竜と王冠のサクリファイス~乙女ゲームの攻略キャラたちがお互いを攻略して王都炎上?

浅草ゆうひ

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12、騎士王と雨月の冠

219、音のない砂絵のように、或いは流れ落ちる雨粒のように

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 空追い鳥も眠る頃。
 濃密な珈琲色の夜闇の底、夜風は冷たく夜想曲を奏でながら前髪を撫でて、枝いっぱいに咲く橙色の花と葉のかおりを齎した。

 王子の髪――凍てる白銀の煌きが柔らかさを感じさせるのは、その人となりが知れているからだろう。
 アイザールは結局ファーリズの国境を現在進行形で攻めているという。アーサー王はアイザール方面の守りを固めつつ、加護の使える『大使』に帰国して国防のためにその権能を奮うよう求めているらしいが。
「クレイめ、途中でゲーム放棄とは……手紙にも返事をしない。聖女直伝の異世界知識によると、クレイみたいな奴を『エタる』というのだ。あいつ、エタりやがって……しょうのない奴め」
(エンヘリアはアイザールを支援してるし、ユンク領は防衛不参加なんだぞ。『騎士王』担当はお前じゃないか)
 エリックは頭を悩ませつつ、お泊り会を続けていた。暗い部屋の中に、橙色に燈る燭台の灯が蕩ける夕陽よりも優しくあたたかい。スマルト・ブルーの瞳はあたたかさの中で凍えるようだった。
(おかげで秘密結社がボロボロだよ。オーガストは前線に行ってしまうし……父もその臣下たちも、俺には何もするなと。魔王の力も絶対に使うなと……)
 拳をこそりと固めて唇を噛む王子に取り巻きたちが声をかけてくる。

「自分の父も兵を率いて国土防衛のため参戦しております。自分も共にと志願したのですが、若輩だから勉学に励んでいろと言われてしまい」
 カジミーユ・レオットがそう言って涙目になっている。
「うちは、兄たちが忙しそうにしていますよ。俺は王子殿下と遊ぶ係なんて言われて……ひどくないですか」
 ヴラン・ファブリスが項垂れて。
「僕も国のあれこれに口を挟むな、黙ってろ、なんて言われました」
 ブロワール・ケイルが苦笑した。

「俺たちにできるのはエタり道楽貴族コルトリッセン君の我儘を叶えることぐらいか」
 エリックはエタり道楽貴族がノートに書いた幾つかの案を実行していた。
「みんな、聞いてくれ。この国難に俺が父に何をおねだりしたと思う? 競馬場をつくった。薄い本屋をつくった。東の森一部をクレストフォレスに譲って国土を削った。学院を初等部中等部後等部にわけることにした」
 取り巻きたちは何とも言えない目でそんな王子を見た。エリックはそんな取り巻きたちの目を楽しむように眺めてじっくり溜めてから、宣言した。
「……そして俺たちは今から、エタりクレイなしの秘密結社ファーブラとして戦いを始める!」

 魔王様がやる気だ、と影に潜んでいた新生魔王軍の連中は視線を交差させ、胸を高鳴らす。
「どれファラオ、爪を研いでやろう。よーし、よしよし」
 吸血鬼のミームがファラオを抱っこして爪を手入れしてあげている。
「ダンディ様の分も頑張るね……」
 ルルムはいつの間にか作られたダンディ卿のお墓に手を合わせて、ダンディ卿が大好きだったお酒をとくとくと墓石にかけてあげた。
 
 感傷は、雨粒に似ていた。
 留まることなく姿を変えて、落ちて流れてどこかに染みて消えていく。

 エリックは影の彼らにそっと微笑んだ。
(手のひらに触れれば、愛着も湧くし、感慨深くもなるものだ)
 けれど、永遠なんてものはない――王子は愛情燈る胸に手をあてて、この止まることなき瞬間を抱きしめるように吐息をつく。外に煌めく天上の銀砂の星は瞬き、やがて静かにすべり落ちた。
 
 ◇◇◇

 ――東方、クレストフォレス。
 色づく森は乾いた音を立てる落葉をみせていて、雨上がりの土と葉のかおりはやさしい。枝垂れる葉と花は透きとおる露を幾つも抱いている。

 茂る葉天蓋の隙間から、斑と落ちる光は柔らかでしっとりとしていた。ちいさな妖精たちがふわふわと先導する先にすこし拓けた場所があって、湖がある。
 水蝋燭メリアポーサが、緋色や水色の焰を灯して湖面をゆらゆらと漂ってゆく。
 
 日差しが互いの髪に跳ねて踊って煌く様がとても綺麗だった。
 菫妖精達がきらきらと零した声音が、淡い煌きの波紋となって広がっていく。
 花々の梢を撫でゆく風は幸せな自然の香りをたっぷり含み、輝く陽射しは薫る風をも煌かせた。
 
 音のない砂絵のように、土の地面に形がつくられる。そして、消える。
 クレストフォレスに滞在するネネツィカは、ティミオスが近くに妖精の穴が開くたびに閉じて回っているのを不思議に思っていた。
「妖精界からこちらに来ようとしている誰かがいるのではなくて? 邪魔をしてよいの?」
「ええ。お嬢様はどうぞお気になさらずに」
「そう……」
 湖のほとりに設えられたテーブルセットには、妖精たちのお茶会と言った風情の料理が並んでいた。
 バラとルバーブのピンクローズパフェ、薔薇のブランマンジェ、苺のフレジェ――甘いスイーツは妖精たちの趣味らしく、ちいさな妖精などはスプーンにすくわれた花砂糖や角砂糖に夢中。幻想仕掛けの時計が湖の上にぽっかり浮かんで左回りに時を刻むのが、人の世界に居ながらして妖精たちの幻想世界を思わせる。
 
 ラフな服装で雪白の肌を日差しに明るく曝け出した『妖精射手』サリオンはビスキュイをつまみ、親戚の子であるアレクセイの口元に運んでいる。タルトに埋まり艶めく黒スグリをフォークの先で突いていたアレクセイは揺籃のうちに閉じ込められるみたいにサリオンの腕に収まっていて、ネネツィカはちらちらと視線を向けては恍惚となっていた。同志、腐男子のエイヴンは「わかる、わかる」とにやけた顔で妖精の二人を見つめ、のほほんとしていた。
「いやあ、正直さ。俺は今死のうと思ったら死ねる状態だと思うんだけど、なんか日々の娯楽が最近とくに心地よくてさあ」
 冗談めかしてそう呟く橙色の瞳は、「『妖精射手』サリオンはRPG時代にも登場していたね。エルフ好きなスタッフが愛を注いでいたらしい。俺の曖昧な記憶だか知識だと、確か親戚のキャラアレクセイは亡くなったスタッフが考案したんだったかなあ」
「亡くなった?」
「神様も亡くなるのさ。異世界ではただの人間だからね」

 妖精たちの会話が湖面に遊ぶ風にさらわれて、天にのぼっていく。
「アレクセイは、しばらく妖精界にて過ごすように。百年ほどでいい。未成熟なお前には人間社会は刺激が強すぎた……早すぎたんだ。旅をさせようなどという、私の判断が間違っていた」
 柳眉を顰め、サリオンの優艶のテノールが佳声を紡いでいる。泉の如く澄む声は親愛の情に溢れていたが。
「いやです」
 陽だまり色の髪を揺らして、アレクセイが反抗的な薄荷緑の瞳をみせている。
「頑なに事情も打ち明けずにその反抗的な態度は何事だ。処刑されていたかもしれないのだぞ。自分の成したことを理解しているのか……救える可能性のあった人命が失われ、危うく私の戦友が命を落としかけ、さらにいうなら私が斬られる原因にもなったのだ」
「そ、それは……サリオン様が斬られてしまったのは、本当に申し訳ありません」
 サリオンは切々と言葉を連ねた。
「私より他だ。気にするならそちらを気にしてほしい、……お前の心がわからない……どうか、教えてほしい」

 
「お嬢様、ディドは勇者をひとまずクレストフォレスで預かりたいと申しています。それと、妖精界に赴いて『春の夢』にて情報を拾ってきてほしいと――ラーフルトンのお嬢様なら出来るだろうと」
 ダスティンが遅れてやってきて、そう告げた。
「案の定、アイザールからは国際交流会以前から水面下での打診が続いているようでした。はっきりとは肯定しませんでしたがね」
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