竜と王冠のサクリファイス~乙女ゲームの攻略キャラたちがお互いを攻略して王都炎上?

浅草ゆうひ

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4、春の踊り子は縁繋ぎ

15、エリック王子と薔薇水晶

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 ルーングラッドの王城で久しぶりに会ったエリック王子は、少し背が伸びていた。2歳年上の彼は、13歳の伸び盛りなのである。相変わらずの綺麗な銀髪に、青い瞳。質素な服を着ていても気品があったものだが、王子らしい格好をしていると高貴なオーラが半端ない。

 後ろには、護衛騎士のオーガスト・ウィンザーも控えている。筋骨隆々とした大男の騎士は、精悍な顔付きで目元は優しい。鋼色の髪をオールバックにしていて、瞳はオブシディアンのよう。
(きっと王子殿下にもとてもお優しいのでしょうね。そして王子は……はっ、妄想がはじまりそうでしたわ。いけない、いけない)
 ネネツィカは腐女子モードの血走った眼力を清楚に伏せて誤魔化した。清楚、大事っ、お母様もしつこいくらい言っていた。

(貴方達、この前イベントでカップリング本が人気でしたわよ、なんてとても言える雰囲気じゃありませんわね~)
 ネネツィカは帰ったらヘレナに手紙を書いてカップリングトークを楽しみたいと思いながら、エリック王子に挨拶をした。

「誕生日おめでとう。久しぶりだね」
 釣り目がちで少し冷たい印象のあるエリック王子がにこりと微笑むと、年相応のあどけなさみたいなものが垣間見える瞬間がある。この王子は不思議な方で、ふと血肉の通わない人形みたいな瞬間があるかと思えば、ふわりと雪解けを迎えて春花が芽吹くように優しくきらきらと微笑んだりする。

「ありがとうございます、エリック殿下」
 お嬢様らしく上品に応えると、エリック王子はプレゼントの箱を取り出して柔らかに光る薔薇水晶ローズクォーツの首飾りを見せてくれた。
「見てごらん、この薔薇水晶の上に金の王冠がついてるだろう?」
 王子の指が王冠を摘んで回す。すると、王冠が外れた。
「まあ。中が空洞になっていて、瓶みたいに使えますの?」
 ネネツィカは興味津々で身を乗り出した。王子はうんうんと頷いて、中身を見せてから蓋をした。
「中には、万病に効くという『妖精の涙』という霊薬を入れてある。一雫だけだけど、もし何かあった時に君の助けとなるように」
 王子が首飾りを手に立ち上がり、ネネツィカの隣に座る。距離が近いですわ、と内心でドキドキしつつ、ネネツィカは畏まった。
 もしうっかり手が滑って紅茶でもひっかけたらどんな騒ぎになってしまうことか。
(たぶん、これはそんな類のドキドキですわ)

「首飾りをつけてあげるよ。少しじっとして」
「えっ、殿下がですか?」
「うん。不服かい?」
「い、いえいえ」
 なんて恐れ多い。ネネツィカは銅像のように固まった。エリック王子は首飾りの金具を外し、そーっとネネツィカの首にかけて、金具を止め……かちゃ、かちゃ。

 間近で見る王子のまつ毛が霜のように繊細だ。それに、良い匂いがする。香水だろうか。
(アタクシも香水をつけていますけれど、お好みの香りかしら。ご不快でなければ良いのですが)
 ソワソワとそんな思考に浸るネネツィカ。シーンと静まり返った部屋にかちゃガチャという音が鳴り……ずっと鳴っている。王子はずっと金具をガチャガチャ言わせている。これは――苦戦している! 留め具をつけるのに手間取っていらっしゃる!? 状況に気付き、ネネツィカは焦った。

「……ぶっ」
 壁際で吹き出すのを堪えるような声がして、誰のものか半ば予想しながら視線を向ける。長身の騎士――オーガスト・ウィンザー卿だ。口許を手で覆い、こほんこほんと咳払いで誤魔化している……!
「……できたよ」
 エリック王子がようやくそう言って、体温を離した。顔が真っ赤になっているのは気付かないフリをした方がいいのだろうか? ネネツィカは自分の顔もパタパタと仰ぎたくなるのを堪えて微笑んだ。
「ありがとうございましゅ」
「ぶばっ!」
 ――噛んだ!
 壁際で騎士が盛大に噴いた。ネネツィカは茹で蛸のように赤くなった。
(噛みましたわぁぁあァァァ!!)
「ウィンザー卿!」
 エリック王子が咎める声を聞きながら、ネネツィカは羞恥心に悶えた。
「いや、申し訳ございません殿下、……ふっ」
「また笑ってますの!」
「し、失礼……くっふふは」

 王子と婚約者から睨まれて、騎士はひぃひぃと笑いを堪えた。割と笑い上戸なのである。

(微笑ましいよなあ! この、何、お似合いじゃねえの)
 オーガストは内心で初々しいカップルに好印象を抱きつつ――面白くて――必死に真面目な顔を取り繕ったのだった。

 その後、怪我の功名というわけでもないだろうが二人の雰囲気はほぐれたようで、気分転換を兼ねて王子が手をひき、二人は城内を散歩することにした。

 すれ違う貴族が道を譲り、頭を下げて挨拶をする。エスコートされるネネツィカは内心かなりビビっていたが、王子に相応しい令嬢をイメージしてキリッとした顔をした。

「緊張しなくてもいいよ」
 エリック王子が優しく微笑む。しかし、エスコートすべく繋がれた手はプルプル震えているのだが――、
(これはアタクシが震えているのかしら。それとも殿下が……いえまさか)
 ネネツィカはニコニコした。王子もニコニコした。実際は二人揃って緊張しまくってプルプルしているのだが。

 騎士オーガストは後ろに従いつつ、笑いを押し殺すのにかなり苦心した。鍛え抜かれた腹筋とは、もしかしたらこんな時のためにあるのかもしれない――。

 そんな和やかな空間を、守護竜である白竜ティーリーとエリックの父であるアーサー王も離れたところから見守っていた。
 このアーサー王は自分の王位継承争いの時にすぐ下の妹姫ラーシャが大変に器量がよく、珍しい黒竜アスライトの加護を得た事から国中に大人気でなかなか肩身が狭かった、という苦い思い出がある。

 すなわち、アーサー王子より妹ラーシャ姫を玉座につけたがる臣下や大衆の声は当時かなり多く、姫が亡くなりし現在も歌劇が人気だったりするほどなのだ。

 アーサーは、妹に対抗するために「でも俺は王位継承権一位だし、大きな問題も起こさない無難極まりない王様候補だよ」という方針を執り続け、忠臣コルトリッセンに頼って妹を娶ってもらい――脱落させてもらい、なんとか王になった。

 そんな苦労の影響もあってか、アーサー王は「自分はあまり偉そうにしてはいけない」と思い、腰が低くて気さくな王となった。格式ばる事はあまりなく、フレンドリーに他者に接することを身上としており、若干ノリが軽くてゆるゆるとしている。本人はちょっぴり頼りない風情もあるが、臣下はそんな王を好ましく思い、支えてあげようとする――それが、現王と幕僚たちであった。

「ふうむ、エリックはあの娘を何が何でもヒロインに、と申しているのか」
 歴史家によると、優しい父の顔をしたアーサー王は、この時、白竜ティーリーに軽いノリでぱちりとウインクしたと伝えられている。
「好きにやっちゃって。ティーリー」
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