竜と王冠のサクリファイス~乙女ゲームの攻略キャラたちがお互いを攻略して王都炎上?

浅草ゆうひ

文字の大きさ
161 / 260
10、守護竜不在の学院編

153、クレストフォレスの外交官と『ララカ様』

しおりを挟む
 豊穣祭――アローウィンの初日が終わり、学生たちが解散していく。

「ティミオス、わたくし……とても頑張ったのだわ……」
 夕暮れの学院。ネネツィカはくたりと噴水前のベンチに倒れ込んだ。
「エリック殿下はこの後お城にお帰りになるわよね。……お城はさすがに、お祭り会場より安全よね……?」
 夜中に暗殺されたりしないでしょうね? と呟きつつ、ティミオスが渡してくれた果実汁をひと口味わい、甘さとさわやかな風に癒されながら。

「ご、ご褒美タイム……わたくしは、ご褒美タイムを少しだけ自分に許しますの」
 わたくしはめくるめくご褒美タイムを所望しますわ。そう呟き、鞄から薄い本を何冊か取り出す。薄い本を売っている出店があったのだ。それも、珍しい他国勢ネタ――「わたくし実はこの表紙の殿方の名前すら存じませんわ」ああ、ワクワク。
「表紙買いなさったのですね、お嬢様」
 執事は慣れた様子で相槌を打った。



 ぱらりとめくると、何やら気弱そうな将軍が悩ましく豪奢な扉の前でノックしたものかどうか躊躇っている。
「何をしているのだヘルマン、く入れ」
 扉の内から声がかけられて、ヘルマンと呼ばれた将軍が中に入ると、豪勢な部屋の中、天蓋付きのベッドに待つのは女王様然としたゴージャス系の美女だった。

「あら、この本はNL(ノーマルの略語。男女カップリングの意味)かしら」
 ネネツィカは「たまには良いですわね」と新鮮な気持ちで読み進めた。
「……お嬢様はもう少し男女の恋愛話にも興味を持たれてみては」
 執事は思わず呟いた。


 美女は、エインヘリアの女帝がモデルらしい。
 とても支配者然とした超然とした振る舞いは、ネネツィカのハートをがっつり掴んだ。男を何人もはべらせて、ワインをつがせたり爪にネイルを施させたり、長い髪を梳かせたりしている――「ハーレム! いいえ。逆ハーレムですわ!」ネネツィカはちょっと興奮した。それは確かに未知の世界だった。
「女帝、格好良いですわ。素敵……これが逆ハーレム……」
 思わず呟くと、「ほう」と面白がる声がして、びくっとして顔をあげればオスカーが本を覗き見していた。
「あっ、貴方。レディの本を勝手に見るなんてマナーがなっていなくてよ」
「はっはー! 前はレディのほうから見せてくれたじゃ、ありませんか!」
 オスカーはテンション高くケイオスレッグや取り巻きの男どもを集めて、逆ハーレムごっこをしてくれた。

 風に乗って楽しげなピアノが聞こえてくる。
「レディー、ケイオスレッグ、好きにしていい」
「逆ハーレムってなに?」
「ドレイゴッコ!」
 ふざけた男たちの笑い声が、意外とノリノリで面白かった。

「妖精の涙……?」
 小さな声が咲く――花のように愛らしく、耳に心地よく。
「おや、これはこれは小さなレディ」
 オスカーが小さな女の子に気づいて、気障な仕草で礼をした。女の子は、とても愛らしかった。逆ハーレムの混沌とした現場を全く恐れることなく、どこか超然としたふわふわした風情で、可憐な春花のごとく其処に居た。

「この本の中に、ディドさんがいます……!」
 愛らしい声が歓びを伝える。甘い花の香りがふわりと漂う。ちいさな女の子は、あろうことかネネツィカの薄い本を広げていた。
「お茶のラーフルトンさんです……?」
 御付きの人らしき男性がゆったりと道の向こうからやってくる。

「ララカ様、迎賓館に戻りますよ」
 ララカと呼ばれた女の子が、本を手に男性を指さす。
「ディドさん」
 あの人がこの本に出ている『ディドさん』らしい。どれどれと見比べてみれば、なるほど特徴をよく捉えている――「ディドさんは、エインヘリアのダスティンと仲良しです?」ララカが無垢な風情に問えば、ディドは「なんですかそれ?」と不思議そうに声を返した。たぶん、わかってはいけない――ネネツィカはハラハラした。その女の子が言ってるのは薄い本の話なんです、と心の中で悲鳴をあげつつ、全力で笑顔を湛えた。
 彼は、丁寧に自己紹介をしてくれた。ディドはクレストフォレスの外交官だった。逆ハーレムに興じていた男たちが驚いた顔をして、姿勢を正して挨拶をしている。

(他国の偉いお客様だわ)
 ネネツィカはあたふたと薄い本を隠した。国際問題になってしまうかもしれない。だってこれ、ホモォしてる本だから――貴方様と見知らぬ男がどちらが攻めか上下左右を奪い合ってる本だから! しかもたぶん、『見知らぬ男』もどこかの偉いどなたかだから! 
 ――なんて危険な本なの。
 ネネツィカは自分を棚にあげて、本の作者に恐れ入った。

「あぅ、……ディドさんの本……」
 本を取り上げられたララカはしょんぼりとした。ディドは「むむ?」と頭を掻いて「どうもララカ様がそちらの本にご興味があるようでして」と、なんとも恐ろしいことに「見せてやってくれ」と頼んでくる。

「こ、この本は……対象年齢がすこし上ですの」
 さすがに声が震えるネネツィカだった。

 見せない方がよいと思いますの――ネネツィカは割と心の底からそう返した。たぶん、きっと、『教育上よろしくない』上に『ご本人の眼に入ったらご気分を害す』のだと、成長したおかげか、以前よりもついた(と本人的には思われる)分別が、そう警鐘を発するのだ。

「……対象年齢。ふうむ」
 ディドは二人の少女を見比べて、ララカがクレストフォレス盟主の妹姫で、妖精の血が混ざっていて長く生きているものの、肉体の成熟具合と精神年齢は幼子と変わらないのだと教えてくれた。普段は色が明るめでハッピーエンドな絵本などを好んで嗜まれるらしい。

「と、そんなララカ様なのですが……お見せできるようなご本はございますでしょうか? なお、悲劇を読まれると泣いてしまわれるので、そういったお話は避けていただきたいのですが」
「け、健全で無難なのなら」
 ララカはネネツィカの袖をくいくい引っ張り、「ディドさん、この人はお茶のラーフルトンで、妖精の涙なのです」とほわほわと懐いた様子を見せている。
 お茶のラーフルトンというのは、紅茶ブランドのことかしら。ネネツィカはどきどきした。あのブランドは他国にも知れ渡っているのか――。
(……妖精の涙は、首飾りのことかしら?)
 どうも、ちょっと不思議な女の子だ。
 すこし尖った妖精めいた耳をみれば、「デミルみたい」という気持ちも強まってくる。

「では――こうしましょう。我々はこの後、迎賓館に引き上げてディナーパーティに臨む予定なのですが、お嬢様を我々の席にお招きしたい。そこで、もしよろしければララカ様と親しくお話して頂いたり、ララカ様が喜ばれるような健全なご本をお見せくだされば」
 ディドは少し考えてから、そう提案してその場で招待状を書いてくれた。

「迎賓館のディナーパーティか。俺も顔を出す予定だったんだ」
 エリックがひょっこりと顔を出して、ディドとララカに王子様然としたスマイルできらきらと挨拶をしてから――まともな挨拶をしてくれたので、後ろでオーガストが安心した顔をしていた――「それなら俺にエスコートさせてくれるかな?」とネネツィカに微笑んだ。

(……そこでまた暗殺があるんじゃないでしょうね?)
 ネネツィカは執事をそっと見て、覚悟を決めた。
「わたくしにはティミオスがついていますもの。参りますわ、迎賓館。わたくし、負けません!!」
 決死の覚悟で言い放てば、エリックはちょっとびっくりした顔で「たいしたパーティじゃないから、そんなに怖がらなくてもいいよ。ちょっと国賓がいるぐらいだよ」と言っている。

「国賓の方々がいらっしゃるのは『ちょっと』ではないと思うのですが、殿下」
 オーガストがそっとツッコミを入れてくれていたので、ネネツィカは静かに頷いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!

ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。 ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。 これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。 ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!? ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19) 公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年BLです。

【完結】テルの異世界転換紀?!転がり落ちたら世界が変わっていた。

カヨワイさつき
BL
小学生の頃両親が蒸発、その後親戚中をたらいまわしにされ住むところも失った田辺輝(たなべ てる)は毎日切り詰めた生活をしていた。複数のバイトしていたある日、コスプレ?した男と出会った。 異世界ファンタジー、そしてちょっぴりすれ違いの恋愛。 ドワーフ族に助けられ家族として過ごす"テル"。本当の両親は……。 そして、コスプレと思っていた男性は……。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

【完結】巷で噂の国宝級イケメンの辺境伯は冷徹なので、まっっったくモテませんが、この度婚約者ができました。

明太子
BL
オーディスは国宝級イケメンであるにも関わらず、冷徹な性格のせいで婚約破棄されてばかり。 新たな婚約者を探していたところ、パーティーで給仕をしていた貧乏貴族の次男セシルと出会い、一目惚れしてしまう。 しかし、恋愛偏差値がほぼ0のオーディスのアプローチは空回りするわ、前婚約者のフランチェスカの邪魔が入るわとセシルとの距離は縮まったり遠ざかったり…? 冷徹だったはずなのに溺愛まっしぐらのオーディスと元気だけどおっちょこちょいなセシルのドタバタラブコメです。

使用人と家族たちが過大評価しすぎて神認定されていた。

ふわりんしず。
BL
ちょっと勘とタイミングがいい主人公と 主人公を崇拝する使用人(人外)達の物語り 狂いに狂ったダンスを踊ろう。 ▲▲▲ なんでも許せる方向けの物語り 人外(悪魔)たちが登場予定。モブ殺害あり、人間を悪魔に変える表現あり。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

限界オタクだった俺が異世界に転生して王様になったら、何故か聖剣を抜いて勇者にクラスチェンジした元近衛騎士に娶られました。

篠崎笙
BL
限界ヲタクだった来栖翔太はトラックに撥ねられ、肌色の本を撒き散らして無惨に死んだ。だが、異世界で美少年のクリスティアン王子として転生する。ヲタクな自分を捨て、立派な王様になるべく努力した王子だったが。近衛騎士のアルベルトが勇者にクラスチェンジし、竜を退治した褒美として結婚するように脅され……。 

異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~

兎森りんこ
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。 そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。 そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。 あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。 自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。 エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。 お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!? 無自覚両片思いのほっこりBL。 前半~当て馬女の出現 後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話 予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。 サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。 アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。 完結保証! このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。 ※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

処理中です...