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パラレル

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64章

「戻って来たな」
創神はそう言って全てを吸い込んだ穴の前に立つ。
この穴はいわゆる別次元への穴だ。
この先には無数のパラレルワールドが広がっている。
今創神がいる世界からたくさんの選択によって枝分かれし
正直なところパラレルワールドなんて見たくもない。
自分があの時選択を変えていればなんて考えたくないからだ。
ゴッズはきっと選択を間違ったと考え、パラレルワールドへ逃げ込んだのだろう。たとえ意図していなくても。
「この中から探すの…?」
メイクがめんどくさそうに言った。
「いや大体ゴッズのいる世界の目星はついてる。探すのはそんなに多くない」
パラレルワールドに逃げ込んだといっても自分の望む未来以外になんて行きたいと思わないだろう。
ゴッズにとって都合のいい世界を探せばきっとそこにいる。

誰かの話し声が聞こえる。
聞いたことはあるんだが…出てこない。
休暇しすぎたか…。
でもそろそろ目覚めか。
短かったなぁ100年。
長い夢を見ていた。内容は覚えてないが。
すると耳元でささやかれた。
「…休暇は終わりだ。起きろ」
さっきの声だ。
だんだんと覚醒してきたぞ。
そうだこの声の主は…。
「…やっと起きたか。仕事溜まってるからな早くやっとけよ」
「ふわぁい。わかりましたぁミカさん」
天使長のミカだ。
全ての天使の中で最強と言われている。
俺でも勝てる相手じゃない。
俺でさえミカと同じ4大天使の一員だが秘める力は4大天使の中で誰よりも大きい。
天上で一番力を持っているのは彼女だろう。
「さて仕事するか」
そう言ってフランは仕事場へ向かう。
ここは天上。
この次元の全てを支配する場所。
そこで行う仕事は下界を管理することだ。
よって仕事場は下界にある。
下界は100年経ってもそんなに変わらず少し発展したぐらいで人が行き来し機械音が鳴り響く。
羽を隠し、下界にあったチャラそうな服を着てとあるマンションの一室を訪れる。
なにやら別次元へ通じる穴がそこに開いており、放置すると向こうから何かが来てしまう危険があるのだとか。
なのでそれを閉じるのが今日の仕事。
扉の前に立つ。
すると既にその奥からとてつもないオーラを感じる。
さらにもう1つ、天使の気配も。
フランは扉を開けた。
するとそこにはどこかの学校の制服を着たミカが穴と向かい合って立っていた。
もちろん驚く。
フランは「え?ミカさんどうしてここにいるんですか?しかもその恰好。変な趣味にでも目覚めたんですか?」
と言った。
その声で気づいたのかミカらしき天使はこっちを振り向く。
正面から見ると完全に本人だった。
そのミカらしき天使はフランの顔をじっと見ると。
「お前元の次元の黒山か」と訳の分からないことを言い出した。
「何言ってるんですか。私は4大天使のフランですよ。黒山なんて誰ですか」
黒山という名前にも心当たりはない。
ミカらしき人物は「そうか。この世界に迷い込むと自分の立場に合わせて記憶も事実も改ざんされるのか」と呟く。
本当に訳がわからない。
何を言ってるんだこの人は。
そしてミカらしき人物は
「それなら思い出させてやる」
と言った。
瞬間、ミカらしき人物の奇跡量が跳ね上がった。
それはあり得ないレベルで。
そして奇跡はフランに向けて放出された。
煙がフランマを包む。
「なんだこれ!?ちょっと!」
フランマはミカらしき人物に向かって叫ぶが既に彼女は翻ってまた穴に向かい合っていた。
そして頭の中に誰かの記憶が流れ込んでくる。
燃える家。1人の少女。何人もの仲間。何人もの敵。吸い込まれる自分。
頭の中を強制的に書き換えられているような気持ち悪さに襲われる。
その気持ち悪さにフランは立てなくなり倒れこむ。
瞬間、すべてを思い出した。
この世界は自分の世界ではないこと。自分は黒山信二でもあること。ゴッズのせいでこんな風になってしまったことを。
そして自分の大切な人の存在を。
「俺は…何を?」
その言葉を聞いて創神が
「パラレルワールドに取り込まれれば記憶は改変される。お前の記憶も改変されていたが私が強制的に脳を元の黒山に戻した。今お前と同じような状態にある奴らを戻し、同時進行でゴッズを探している状況だ。お前も手伝え」と言った。
だが黒山にそんな能力はない。
どういうことかと思っていると
それを読んだのか創神が
「今のお前の体は4大天使だ。零が使えるはずあとは考えろ」
そうか今はこの世界の体だから天使の体なのか。
って天使?
「あぁ言ってなかったな。お前元は私と同じ天使だぞ」
ワケガワカラナイ。
天使?なんだそれ。新手の嘘か?
「めんどくさい。お前の脳に直接書き込んでやる」
そう言った直後、黒山の頭に自分が天使であった時の全てが書き込まれた。
もちろん一気に情報が頭に入ってきたため気持ち悪さが黒山を襲う。
「うがぁぁぁぁ」
「我慢しろ。説明してくれるだけありがたいと思え」
そう言って創神は作業に戻る。
黒山は書き込まれた天使の記憶を見て驚愕する。
そして書き込まれた記憶の中には自分が死んだあとの生徒会で何が起きていたのかも書き込まれていた。
それを見て黒山は自分の存在がどれだけ大きいものだったかを初めて知った。
俺が死んだところで何も変わらないと思っていたが、まさかあそこまで大きな事態になるとは思っていなかった。
「お前はもう少し自分を大切にしろ。生徒会が全員が集まって生徒会だ。1人でもかけることは許されない」
創神が黒山に言う。
「はい…わかりました…」と黒山は反省する。
すると
「よし全員記憶を戻した。あとはゴッズがいる世界を探すだけだ」と創神が言う。
零で何が出来るか。
いや何が出来るじゃない何でも出来る。
それは創神が証明してくれた。
そう思い黒山は穴の前に立つ。
そしてゴッズの持つ奇跡の場所を探す。
しかし探す世界の量は億にも兆にも数え切れないまさしく無数に存在していた。
だが今の黒山には全てが見える。
これが零の力だ。
「見つけました!」
黒山はそう叫んでその世界の入り口を繋ぐ。
その瞬間。
バンと部屋のドアが開き、この世界の4大天使のミカとアマと櫻木もといリエルが部屋に入ってきた。
「…貴様別世界の私か」
ミカが創神を見て聞く。
この世界にも別世界という存在はあったらしい。
「あぁそうだ。こいつは元々うちの世界の黒山だ。悪いが返してもらう」
創神は黒山を目で見て言う。
しかしこの世界のミカは納得していない様子。
「…いくら別世界のフランでも私たちのフランでもある。渡すわけにはいかない」
その言葉で後ろの2人が戦闘態勢に入った。
だが
「この世界はゴッズが存在しない世界だったか。平和だな。私もこの世界に生まれたかったよ」と言って「1」を発動する。
これによりイメージで何でも行えるようになった。
そして
「イメージ、世界の再構築」
そう言うとぐにゃあと世界が曲がり原型を保たなくなる。
そして創神が「早く入れ!再構築に巻き込まれる!」と黒山に叫んだ。
黒山刃ゆっくりと歩いて穴に入る。
この世界も楽しかった。
だけど俺の居場所はここじゃない。
決着をつけなきゃ。
未来を守るために。
全てを天使という理不尽な存在から救い出すために。
黒山は動く。
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