竜と王冠のサクリファイス~乙女ゲームの攻略キャラたちがお互いを攻略して王都炎上?

浅草ゆうひ

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12、騎士王と雨月の冠

207、ガチャって射幸心が煽られるよね

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「フィーリー先生、こんにちはー」
 学生たちが講義を終えたエイヴンを囲む。ついさっきまでミハイ皇子を囲んで大騒ぎしていた連中だ。
(まさか俺相手にあんな妙な騒動をするんじゃないだろうねえ?)
 口説かれないよ? 俺はノーマルよ?
 エイヴンはへらへらした。
「あ、はい。こんにちはぁ。そろそろ帰る時間だねえ。気を付けて帰ってねえ、さようならあ」
 追い払おうとした手がしっかりと掴まれる。古き勇者時代の親友ワイストンと同じ髪色、ライトピンクブロンドを揺らす少女ネネツィカが目に入って、エイヴンはどきりとした。
「……ラーフルトン君」
「本日は『先生方』をわたくしたちの秘密基地にご招待しますわ」
 ネネツィカの晴れやかな春空めいた眼が講義室の扉の方向を示した。
 なんと講義室の外から同僚であり友人のヴァルター・アンドルートが顔を出し、むすりとした顔でこちらを見ている――、
「うっ……」
(この組み合わせは俺に効く……)
 
 連行されるようにして着いた妖精猫カフェでは、混血妖精のマナというメイド服の少女が草笛を吹いて妖精を呼びまくっていた。
「良い子がいたらご協力願うのだ。タチが悪いのがきたらお帰り願おう」
 メイドの主人であるクレイはそう言って珈琲を啜っていて、その隣では呪術師のレネンが編み物めいた動作を繰り返して妙なものをせっせと創っている。

「しかしミハイ皇子には驚いたなあ。12歳だぞ」
 エリックはそう言って、冷たい果実ジュースと氷が入ったグラスをからから鳴らした。
「フィーリー先生、俺は疑問なんですけど、キスとキスマークってどうしてキスマークのほうが大人な感じがするんでしょう」
「君もそういう質問をする歳になったんだね……それは多分、キスマークが行為を匂わせるとか、そういう理由じゃないかなぁ」

 一角を額にもつ妖精がひゅるりと現れ、猫たちが「フーッ!」と警戒する中、部屋の壁に四つ足をつけて走り回った。
「騎乗してみたら楽しそう……」
 ネネツィカがぽつりと零して、クレイが一瞬だけ迷う顔をしてから「これは、はずれです」と手を振った。
「今、僕の射幸心が煽られている……! もっと使える奴が釣れる。マナならできる。がんばれ、がんばれ」
 エイヴンはそんな少年心に共感した。
「わかるよ。ガチャって射幸心が煽られるよねえ。次で良いのが来るかもって思うと、やめられないんだよね」
 
(この空間はなんだろう)
 エイヴンは混沌とした室内のソファにほんわりと身を沈め、足元で寝転がる人懐こい猫に相好を崩した。隣に当然のようにヴァルターが腰掛けて、「猫は苦手なのだが」と眉を寄せている。
「かわいいねえ……」
(隅っこに魔王軍までいるじゃないか)

「フィーリー先生、アンドルート先生、ここは俺たちの秘密基地です」
 エリックが黒を基調とした貴族衣装と仮面を着用しつつ、きらきらとした声で説明してくれる。
「え、ああ。うん?」
 クレイがそわそわとその後ろからやってきて、エイヴンに耳打ちをする。
「先生、以前贈った剣って手元に残ってるのがあったりしませんか?」
「ないなあ。君のところに返品したよ、全部」
「そ、そうですか」
 返品した剣はそのまま貢ぎ元に戻り、『騎士王』に活用されちゃったらしい。エイヴンは「ものは活用してなんぼだよね、わかるぅ」と笑った。
「僕は一応お金も払ってた。でも、お金は返してもらってない」
「金銭トラブルか。気になるよねそういうの」
「お金は別にいいけど、お金をあいつにあげまくったせいで僕は生活指導された……」
「あはは、うんうん。お金は慎重につかおうね」
 先生の顔で言って、エイヴンは壁際のコーナーに気付いた。
「おや、本棚に薄い聖書まであるのか。どれどれぇ」
 
「アイテムに魔法をかけられる妖精が欲しい。人の心を操れる妖精が欲しい。あと、羽が綺麗な妖精が……」
 無茶ぶりにマナが困っている。
「羽が綺麗な妖精はなにに使うんだよ」
「鑑賞用……」

 妖精がどんどんガチャされて、返されていく。ヘレナがパフェを運んでくれる。猫や学生たちの奇行を鑑賞しながら時間が無為に過ぎていく。ヴァルターは、明日の講義の準備なぞを始めている。
(ここで過ごす意味とは?)
 そんなことを思いつつ、エイヴンは「とはいえ、こういう時間も悪くないかもね」と微笑んだ。

「ああ、もう帰る時間になっちゃうよ。あとでアスライトで飛んでいくからね」
 クレイが手を振って帰っていき、エイヴンは「で、結局なんなの?」と笑顔で首をかしげるのであった。

◇◇◇

「やあ、久しぶりじゃないか友よ。忙しそうだな」
「お互いに」
 外務卿ビディヤの息子、カルロ・エクノは旧友、『騎士王』と呼ばれるようになった友人に変わらぬ笑顔を向けていた。
「カルロ、見てくれ。これを」
 父からは、警戒するようにと――紅薔薇派閥の集会同様に見聞きしたことを報せるように言われている。そんな友人オスカー、現在はニュクスフォスと呼ばれる青年であるが、彼は今目の前ではしゃいだ顔を見せていた。

 戦果を誇るように見せる手首にはリボンが結ばれている。
 ああ、星のリボンだ。流行っている――カルロは頷いた。

「自慢だな」
「いかにも! これは恋人に結んでもらったのだ」

 カルロは呆れて笑った。
 警戒も何も、目の前には年相応に恋愛にうつつを抜かして浮かれ上がった友人しかいないではないか。
 まったく、そうしてニコニコしていると友人は単なる友人でしかなく、身分も何も忘れてしまいそうなのだ。

「さては、惚気話をたんと聞かせてくれるんだな?」
「たっぷりと!」
 陽気な声が延々続く。
 時間を忘れそうな和やかな空気の中、カルロはふと惚気話のノリが以前にもきいた「二人の共通の知人に自分がどれだけ気に入られているか」を自慢していたノリにとてもよく似ている事に気が付いた。
 そして、おそらく話題の人物というのは、以前よく話していた人物と同じなのではないかという推測に辿り着くのであった。
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