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9、裏切りの勇者と妖精王の復活
123、ごめんね、先生、勇者の剣を失くしちゃったんだ
しおりを挟む第二幕は、ファーリズ王国から去った勇者が、勇者の剣を引っ提げて、一人だけで世界中を旅するという劇になっていた。
他国が侵攻しようとも『勇者にとって呪わしい技術』を奮い、神の如く国を守るティーリーを見上げて、背を向けて。
その国の内側でだけ活動ままならず――北領を除いて――居場所を失い、国内で見かける事がなくなった妖精たちが国境付近で嘗ての遊び場を懐かしむさまに唾を吐き。
エインヘリアがアイザールに侵攻し、劣勢のアイザール軍に志願して入り最前線に行く。武勲を立てて――、
「ここでも死ねない」
去っていく。
その足で、その地方の森に生きる穏やかな性格の妖精族相手に友好条約を結ぼうとしているクレストフォレスの会談場で暴れる。
妖精を斬り捨てようとして、クレストフォレスの英雄が妖精たちを守るため奮戦し、会談は成功する――、
「ここでも死ねない」
去っていく。
飛翔する大きな鳥の背中に騎乗して、妖精どうしの戦いに混ざり、火山洞窟の奥で即席の冒険者パーティを生かして、東の諸島で、異世界人の遺跡を見つけて調べ、大した情報ではなかったと絶望して。
ついでとばかりに海の妖精族のお姫様とロマンスを。
「いや、そのロマンスは相手が勝手に言ってるだけよ?」
思わずつっこむエイヴン。
(それにしても、俺の足跡をよく追っている……)
そうそう、こんな人生だった。そんな感じで記憶がどんどん鮮明さを取り戻していく。
あの時のこいつはこうだったな、とか。あの時食べたあれは美味しかった、とか。
忘れてた思い出が、劇と共にどんどん広がっていった。エイヴンが忘れても、その生きた形跡は形として残るのだと思われた。若干、違う部分もあったけれど。
第三幕はどうなるんだろうかと思っていれば、妖精界と妖精が主役となっていた。何故? タイトル詐欺? と観客が観ていると。
妖精たちは、封印されて眠る『王様』の棺を囲んでいる。
「王様、起きないね」
妖精役の子供があどけなく、物悲しく、切々とした演技を魅せている。
「ファーリズに残してきた混血の我が子に会いたい」
さめざめと嘆く妖精姫。
そこに。
「ワイストン・ラーフルトン……」
妖精の世界に、勇者の友人、半妖精の彼が現れた。傍に混血の青年を伴って。
「北の領地は、我が好きにして良いと許された。ゆえに、ファーリズの地を好んでいた者、戻りたい者は北の領地に参られよ」
杖が振られる。
棺が開いた。
「オイラ、」
デミルが呟いた。
棺から、ファーリズ地方の妖精たちのリーダー的存在だった古の妖精王が出てきた。勇者と戦ったときより、だいぶ幼い外見で。
「オイラだ」
デミルは思い出した。それは、自分であった。
妖精王は、記憶がなかった。力の大半を封印されたままだった。その状態のままで、何故か人の通う学校に通い始めた。
「妖精が人と一緒に暮らせる国にしたい」
先生と語り合う――、
エイヴンがチラリとヴァルターを見れば、何やら居心地の悪そうな、けれど満更でもない顔だ。
――お前の夢は順調じゃないか。よかったな。
思わずエイヴンは微笑んだ。
ステージでは、勇者が登場していた。
黒いローブ姿で勇者の剣を手に。
(何するんだよ俺は? 何をさせたいんだよ俺に?)
エイヴンはじっと『自分』を見守った。
「俺は、妖精王の封印を解く!」
――ステージ上の『勇者』は、そう叫んだ。
「斬新な勇者伝説だったね」
「独特な劇でしたわね」
幕が降りて、13歳組がほのぼのと会話しながら席を立つ。
「なるほど、なるほど」
エイヴンは着座したまま劇の余韻に浸る。
(わかった。君の気持ちは伝わった。先生理解したよ)
でもね? って首を傾げた。
――ごめん。俺、勇者の剣をどこかで失くしちゃったわ。
アレがないと封印解けないんだわー。
いや、ほんとごめん。
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