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暴走

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57章

炎を使い、櫻木は仮面の天使の仮面に矢を飛ばす。
矢は炎によって加速し、仮面の天使の仮面を貫く。
しかし頭を貫かれて尚仮面の天使は死なない。
不死の能力はそれ自体を無効化しなければがなければ殺すことができない。
勝つためにはこの勾玉の力を開放しなければならない。
この勾玉にはライの心無き執行者の効果が詰まっている。
それさえ開放できれば不死の能力を無効化して互角に戦える。
戦いの中で見つけるしか無い。
櫻木は炎を纏ってライと戦う。
仮面の天使は鎌を高速で振り回す。
その速さは異次元で空間すら切り裂き櫻木を傷つける。
その傷をすぐに櫻木は修復した。
今度は櫻木が炎剣を使って仮面の天使の鎌を止める。
そのおかげでそれ以上空間が切り裂かれることはなくなった。
鎌と炎剣が何回もぶつかり合う。
拮抗状態が続く。
その時だった。
仮面の天使の動きが何故か止まる。
仮面の天使が頭を手で押さえながらうごめく。
その姿は苦しんでいるように見えた。
「やめろ…お前は出てくるな…!」
ライはたしかにそう言った。
「お前?一体誰のことを話してる」
フランマが櫻木の体を借りて言う。
しかしライは苦しむばかりで何も反応しない。
ずっと「出てくるな…」と呟いている。
その異常な光景に2人は困惑する。
だが同時にこれはチャンスだと思い、櫻木が炎剣を頭を押さえる仮面の天使に思い切り振り下ろす。
その瞬間。
仮面の天使がギリギリのところで炎剣をかわした。
そして大人しくなり、直立する。
何かが変わった。
そう感じるのに時間はかからなかった。
すると勾玉が突然光り輝く。
そして櫻木の体に入り込んでいくのを感じた。
何が起きている。
「やっと取り戻した」
仮面の天使がそう言った。
しかしライのときと違う雰囲気だ。
人が変わったように。
もしかしたら多重人格かもしれない。
そう櫻木は考えた。
仮面の天使がこっちを見る。
すると突然櫻木を纏っていた炎が消えて櫻木は元の姿に戻った。
しかもフランマが櫻木の体からいなくなっている。
さらに気づいたことが。
身体強化が能力に追加されている。
これは信二くんが生きていた時代に信二くんと私が共有していた能力だ。
消えたフランマ。
共有していた能力の復活。
仮面の天使の変化。
「まさか…」
そこで櫻木はある可能性に気づく。
ライも黒山も死んでいる。
ライだけ蘇らせるなんてことあるのだろうか。
少なくともライと黒山は戦力で見れば同じかそれ以上のはず。
「信二くん…?」
櫻木は恐る恐る仮面の天使に話しかけた。
仮面の天使はゆっくりと目線を背ける。
その意図はなにか。
「なんでこっちを向いてくれないの…?」
櫻木が仮面の天使にもう一回話しかける。
だが仮面の天使はこっちをむこうとしない。
その時だった。
「そいつはあの不死野郎じゃない」
櫻木の意識に誰かが話しかけてきた。
その声はライだ。
「あいつは神天使に操られてる。お前の知ってるあいつはもういない」
フランマと同じようにライは頭の中で話す。
「なんであなたが私の中にいるの?」
櫻木も頭の中で聞く。
それにライは
「あいつに体を追い出され、魂が宿ったのがさっきお前が持ってた勾玉だったんだ。あれは俺の一部みたいな物だからな。そして勾玉が覚醒して能力になってお前に宿ったんだ」
と返した。
あの勾玉の正体はライの体の破片だった。
そしてその勾玉はライの依代となって魂を宿すことが出来る。
勾玉は今実質ライ本人のようなものだ。
ならば
「私は今、心無き執行者を使えるってことね?」
櫻木がライに聞く。
ライは「あぁ」と答えた。
ライ本人のようなものなら彼自身の能力も使えるはず。そう考えた。
あの仮面の天使が操られてる信二くんなら私が助けないと。
と櫻木は決心し、心狂う愛人者を発動。
狂気の概念を放出する。
仮面の天使は放出された概念に気づいてこっちを見る。
「炎滅」
仮面の天使がそう言うと漆黒の炎が出現する。
彼が死んだときに使っていた炎。
幸い身体強化は使えるようになっているため攻撃の手はある。
そして心無き執行者。
これが鍵を握る。
操られているということは何かの能力で操られているということ。それを消してしまえばきっと元の信二くんに戻るはず。
「行くよ!」
櫻木は身体強化を使って狂気の概念と共に黒山の元へ走っていく。
その時、
ドカンと櫻木の足元の床が爆発し、櫻木は上空に吹き飛ばされてしまった。
何が起きたかわからない。
吹き飛ばされた櫻木の元に仮面の天使が飛んで近寄ってくる。
身体強化があると言っても空中は身動きが取れない。
空中戦は羽がある仮面の天使の方が超有利だ。
なんとかして地上に戻らないと。
仮面の天使が櫻木の元へ着き炎剣を櫻木に突き立てる。
すると突き立てられた炎剣を櫻木が両手で掴む。
その瞬間に肉が焼かれる音と炎剣が形を維持できなくなり爆発する音が響いた。
炎剣がなくなって仮面の天使の攻撃は空振る。
その間に櫻木は落下していき地上に着地した。
櫻木の手は炎剣によって変色していた。
しかし身体蘇生によってすぐに治る。
だが痛いものは痛い。
まだ腕がしびれている。
仮面の天使も地上に戻ってくる。
しびれる両手を無理に動かし、櫻木は床に落ちていたナイフを1本拾う。
このナイフは自傷行為用のナイフだった。
だけど最近はめっきりやらなくなりどこかに無くしていたはず。
さっきの爆発で出てきたのだろう。
武器としては心もとないが手ぶらよりはマシだ。
仮面の天使が櫻木に向かって炎を放射する。
その炎をかき分けて櫻木は仮面の天使へもう一度突撃する。
一回でも触れることができれば心なき執行者で信二くんを元に戻せる。
世界で一番愛している人。
そのためならなんだってやってやる。
それが私の愛だ!
櫻木は炎を逆流してゆっくりと向かっていく。
そしてついに目の前まで辿り着いた。
「絶対に助けてあげるからね」
櫻木は仮面の天使に向かって言う。
手をのばす櫻木。
仮面の天使の元へ。
そしてついにその手が仮面の天使を捉えた。
指先が触れる。
瞬間、仮面の天使の全てが白く光り。
花火のように弾けた。

天上。
神天使が下界の様子を見てイライラしているように爪を噛み、貧乏ゆすりをしている。
「面白くない面白くない面白くない」
ずっとそう呟くその姿は異常だ。
アマ対ミコも決着が付きそうも無いし、何故か仮面は動きを止めてる。
面白いものが見れるかと思ったのに全然面白くない。
「なにか面白そうなもの…あ、そうだ」
そこで神天使は何かを思い出す。
そして下界の奇跡を操作して何かし始めた。
「もっと面白く世界を壊して~理想郷を作るんだ~」
下界に落ちている奇跡はほとんどが神天使のもの。
秘術師や4大天使は例外だがそれ以外は全部神天使が操れる。
面白そうなものができるぞ!
そう神天使は確信した。
見ている下界の様子は3つ。
そして彼らの奇跡を
暴走させた。

その時、創神たちが住む県の3つの場所で異人の暴走が確認された。
ある場所は人がゾンビのように自我を失って暴れ始め、ある場所は超絶身体能力を持つ異人が建物を破壊して回り、ある場所は物が勝手に動きだすポルターガイスト現象が発生し、回りの一般人を攻撃し始めた。
被害も確認され、それは未だ拡大している。
警察の対異人部門も応戦するが手も足も出ない。
対異人部門の警官はこう言い残した。
「あれは異人じゃない」

そしてそのうちの1つ超絶身体能力を持つ異人が居る場所に1人の秘術師がいた。
「何が起きてるっていうの?私の研究結果にもこんなに奇跡が増大するなんて記述はないわよ」
慈悲無き処刑を使い、手の2本のサーベルを持つ秘術師。
かつての奏臣の研究者そして復讐のために組織にはいった彼女。
だがその根幹にあるのは世界平和だ。
奏臣を研究していたのも奏臣の力が危険すぎるためそれを制御するための方法を探していた。
だからこの場面に遭遇して逃げるわけにはいかない。
目の前に居る全身が漆黒に染まった異人と対峙する。
「奇跡の抑制法をようやく見つけたのさ。実験台になっておくれよ牙忍隼」
彼女の名は迎者 澪。
組織改めディスト所属の秘術師だ。

人がゾンビのようになっている場所に1人の異人が現れた。
「何で僕が無事なのかはわかりませんが、暴走の理由もよくわからないですね」
片手に本を持った異人。
その本の中身は全て白紙だ。
ゾンビのようになった一般人たちが彼に群がってくる。
すると彼はその本を開き、白紙のページを指でなぞる。
すると白紙のページに文字が浮かび上がってきた。
「削除」
彼がそう言うとゾンビのようになっていた一般人が数十人元の姿に戻ってその場で倒れる。
能力の削除。
彼らにかかっていた能力を全て削除した。
倒れた一般人の無効に1人漆黒に染まった異人がいた。
その異人を見ると彼は言う。
「僕が結末をハッピーエンドにするんだよ。人爽、邪魔しないでくれるかな」
彼の名は追人手捨。
生徒会所属の異人だ。

そしてポルターガイスト現象が起きている場所には5人の秘術師が。
「どうして俺らは奇跡を使ってるのに無事なんだ?」
「多分奇跡の系統が問題。僕達の奇跡の源であるあの球体は不死男と狂気女の奇跡だから。それかな」
「無駄口を叩いている暇はないぞい。すぐに攻撃がくるのじゃ」
「無論、承知している」
「あそこの生徒会長と他の無事な異人もみんな手が離せないみたいだから、私たちがここを制圧しなければいけない」
5人は飛んでくるものや建物を避けたり壊したりする。
何回も避けながら着実に中心点に近づいている。
近づく度に飛んでくる量は多くなるがそれでも余裕に表情で避け続ける5人。
ある者は槍を使って建物を壊し、ある者は雷の速さで移動しものを避けたり、ある者は自身が呼び出した幻獣によって様々な方法で回避したり、ある者は自身の足に車輪を付けて高速で移動したり、ある者は自身の体を煙上にして飛んでくるものを避けていた。
そして中心部にたどり着く。
そこには漆黒の姿に染まった異人が1人立っている。
そして槍を使う秘術師が言う。
「もう俺らは自分の罪を償うって決めたんだ。だから幽美。お前をここで倒す」
彼らはディスト幹部。
キング、レキ、マニアル、リンシャ、スモッグ。
現ディストの最高戦力だ。
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