竜と王冠のサクリファイス~乙女ゲームの攻略キャラたちがお互いを攻略して王都炎上?

浅草ゆうひ

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12、騎士王と雨月の冠

212、まるで薄い本ではないか

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「なんてこった。まるで薄い本じゃぁん」
 目を覚ました『勇者』ネヴァーフィール、あるいは歴史教師エイヴン・フィーリーは自らの置かれた状況についてまず最初にそのような感想を零した。
 なにせ薄暗い倉庫みたいな室内で縛られて、屈強な男どもに囲まれているのだ。
「薄い本とか言ってるぜ」
「なんの暗号だ?」
 訝しむ声がいかにも酒焼けした荒くれ感がある。そしてそんな中に夜通し監視してました感のみなぎるヴァルターがいる。
「ヴァルターお前……、」
「エイヴン……」
 ――ちょっと揶揄っちゃダメかな?
 エイヴンは悪戯心に誘われて口の端を吊り上げた。
「俺をこんな風に縛ってあんなことやこんな事をするって言うのか、薄い本みたいに! 薄い本みたいに! だが俺はノーマルだ残念だったな……くっ、殺せ……」
「何を言ってるかわからん」
 目の下に隈をこさえたヴァルターが束縛を解いてくれる。
「ありがとう。縛らないでくれたらもっとよかったんだが」
「貴様が英雄斬りなどしなければ縛る必要もなかった」
 英雄斬り、と口の中で繰り返してエイヴンは手足を伸ばして微笑んだ。
「英雄斬り、か。格好良い響きだね……全部斬って最強俺ツエーするのは少年漫画の主人公かなあ」
「エイヴン、まさかやる気か……!?」
「いやいや、冗談だよ……ところで、俺の剣がぐるぐる巻きで置かれてるんだけど?」
 部屋の隅で危険物よろしく呪縛されている『勇者の剣』を指して言えば、ヴァルターは眉間の皺を深めながら教えてくれた。
「あれは没収だ」
「没収」
 エイヴンはふむふむと笑顔で繰り返した。友人の魔術師のヴァルターは若干の緊張を滲ませている。
(俺が剣を取り上げられて機嫌を悪くするとでも思ってるのかな?)
「構わないよ」
 もともと、その剣はずっと前に捨てたのだ。
 過去を懐かしむように目を閉じて、エイヴンは剣に背を向けた。

 学院に行けば、登校する学生たちが挨拶を交わしている。
 戦争が始まりそうだと少しの不安を声の形で吐き出して、似た思いを抱く仲間に安堵するようにして、陽だまりの中にいる。

「フィーリー先生、アンドルート先生、おはようございます」
 神絵師マリアが取り巻きを連れて挨拶をしてきた。平民出身の彼女は、芸事の腕一本で女生徒たちの神ポジションをかくとくしているのだ。エイヴンもファンである。
「はぁい、おはよう~」
「おはよう」
 揃って挨拶をする耳にアイザール語の応酬が拾われた。

「今朝は『騎士王』がいないの? さてはフラれたな愛人レーレ
「実はそうなんだ。『騎士王』はクレストフォレスに『妖精射手』をお見舞いに行くんだって」
 混沌騎士のレビエに見送られて幻想馬車から降りたクレイが、待ち構えていたミハイとエリックにアイザール語で書かれたアイザール地方の新聞を見せた。
「戦争の話が出ていたので、僕は君を心配していたよ。ミハイ君と学院で会えなくなると、僕は寂しい……戦争回避できないかなぁ」

 チラッ。
 視線が期待を浮かべている。
 チラッ、チラッ。

「ボクは寂しく、ないっ」
 ミハイは子供っぽい仕草でプイッと顔を背けた。
「これはツンデレ未満……」
 エリックがニヤニヤしている。
「ちなみに俺はさっき転びかけたところを助けて『ありがとう』って言ってもらったぞ」
「わざと取り巻きが転ばせた……?」
「お前じゃあるまいし」

 ミハイは鞄からファーリズ語で書かれたファーリズ地方の新聞を取り出して、対抗する目を見せた。
「ボクはこの国の文字がすこし読める! ここにエリックの名前が書いてる」
 エリックは得意げな顔をした。
「どうだクレイ、俺は名前で呼んで貰えてるんだぜ」
「エリックは街、まで読めた」
 ミハイが新聞の記事をツンツンしている。
「エリックは街になるのか、すごいなあ。魔王の次は街か。人外まっしぐらだな……封印しよう」
「街頭演説するって書いてるだけだぞ」


 異母妹のユージェニーがそんな少年たちに駆け寄り、挨拶をしている。
「今日はこの後、友人たちと出かけて参りますわ」
「堂々と学院サボり宣言するじゃないか」
 さらさらと長い茶髪を靡かせて学院から秘密基地――妖精猫カフェに向かうらしき異母妹を見送り、クレイは彼女が以前教えてくれた神々の悪口を思い出すのであった。

「沢田はエゴサばかり、飯島は高尚様……」
 ミハイが怪訝な目で見上げている。
「それ、ファーリズの創造多神教?」
「ふふ、僕は敬虔な信者なんだよ」
 ロザリオを見せて言えば、ミハイは「宗教は興味ないけどロザリオはいいね」とあどけなく感想を告げた。
「ストーリーボードディレクターは、沢田から青山に。シナリオコンセプトは、飯島から飯角柳に。男神から女神に変わってるんだ」
愛人レーレが何を言ってるかわかんない」
「僕もよくわからない。思いついて、思考を整理しているだけ」

 学院の通路を歩めば取り巻きが少しずつ周りを囲んでいく。支持者貴族の子弟を中心に小さな王国旗を作って手に持って熱心にお供する者がどんどん加わってくる。
 皆、美しい夢を見るような愛国心めいたもので目をキラキラさせていた。この集団の中にいることで国のために尽くしている自分を感じていられる、みたいな変な熱に浮かされた眼がいくつもある。子供のごっこ遊びみたいなものだ――ここは学び舎で、国を左右するような事なんてたぶん何もしないのに。

「ミハイは、フィーリー先生の大陸史の講義を受けるんだよね? 僕もだから、隣に座ってもよい?」
 ダメって言われたらどうしよう――そう思いながらそっと問えば、ミハイは艶々した金髪を揺らして「いいよ」と言ってくれる。
「よかった、ありがとう。そうだ、甘いものは好き? 僕ね、飴を持ってる……」
「ボク、餌付けはされない」
「おお憂国の忠臣クレイよ、俺の失敗を活かさないところ、なかなかいいぞ」
 エリックはそう言って冷やかすように近くの席に腰掛け、思考する。
「ミハイは今、寮に泊まってるんだよね?」
 問えば、こくりと頷きが返される。
「なら、今日は俺も寮に泊まろうかな!」
 エリックはそう言ってニコニコした。
「一緒にお風呂に入って寝るんだ。どう? きっと俺たち仲良くなれるよ」
 そんなエリックにミハイは微妙な顔を返している。
「ボクは象徴プリンスだから落としても無駄だよ」
 その言い方が若干過去の自分を思い出させたので、エリックはミハイという少年に少し自分を重ねて手を握った。
「俺はプリンスとか関係なく、ミハイと仲良くなりたいのさ」

(おお、俺の講義中に少年たちがなんか仲を深めて……しかし講義も聞いてくれ)
 板書していたエイヴンは心を和ませながらもこっそりと願うのだった。
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