上 下
64 / 67

しおりを挟む
1章

最近、奇妙な夢を見るようになった。
毎日ではないが、3日に1回ぐらいだ。
その内容は全部同じだが、夢を見ているときは全くその事に気づけない。
そしてその夢に出てくる人物の顔はすべて黒く塗りつぶされている。
自分は気絶し、誰かに担がれているのに何故か周りの状況が把握できていて、周りには瓦礫の山が。
そしてその瓦礫の中心にいるやつと天使の羽を生やしたやつが同時に叫ぶと黒い穴が現れ、それが全てを吸い込むのだ。
俺はいつも動けないためそのまま吸い込まれるだけ。
そこでいつも目が覚める。
起きたときはいつも汗ぐっしょりで布団を濡らしている。
そして頬に感じる熱い感触。汗ではない、それは目から流れ出している。
涙だ。
何故泣いているか、自分でもわからない。落ちたという夢がそんなに怖かったのかのかもしれない。
だけど、何故かその涙は普段感じる痛みやショックの涙と違うものだという感じがあった。
わからない。だけど、非情にも時は過ぎていく。

「…ここは家か…?」
黒山は自宅で起床する。
いつもの光景だ。
木でできた部屋、奥に見えるドア、自分の横にちゃぶ台、ドアに着く途中にあるキッチン。
いつもの部屋というものは安心する。何も変わることがないから。
ザワ
なぜか安心できない。なぜだろう。この部屋は自分が越してきた高1のときから何も変えていない。期間にして1年とちょっとだ。その間は自分しか出入りしてないはず。そして自分が部屋の模様替えをした記憶もない。なぜか安心できない。
誰かを家に招き寄せた記憶もないのに。
「一回顔洗ってくるか」
と黒山は言ってキッチン兼洗面所へ向かった。
桶に水を貯め、そこに顔をダイブさせる。
ざばーと間抜けに水が流れ出す音が聞こえた。
水から顔を出し目の前にある鏡に見えたのは当然自分の顔。
特にイケメンではないがよく女の子っぽいと言われる可愛い寄りの中性的な顔立ち。他の色を許さない漆黒に近い真っ黒な髪。自分自身、黒山信二がそこにいた。
ふと、鏡の中の自分に背後になにかが写って見えたように感じた。
いや、感じたじゃない。
鏡の中の自分の背後に誰かが居た。
そいつはどこからどうみても会長だった。
「うわぁぁぁ!」
黒山は驚いて倒れる。
しかし倒れるほど廊下は広くないため壁に背中が当たった。
そしてさらに驚くことに鏡の中から会長が出てきたのだ。
「お前、私を覚えてるか?」
会長は黒山にそう聞いた。
黒山は訳がわからずに「覚えてます
けど会長ですよね…?」
と馬鹿正直に答えた。
それを聞くと会長は
「ふむ、時間逆行は成功。そして私が干渉できているということはここは別次元じゃない」
と訳の分からないことを言い出した。
「何言ってるんですか…?そもそもどうして鏡の中から出てきたんですか…?」
と恐る恐る聞く。
それに会長は
「そうか。この時間はまだ櫻木の能力が覚醒してないのか」
と言うとまた鏡の中へ消えていってしまった。
何なんだよほんとにと黒山は思う。
朝から何か頭のおかしいものを見たが今日は学校があるためゆっくりはしてられない。
戻って携帯を手にもって櫻木に電話をかける。
起こして遅刻させないためにな。

「来たな」
奏臣が言う。
その声を皮切りに窓を割って組織の刺客が生徒会室に入ってくる。
リーダーと思われる赤髪の男はだるそうに話す。
そして突然、奏臣を槍で壁に刺し天井に固定した。
血が少なくない量垂れる。
それに対して黒山がキレ、キングと名乗った赤髪の男に攻撃を仕掛けた。
「すべてが同じだな。私が黒山と接触しても未来の改変は起きないか」
その様子をはるか遠くから創神は眺めていた。
この創神は未来の創神。
時間神逆によってこの世界の時間は戻ったが、創神は能力が暴走した影響で記憶を残したままこの時間の奏臣とは別の存在になってしまった。
「もしかすると私が黒山に干渉したという事象自体が消し去られている?」
会話をすべて聞いていたが黒山が私に朝の件を言及していない。
私が普段から特殊だったからかそれとも仮説が正しいか。
後で黒山の頭でも読んでみるか。
そこからの展開も全く同じ。
キングが私によって倒され、櫻木が生徒会に入り、黒山と咲川が接触する。
事の成り行きを見つめていたとき。
prrr
携帯が鳴った。
普通ならありえないことだ。
だが心当たりが1つ過去にある。
創神は電話に出る。
「…もしもし」
その声の主は自分だった。
そうだ。私は未来の私の存在に気づいていた。
そして電話をかけたのだ。
難しい話じゃない自分の電話番号にかけただけだが。
「…単刀直入に聞く。貴様。未来の私か?」
電話の向こうにいるこの時間の奏臣はそう聞く。
私はこれと同じことを私に聞いた。
そして未来の私はこう答えた。
「お前の考えている最悪事象が起きた」
と。
そのあと未来の私は明日落ち合おうと話した。
ここで言う言葉を変えたらどうなるか気になるところ。
だが
「お前の考えている最悪事象が起きた」
出てくる言葉は何故かそれしかなかった。
これが運命というものだろうか。
そしてその後、奏臣と明日落ち合うことを約束し電話を切る。
電話を切ったあと創神はため息をついて
「どうやって結末を変えるんだ」
と呟いた。

時間を逆行しても結果は変えられない。
これは天使や神より上位の存在。
全てのルールだからだ。
いわゆる運命という物。
自分がどれだけ頑張っても、抗っても何も変わらない。
実は1回だけ時間神逆を試したことがある。
黒山が死んだ時だ。
あの時、時間神逆を使って黒山が死なないルートを探した。
だが見つからなかった。
運命からは逃れられない。
それを確信させる出来事だった。

待ち合わせ場所で奏臣は相手を待っていた。
このために学校を休んだ。
「…来たか」
向こうから自分と同じ存在が歩いてくる。
服も髪も肌色も顔もすべてが同じ。
「…貴様が未来の私か?」
奏臣がそう聞くと相手は
「あぁそうだ」
と答えた。
その後は適当な話をした。
この後起きる事象やそれを回避できないこと。
そしてこのまま行くと何も救えないことも。
それに対して意見を出し合い、何通りもシミュレートしたがすべてが失敗に終わった。
しかしそこで奏臣が用があると言って解散になった。
時系列通りに行くと黒山と咲川の周りに居た怪しい人物たちを始末しに行くところだろう。
全てわかっている。
結局何もわからなかった。
伝えることは伝えたがすべてあの時と同じ。
ただ立場が変わっただけだった。
「少しあそこに行ってみるか」
そう言って創神はその場を後にする。

創神が向かった場所は森だった。
時刻はとっくに夜で周りは完全に真っ暗だ。
一寸先は闇という言葉が一番合っている。
悩んだり壁にぶつかったりするとよくここに来た。
今回は何百年ぶりだが。
森の中を歩くと開けた場所に着く。
ここだけ木が生えるのを嫌ったように開けていて、上が完全に開いている。
そこは絶景だった。
空に広がる街じゃ絶対に見れないような一面の星空。
雲ひとつない快晴。周りを森に囲まれていることによる暗さ。そして空気の綺麗さ。
自分が生まれた瞬間にこの場所のことを知っていたかった。
そういえばここで黒山はフランマと出会うんだったか。
周りを見渡す。
仕込んでおくか。
そう思って創神はお札を準備する。
そのお札に黒山の中にある奇跡を増やす仕組みを施した。
まぁこの合宿で黒山はライに殺され死んでしまうのだが。
そこで何かに気づく。
「存在しないはずの秘術…?」
確か秘術は奇跡の類ではあるがその存在自体は禁忌と言われ絶対に生み出されない能力が多い。
もしかすると全てのルールに項目が入っていない?
禁忌と言われていたのは全てのルールに書かれているからだ。
それを無視して秘術は存在する。
まさか…な。
そして秘術と異人の関係性もかなり深い。
どちらとも能力を持つと異術師となり相乗効果で能力の性能が格段に上がる。
「は…。まさか私が秘術を使う時が来るなんてな」
異人かつ秘術師の例はある。
ライや櫻木だ。
私でも使える可能性は十分にある。
なら行動あるのみだな。
そう思い、創神は組織の本部に向かった。
しおりを挟む

処理中です...