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三章、悪役の流儀
44、俺はバターミルクパンケーキが食べたかったわけじゃない(軽☆)
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「臣従の指輪は……」
ノウファムの声を聞きながら、僕は夢中で緑葉野菜を咀嚼した。
新鮮な野菜の苦味が美味しい。こんな状態でも、味は一応わかるようだった。
「とても力の強い魔術師がつくった。これは、まだ今の俺には抗えない。外せない――すまない」
申し訳なさそうな声が、僕の情緒を揺らす。
この負け続けてばかりの王兄がしょんぼりしていると、僕はなんだか居たたまれなくなってしまう――そんな風に申し訳なさそうにしないでって言いたくなるのだ。
「い、いい。続けて――」
食事の定義ってなんだろう。
どれくらい食べたら食事したと言えるんだろう。
そんなことを考えながら、僕は喘いだ。
「……ハァッ」
息が熱い。
胸から発生した熱が、少しずつ全身に広がるようだった。
「エーテル、アムリエートを食べるか」
「な、なんでもいい。それでいい……」
スプーンにひとくちサイズがすくわれて、口に運ばれる。
綺麗な明るい黄色のアムリエートは、半熟だ。
「……エーテル、あーん」
「ふぁ……っ」
促されるがまま口を開けると、スプーンが開いた隙間から挿しこまれて、舌先にアムリエートを届けてくれる。
「美味しいか? 新鮮な巨鳥モアの卵が使われている。栄養価も高い」
生真面目なノウファムの声は、気を紛らわそうとしてくれているのだろうか。
それとも、「仲よく楽しむ」を実行するために会話を試みているのだろうか。
「美味いか」
卵はふわっふわで、舌の上でとろとろに蕩ける。優しい食感だ。
「お、おいし……です……っ」
へにゃっとなんとか微笑みもどきを表情に浮かべると、ノウファムは変な生き物をみるような眼で眉間にしわを寄せている。
「……」
コメントに困ったらしく無言になりながら、ノウファムは黙々とスプーンでおかわりを運んでくれた。
まるで雛鳥になったみたいに口を開けてはくはくしていれば、シナモン風味のくたっとした生暖かい果実煮が舌に置かれる。
「んぅ……」
甘いぃ。ぬるっとしている――なんか、脇のあたりにぞわぞわと落ち着かない熱が渦巻く。
美味しい。
けれど、くちくちと咀嚼していると、口の中で柔らかい口腔をくすぐる生暖かくてとろっとしたものがなんだか今の身体には、性感を煽る刺激に感じられるのだ。
「シナモン風味の林檎煮だ。料理長の得意料理らしい。俺も好ましいと思う味付けだな」
冷静なノウファムの声に頷きながら、僕は未知の感覚に慄いていた。
「ふ、……ふっ、……ふ、ぅ」
内股がふるふる震えて、力を入れて耐える。
「エーテル? 辛いのか?」
様子を窺うノウファムの声が、僕の羞恥心を煽る。
「く、……っ、も、もう、食事はいいっ……」
涙目で言えば、バターミルクパンケーキを切り分けていたノウファムはちょっと動揺した様子で手を止めて手元のナイフに視線を落とした。
「バ、バターミルクパンケーキが食べたかったんですか、殿下……っ?」
「……お兄様と呼んでくれないか」
葛藤を感じさせる声が低く訂正する。
「そ……そんな葛藤するほど、バターミルクパンケーキが食べたいんですか、お兄様……っ」
――僕は今、それどころじゃないんですよ!
じんじん、びりびりでゼエゼエしてるんです!
僕がハァハァしながら睨めば、ノウファムはナイフを置いてバターミルクパンケーキとお別れしてくれた。
今度ゆっくり食べさせてあげよう――、
「俺は別にバターミルクパンケーキが食べたかったわけじゃない」
歩けなくなった僕を抱きかかえて移動するノウファムは、憮然とした声で言い訳するみたいに呟いていた。
ノウファムの声を聞きながら、僕は夢中で緑葉野菜を咀嚼した。
新鮮な野菜の苦味が美味しい。こんな状態でも、味は一応わかるようだった。
「とても力の強い魔術師がつくった。これは、まだ今の俺には抗えない。外せない――すまない」
申し訳なさそうな声が、僕の情緒を揺らす。
この負け続けてばかりの王兄がしょんぼりしていると、僕はなんだか居たたまれなくなってしまう――そんな風に申し訳なさそうにしないでって言いたくなるのだ。
「い、いい。続けて――」
食事の定義ってなんだろう。
どれくらい食べたら食事したと言えるんだろう。
そんなことを考えながら、僕は喘いだ。
「……ハァッ」
息が熱い。
胸から発生した熱が、少しずつ全身に広がるようだった。
「エーテル、アムリエートを食べるか」
「な、なんでもいい。それでいい……」
スプーンにひとくちサイズがすくわれて、口に運ばれる。
綺麗な明るい黄色のアムリエートは、半熟だ。
「……エーテル、あーん」
「ふぁ……っ」
促されるがまま口を開けると、スプーンが開いた隙間から挿しこまれて、舌先にアムリエートを届けてくれる。
「美味しいか? 新鮮な巨鳥モアの卵が使われている。栄養価も高い」
生真面目なノウファムの声は、気を紛らわそうとしてくれているのだろうか。
それとも、「仲よく楽しむ」を実行するために会話を試みているのだろうか。
「美味いか」
卵はふわっふわで、舌の上でとろとろに蕩ける。優しい食感だ。
「お、おいし……です……っ」
へにゃっとなんとか微笑みもどきを表情に浮かべると、ノウファムは変な生き物をみるような眼で眉間にしわを寄せている。
「……」
コメントに困ったらしく無言になりながら、ノウファムは黙々とスプーンでおかわりを運んでくれた。
まるで雛鳥になったみたいに口を開けてはくはくしていれば、シナモン風味のくたっとした生暖かい果実煮が舌に置かれる。
「んぅ……」
甘いぃ。ぬるっとしている――なんか、脇のあたりにぞわぞわと落ち着かない熱が渦巻く。
美味しい。
けれど、くちくちと咀嚼していると、口の中で柔らかい口腔をくすぐる生暖かくてとろっとしたものがなんだか今の身体には、性感を煽る刺激に感じられるのだ。
「シナモン風味の林檎煮だ。料理長の得意料理らしい。俺も好ましいと思う味付けだな」
冷静なノウファムの声に頷きながら、僕は未知の感覚に慄いていた。
「ふ、……ふっ、……ふ、ぅ」
内股がふるふる震えて、力を入れて耐える。
「エーテル? 辛いのか?」
様子を窺うノウファムの声が、僕の羞恥心を煽る。
「く、……っ、も、もう、食事はいいっ……」
涙目で言えば、バターミルクパンケーキを切り分けていたノウファムはちょっと動揺した様子で手を止めて手元のナイフに視線を落とした。
「バ、バターミルクパンケーキが食べたかったんですか、殿下……っ?」
「……お兄様と呼んでくれないか」
葛藤を感じさせる声が低く訂正する。
「そ……そんな葛藤するほど、バターミルクパンケーキが食べたいんですか、お兄様……っ」
――僕は今、それどころじゃないんですよ!
じんじん、びりびりでゼエゼエしてるんです!
僕がハァハァしながら睨めば、ノウファムはナイフを置いてバターミルクパンケーキとお別れしてくれた。
今度ゆっくり食べさせてあげよう――、
「俺は別にバターミルクパンケーキが食べたかったわけじゃない」
歩けなくなった僕を抱きかかえて移動するノウファムは、憮然とした声で言い訳するみたいに呟いていた。
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