竜と王冠のサクリファイス~乙女ゲームの攻略キャラたちがお互いを攻略して王都炎上?

浅草ゆうひ

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6、ゲームのスタート

51、『夕鈴のサクリファイス』

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 そのゲーム、『夕鈴のサクリファイス』の主人公は『聖女』。
 亡くなった娘、正妻の忘れ形見である愛娘ユージェニーに成りすます、という条件で公爵家の養女として迎え入れられた、両親不明の孤児院育ちの娘、プレイヤーキャラクターの『ユージェニー』。プレイヤーは、主人公であり聖女として選ばれた『ユージェニー』の名前を好きな名前に変えることができる。自分の名前に変更すると物語への没入感も高まって、推しに名前を呼んでもらえて、まるで自分と推しが疑似恋愛しているような気分になれる。
 つわものの腐女子勢の中には、推しの名前をつけて疑似BLを愉しむものもいたという。

「『夕鈴のサクリファイス』はね、RPGゲームのスピンオフ作品なんだよ。RPGゲームのほうは、転生……、私みたいに異世界人だった記憶を持つ勇者が主人公」
 わからない言葉が出るたびネネツィカはメモに取って、ヘレナと同じ世界を理解しようと頑張った。ヘレナは拙いながらも懸命に言葉を選び、考えを共有してくれる。
 お互い、隠し事をしないで全てを共有する――そんな気配が相手から感じられるから、その時間はあたたかかった。特別に思えた。

「『夕鈴のサクリファイス』は、乙女ゲーム。好きなキャラクターと親密になるのを目指したりするんだけど、そうね、サポートキャラは執事キャラで、ティミオスだった。ティミオスにも、デフォルト以外に好きな名前をつけられるんだけど」
 執事キャラはゲームをする上で必須の『セーブ』や『ロード』、攻略の助けとなる『親密度確認』『各キャラステータス確認』、それに『イベント再生』『スチル鑑賞』といったメニューを提示してくれる文字通りプレイヤーのサポート役なのだ。

 ヘレナが紙に攻略対象についての覚えているだけの情報を書いていく。

 第二王子エリック……実はメンタルが弱くて繊細だけど周囲が望む理想の王子様を演じ続けている健気な少年。正義感がつよくて、一番公式感が強い相手かな。

 公爵家令息クレイ……主人公の血のつながらないお兄様。最初から親密度が高くて、何かと味方してくれる。優しいけど、陰がある感じ。私は攻略したことがない。

 奇矯な妖精デミル……記憶喪失キャラ。本当は妖精なんだよね。魔法がめっちゃつよい。言動ふしぎ系? 天然? 私は攻略したことがない。

 剣士オスカー……学年上の先輩キャラ。公爵家の派閥の家柄で、ほっといても寄ってくる。ちょっとプレイボーイみたいな? 女慣れしてる感じ。壁ドンとか顎クイとかスチルが破壊力強くて私は好きだったよ。

 勇者ネヴァー……何かフラグを踏んだら登場するらしくて、攻略できるらしいんだけど私は出会えなかった。人気キャラなのは知ってる。

 歴史のフィーリー先生……優しくて親しみの持てる先生は人気キャラではあったんだけど、私は攻略したことがない。

 魔術のアンドルート先生……アンドルート先生は最初は厳しくてツンがすごいけど、頑張って親密度を上げたらちょっとずつ気にしてくれてる感じが出てきて可愛かったり、もっと進むと過保護になったりするの。私の推し。何回も攻略した!

 悪役令嬢アルマ……実はライバルキャラとも仲良くなれるんだ、このゲーム。一回クリアしてからじゃないとできないんだけどね。あと、このキャラはこの世界における私だったりする。

「……最後のは、どういう?」
「えっと、詳しく話すと長くなるんだけど……『私』」
 ヘレナは自分の胸をぽんと叩いて「私」と言った。この世界での自分、と言いたいらしい。
「もともと隣の国のお姫様で、アルマっていう名前だったんだ」
 ヘレナは、お姫様のままでは悪役になってしまうと思って自主的に身分を捨てて逃げ出し、名前を変えたのだという。
(そういえば、隣の国でお姫様が行方不明とか聞いたことがあったようななかったような)
 ネネツィカは唖然としながらも、「しんじますわ」と頷いた。
「今のお父さんが私を養子にしてくれて、本当の娘みたいに接してくれるから、今の私はヘレナ。心のそこから、そう言えるよ――言えますよ」

 ヘレナがハッとなにかに気付いたように語尾を繕うから、ネネツィカはその手をがしっと取って首を振った。
「そのままがいいわ、ヘレナ! アタクシたち、対等でありのままのお友達だもの!」

 ヘレナは目を瞬かせてから、嬉しそうににっこりした。
「……うん、ネネツィカ!」

「――なかよしフレンドだ! いいね! すばらしいね、ボクの好みだよ」
 そんな2人の傍に――ふわりと何かあたたかい気配が現れた。ちいさな、何かが。
 2人が同時に視線を向けて、ぽかんとした。

 そこには、ふわふわ、ころころとした小動物みたいな――羽が生えたねこみたいな何かがいた。真っ赤なルビーみたいなぱっちりの瞳がぱしぱしと瞬いて、2人をきらきらと見つめている。声は無垢であどけない、こどもの声だった。
「だれ?」
「なに?」
 2人はその小動物に、仲良く同時に疑問を発した。
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