆。思考神操。創造せよ、クリエイトオールタイム」
創神がそう叫ぶと全ての時間が戻っていく。
気絶したレキは意識を保っている状態に戻って、キングの無くなった腕、ぐちゃぐちゃに殺されたはずの氷虎も復活し何事もなかったかのようにしている。
その光景に幹部たちは絶句するしか無かった。
そしてその元と同じ光景に1つ不可解なものが増えている。
奏臣とメイクが2人に別れていた。
「一体何をした?」
キングが混乱しながらも奏臣に尋ねる。
そんなに冷静になれるのは関心だなと奏臣は思いつつ説明をする。
「…時間の巻き戻しは普通なら未来が変わることはない。今私が時間を戻したという事実すらも戻ってしまう。だがそれを壊し、未来を変えることが出来るように時間を巻き戻すことが出来る。それが能力の複合クリエイトオールタイムだ。貴様らが死ぬという未来を壊した。さっさと逃げろ」
奏臣はそう言って辺り一帯の木をなぎ倒す。
これは脅しだ。
だが虚仮威しではない。
実際実力差によって幹部たちは今にも逃げ出しそうに後ずさりをしている。
これで逃げてくれれば良いのだがな。
と奏臣が思った次の瞬間。
ビュンと槍が奏臣に向けて一本放たれた。
それをうかつに顔面に受けて顔が壊れる奏臣。
だが体はすぐに再生され復活する。
もちろんその槍の持ち主はキングだ。
「さっきも言っただろ」
呟く。
「負けるとわかってても」
それは一種の狂気のようにも感じる。
「戦わなきゃいけないんだよってことをな」
顔を上げたキングの顔は迷いのない顔に変わっていた。
元々立場は向こうが正義でこっちが悪。
だがその光景はそれを確定付けるものだった。
しかしキングのその決意は無駄に終わる。
なぜかって。
奴が来たからだ。
空から天使が降りてきた。
天使は降りながら炎で奏臣とメイクを燃やす。
その炎色は黒だった。
天使は歪な仮面を付けていて素顔が見えない。
そして天使は幹部たちの前に降り立つ。
天使は体のパーツがところどころヒビが入っていていかにも壊れそうな体をしている。
服は白を貴重とした制服で背中には天使の羽が生えている。
突然現れたその天使に幹部たちがさらに混乱を抑えられない。
天使はそんなことお構いなしに言った。
「神天使様の命。お前らを捕らえる」と。
確かにそう言った。
すると
炎の中から1つになった2人が天使に襲いかかる。
と同時に
「逃げろ貴様ら!お前らが捕まったら世界が終わってしまう!」と叫んだ。
天使は振り向いて創神と対峙する。
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