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第一章 緋色の三日間
第11話 敵襲
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「……間違いない、この後ろよ」
相手の魔力を追って、澪音と目的地の屋上と、たった一つの鉄扉で隔てられる。
現在、魔力反応が完全に消えた。空気が張り裂けそうな悲鳴のあと、それ以上の物音は聞こえてきなかった。
勝負はついた、という意味だ。
「どうやら向こうは、武器も持っている危険人物らしい」
近づいて確認すると、澪奈は表情を強張らせた。
錆びた取っ手には新しい刀痕が残り、鎖の破片が床に散乱している。
明らかに、暴力で無理やり開けられた。
「思ったより厳しい状況かもしれない……澪音、気をつけて」
「神様ぁぁ! 頼むぅぅ――!」
動揺を抑えて、目を閉じた澪音は勢いよく扉を開け、半身を屋上に入れる。
日光の温み、正面から体に撒く。軽風と共に、快適な環境を生み出した。
開放されれば、学校の人気スポットになれる。
「えっ? なんか異臭が……」
が。自分の嗅覚は得た情報を全力で否定している。
と同時に、靴底から異様な違和感が伝わってきた。固まりのようなものではなく、粘着性のある液体だった。
そのねばねばした液体こそが澪音の不快感を刺激する匂いを放っている。
「嘘でしょ……今までの予感はそんなに当たらなかったのに…」
目を開けた視界はぼやけている――点々と燃え残る火点から立つ陽炎が景色を歪めたのだ。
血は瓦礫の線路を伝って澪音の運動靴の下に流れる。
砕石の傍に、満身創痍の死体がいくつも、静かに横たわった。
破壊された鉄条網は崩れ、死人を埋め、彼らの墓場となった。
「……っ……かっ……」
言葉も、出てこない程度。
被害者から目撃者に視点が切り替わることで、恐怖が倍増するとは思わなかった。体を震わせた澪音は鳥肌が立った。
「酷い……いったい、何があった……誰がそんなことを……」
冷静を失い、澪奈は現実が受け入れられないと口を押さえる。
事実が予想を超えるどころか、夢の中でも、こんな悲惨な光景は想像できない。
「にっ、逃げ……」
「……ッ?!」
語音が足元から聞こえてきた。
澪音のズボンを、血だらけの手が引っ張った。その手で繋がれた体――澪音と同じ年頃の男子が、地面を這っている。酷く弱って、再起不能。
彼の両足、三メートルほど離れた瓦礫の丘に埋まった。出血し、何かの刃物で切断されたようだった。
絶望的な目で、悲痛な見聞を訴える。
「俺たちは……悪くない……」
「なっ、なに?」
自分を呼ぼうとした男子がここの生徒であることに、今さら気づくのだ。
先輩か、それとも同級生か。傷だらけの顔から、澪音には識別できない。
「気をつけ……あいつはまだここに――」
男子生徒は最後の息を切らして遺言を残し、不公平な運命への怨恨を抱きながら永遠の眠りについた。
澪音の足下に倒れ込む。
「し、死んだ……」
異様な血の臭いが鼻を襲った。嘔吐感がする。
全身を恐怖に支配され、澪音は膝をつき、口を覆ってしまった。
同類が目の前で死んでいくのを目撃して、高校生になって間もないにしては、あまりにも衝撃的すぎた。
「澪音、この男子も、魔法使いよ」
微弱だけど、幽かな魔力を死体に、澪奈が感じ取った。
しかし、食堂で探知できた魔力の蓄積量とは雲泥の差がある。
「マジ、かよ……」
「彼だけじゃない! ここで死んだ生徒たち、全員魔法使いなのだ!」
「なに?! 殺されたのは魔法使いばかり……こ、これはまるで――」
「『魔女狩り』、と言いたいよな」
言うまでもなく、中世の魔法使い虐殺事件と似た。
しかし――澪音が気になるのは、置かれた惨状よりも、彼に応える声の方。
「はっ?!」
澪奈の心臓は一瞬、激しく威嚇的な圧迫感に襲われた。
無精髭男よりも大袈裟。食物連鎖の頂点にいるような存在。
茜色の瞳を大きく見開いて、素早く姿を消した。
「澪奈?」
(しっ! 話すならテレパシーで)
(オッケー)
仲間の意図がよくわからないながらも従う澪音。
(何か新発見が?)
(いいえ、そうじゃないけど……)
「――はあぁ!」
その瞬間、澪音も澪奈が言う狩猟者の殺気を感じた。
「おや、まだ鼠いるか」
背後から、低くそっけない女の声がした。
澪音は声のした方に顔を向けた。
そこには、凶悪な殺人鬼ではなく、貯水タンクに座り、飲酒している金髪の女だった。
空瓶を投げ捨て、彼女は耳にあてた髪をかきあげる。
そのセクシーな桜色唇は、今にも情熱的なフランス式ディープキスを与えてくれそうだ。妖艶な挙動とモデル顔負けの長身が一見、外国のモデルかと思われる。
デニムパンツに、上半身は黒のジャケットを合わせる。金髪女の装束はかなり欧米風だった。
背中の鞘には短剣が装備されているらしい。
「ちょっと、おまえ!」
金髪女は飛び上がり、華麗な三百六十度の前宙返りをして澪音の後ろにしっかりと着地し、鉄扉への道を切った。
「――どうやって私の魔法を解いたのか」
「……信じてもらえないかも、あなたの魔法は僕には効かないよ」
『こっちも知りたいんだ』と伝えようとしたが、威圧に押された思慮の浅い言葉が逆効果となり、さらに相手を怒らせた。
「馬鹿にしてるのか、おまえぇぇ――!」
失言の代償に、金髪女は右足を振り上げ、防御不能の速さで澪音の腹を思い切り蹴る。
「グアッーー」
(マスター!)
威力十分の足技。強烈な衝撃に打たれ、澪音は膝をついて咳き込んだ。
「ふん! このまま逃げるの算段か……気骨ねぇなぁー! それでも男か!」
皮肉を言って、金髪女は顔を顰めて酒臭い息を吐き、
「そういえば昨日、誠は仕事中、命を落としたという噂を聞いた。最後のターゲットは一人の少年。まさか、それがおまえか?」
聞いたこともない名前だ。
ただ、内容から連想できる人物は一人しかいない。
「あの無精髭野郎なら、僕が殺した! だから、てめぇは誰だか知らないけど、同じ目に遭いたくないなら、さっさと魔法を解い、ここから出ていけ!」
傲慢の立場でもないのに暴言を吐く。
弱気を顕わしたら殺されること、澪音はよく察知した。
これを機会にすれば、最悪でも抜け出す時間を稼ぐことができる。
「ふふふ……」
しかし、澪音の豪語に金髪女は逆に豪快な高笑いする。
「ハハハハハ! なにそれ! 超おかしいけどぉぉ! 確かになぁ! おまえの言う通りだ! 誠のやつ、魔法は希少だが、実力が今一だ。彼の死が読まれやすいものだ! けど……」
一頻り言葉を切った金髪女は、不機嫌そうに顔を歪め、視線を鋭くした。
「――綺麗なお姉さんに嘘をつくなんて、酷いと思わない?」
足音が消え、影だけが滑る。見事な回し蹴りで、金髪女は口角から血の滴る澪音を蹴飛ばし、屋上の端に倒れ込んだ。
「知ってるよ、その弱い目つきから。おまえは殺人の度胸も、それに見合う実力もない」
ゆっくりと近寄ってくる金髪女は、軽蔑の色を露にした。
唇を尖らせたその様子は、自分以下の者へ極度の嫌悪感を漂わせていた。そして、澪音を指差し、
「つまり、誰かがおまえの代わりに誠を殺した。あいつは、かなりの実力者だ」
「そんなやつが、いねぇんだよ……てめぇの目的は、一体何なんだよ」
「この世界、弱い魔法使いが要らない。『彼らを殺す』、それが私の任務」
「任務……だと?!」
「そうさ! おまえを始末後、大虐殺を始めるぞ! 本当のターゲットは警察でも分からなくになる! 死を迎える者たちに、派手に幕を引いてやる!」
彼女が両手を広げた。命を奪うことへの期待と快感が全身に溢れている。
無感情の殺人機械と言っても過言ではない。
「ふざけるな……」
草臥れた体で立ち上がると、制服は埃と土で汚れ、澪音は袖口で口を拭い、青筋を立てた拳を握りしめた。
――この女、マスターの前で言うちゃうことを……
と、契約とテレパシーを通して、澪奈はすべてを見て、すべてを感じた。
澪音は金髪女の発言から、月渚や秋風が襲われる確率がゼロではないことに気づいた瞬間、憤怒がこみ上げてきた。
「うわぁ! まだ立てるね。やはり殺される価値はあるようだなぁ……ん?」
相手の心境変化を薄々感受した金髪女は、元の姿勢に戻り、少し調子を落とした。
「その目……あらあら、もしかしてもしかして、怒ってんの?」
「ああ、その通りだ! てめぇの目的が何であれ、命を踏みにじることも犯罪も、『僕と関係ねぇ』の言い訳で無視できる。でも、僕の幼馴染を巻き込まれたなんて、死んでも許さないぞ――!」
「へえ、死んでもだって?」
すると彼女は小さく頭を下げた。
次の瞬間、人間の限界を超える速度で澪音の傍に瞬時に姿を現し、耳元で囁い、
「じゃあ一度、死んだら?」
振り向く余裕も、防御する余裕もない。
愕然として目を見開く前に、無数の拳が澪音に次々と叩きつけられる。
一秒三発。
一秒四発。
一秒五発。
拳が霞んで見える。攻撃の数と強度は時間とともに増えていく。
「どうだ! この前、友人に教えてもらった新技! まだ誰にも使ってねぇんだ」
「……ッ」
金髪女は興奮状態に入り、瞳に嗜虐の色を輝かせる。
澪音は虐げられる側として、無言でパンチを受けていた。
何度も吐き気に襲われ、意識が飛びかけて、苦しみを終わらせたかった。
だが、一度倒れたら二度とひっくり返ることがないのではないかと気を抜くことができず、一分間の一方的な対決を耐えた。
「ふう、面白い奴! あれだけ殴られてよく生きているねぇ! おまえが敵でなければ、私たちはきっと相性がいいだろう!」
「いやよ……てめぇみたいな変態と一緒にすんな……」
面前まで来てとどめを刺そうとする金髪女を見て、澪音は一歩後退した。
傍目には、死の恐怖に見えるが、彼の真意を知るのはたった一人、というより一人の契約精霊だけだ。
「澪音、まさか……ダメだ! 危険すぎる!」
澪音は二度目の忠告には耳を傾けなかった。
「使用者が死ねば魔法は解ける……だったっけ?」
「ふん! まだ甘いなことを……殺すどころか、私を倒すこともできない! 負け犬は負け犬だ」
鞘から短剣を抜き、金髪女は血なまぐさい処刑の準備を整えていた。
ただ――、
「今だ!」
その刹那。極小の隙を捉え、澪音は奇襲をかけてきた。
敵一瞬の油断を見計らって、足に力を入れ、不意に彼女の腰にしがみ付く。
ついでに武器使用権も封印した。
「なっ、何をやって……放せ!」
少年の意図が読めず、金髪女は体を揺らして逃げようとするが、力が入らない。
澪音は彼女の耳元に這い寄ってきて、
「死んでも許さないって、決してきれいごとじゃない……」
「なに?」
「一緒に、死んで」
「はっ?!」
力いっぱい後ろに倒れ込むと、澪音は金髪女の重心を崩せ、二人を全速で地面に落ちていく。
相手の魔力を追って、澪音と目的地の屋上と、たった一つの鉄扉で隔てられる。
現在、魔力反応が完全に消えた。空気が張り裂けそうな悲鳴のあと、それ以上の物音は聞こえてきなかった。
勝負はついた、という意味だ。
「どうやら向こうは、武器も持っている危険人物らしい」
近づいて確認すると、澪奈は表情を強張らせた。
錆びた取っ手には新しい刀痕が残り、鎖の破片が床に散乱している。
明らかに、暴力で無理やり開けられた。
「思ったより厳しい状況かもしれない……澪音、気をつけて」
「神様ぁぁ! 頼むぅぅ――!」
動揺を抑えて、目を閉じた澪音は勢いよく扉を開け、半身を屋上に入れる。
日光の温み、正面から体に撒く。軽風と共に、快適な環境を生み出した。
開放されれば、学校の人気スポットになれる。
「えっ? なんか異臭が……」
が。自分の嗅覚は得た情報を全力で否定している。
と同時に、靴底から異様な違和感が伝わってきた。固まりのようなものではなく、粘着性のある液体だった。
そのねばねばした液体こそが澪音の不快感を刺激する匂いを放っている。
「嘘でしょ……今までの予感はそんなに当たらなかったのに…」
目を開けた視界はぼやけている――点々と燃え残る火点から立つ陽炎が景色を歪めたのだ。
血は瓦礫の線路を伝って澪音の運動靴の下に流れる。
砕石の傍に、満身創痍の死体がいくつも、静かに横たわった。
破壊された鉄条網は崩れ、死人を埋め、彼らの墓場となった。
「……っ……かっ……」
言葉も、出てこない程度。
被害者から目撃者に視点が切り替わることで、恐怖が倍増するとは思わなかった。体を震わせた澪音は鳥肌が立った。
「酷い……いったい、何があった……誰がそんなことを……」
冷静を失い、澪奈は現実が受け入れられないと口を押さえる。
事実が予想を超えるどころか、夢の中でも、こんな悲惨な光景は想像できない。
「にっ、逃げ……」
「……ッ?!」
語音が足元から聞こえてきた。
澪音のズボンを、血だらけの手が引っ張った。その手で繋がれた体――澪音と同じ年頃の男子が、地面を這っている。酷く弱って、再起不能。
彼の両足、三メートルほど離れた瓦礫の丘に埋まった。出血し、何かの刃物で切断されたようだった。
絶望的な目で、悲痛な見聞を訴える。
「俺たちは……悪くない……」
「なっ、なに?」
自分を呼ぼうとした男子がここの生徒であることに、今さら気づくのだ。
先輩か、それとも同級生か。傷だらけの顔から、澪音には識別できない。
「気をつけ……あいつはまだここに――」
男子生徒は最後の息を切らして遺言を残し、不公平な運命への怨恨を抱きながら永遠の眠りについた。
澪音の足下に倒れ込む。
「し、死んだ……」
異様な血の臭いが鼻を襲った。嘔吐感がする。
全身を恐怖に支配され、澪音は膝をつき、口を覆ってしまった。
同類が目の前で死んでいくのを目撃して、高校生になって間もないにしては、あまりにも衝撃的すぎた。
「澪音、この男子も、魔法使いよ」
微弱だけど、幽かな魔力を死体に、澪奈が感じ取った。
しかし、食堂で探知できた魔力の蓄積量とは雲泥の差がある。
「マジ、かよ……」
「彼だけじゃない! ここで死んだ生徒たち、全員魔法使いなのだ!」
「なに?! 殺されたのは魔法使いばかり……こ、これはまるで――」
「『魔女狩り』、と言いたいよな」
言うまでもなく、中世の魔法使い虐殺事件と似た。
しかし――澪音が気になるのは、置かれた惨状よりも、彼に応える声の方。
「はっ?!」
澪奈の心臓は一瞬、激しく威嚇的な圧迫感に襲われた。
無精髭男よりも大袈裟。食物連鎖の頂点にいるような存在。
茜色の瞳を大きく見開いて、素早く姿を消した。
「澪奈?」
(しっ! 話すならテレパシーで)
(オッケー)
仲間の意図がよくわからないながらも従う澪音。
(何か新発見が?)
(いいえ、そうじゃないけど……)
「――はあぁ!」
その瞬間、澪音も澪奈が言う狩猟者の殺気を感じた。
「おや、まだ鼠いるか」
背後から、低くそっけない女の声がした。
澪音は声のした方に顔を向けた。
そこには、凶悪な殺人鬼ではなく、貯水タンクに座り、飲酒している金髪の女だった。
空瓶を投げ捨て、彼女は耳にあてた髪をかきあげる。
そのセクシーな桜色唇は、今にも情熱的なフランス式ディープキスを与えてくれそうだ。妖艶な挙動とモデル顔負けの長身が一見、外国のモデルかと思われる。
デニムパンツに、上半身は黒のジャケットを合わせる。金髪女の装束はかなり欧米風だった。
背中の鞘には短剣が装備されているらしい。
「ちょっと、おまえ!」
金髪女は飛び上がり、華麗な三百六十度の前宙返りをして澪音の後ろにしっかりと着地し、鉄扉への道を切った。
「――どうやって私の魔法を解いたのか」
「……信じてもらえないかも、あなたの魔法は僕には効かないよ」
『こっちも知りたいんだ』と伝えようとしたが、威圧に押された思慮の浅い言葉が逆効果となり、さらに相手を怒らせた。
「馬鹿にしてるのか、おまえぇぇ――!」
失言の代償に、金髪女は右足を振り上げ、防御不能の速さで澪音の腹を思い切り蹴る。
「グアッーー」
(マスター!)
威力十分の足技。強烈な衝撃に打たれ、澪音は膝をついて咳き込んだ。
「ふん! このまま逃げるの算段か……気骨ねぇなぁー! それでも男か!」
皮肉を言って、金髪女は顔を顰めて酒臭い息を吐き、
「そういえば昨日、誠は仕事中、命を落としたという噂を聞いた。最後のターゲットは一人の少年。まさか、それがおまえか?」
聞いたこともない名前だ。
ただ、内容から連想できる人物は一人しかいない。
「あの無精髭野郎なら、僕が殺した! だから、てめぇは誰だか知らないけど、同じ目に遭いたくないなら、さっさと魔法を解い、ここから出ていけ!」
傲慢の立場でもないのに暴言を吐く。
弱気を顕わしたら殺されること、澪音はよく察知した。
これを機会にすれば、最悪でも抜け出す時間を稼ぐことができる。
「ふふふ……」
しかし、澪音の豪語に金髪女は逆に豪快な高笑いする。
「ハハハハハ! なにそれ! 超おかしいけどぉぉ! 確かになぁ! おまえの言う通りだ! 誠のやつ、魔法は希少だが、実力が今一だ。彼の死が読まれやすいものだ! けど……」
一頻り言葉を切った金髪女は、不機嫌そうに顔を歪め、視線を鋭くした。
「――綺麗なお姉さんに嘘をつくなんて、酷いと思わない?」
足音が消え、影だけが滑る。見事な回し蹴りで、金髪女は口角から血の滴る澪音を蹴飛ばし、屋上の端に倒れ込んだ。
「知ってるよ、その弱い目つきから。おまえは殺人の度胸も、それに見合う実力もない」
ゆっくりと近寄ってくる金髪女は、軽蔑の色を露にした。
唇を尖らせたその様子は、自分以下の者へ極度の嫌悪感を漂わせていた。そして、澪音を指差し、
「つまり、誰かがおまえの代わりに誠を殺した。あいつは、かなりの実力者だ」
「そんなやつが、いねぇんだよ……てめぇの目的は、一体何なんだよ」
「この世界、弱い魔法使いが要らない。『彼らを殺す』、それが私の任務」
「任務……だと?!」
「そうさ! おまえを始末後、大虐殺を始めるぞ! 本当のターゲットは警察でも分からなくになる! 死を迎える者たちに、派手に幕を引いてやる!」
彼女が両手を広げた。命を奪うことへの期待と快感が全身に溢れている。
無感情の殺人機械と言っても過言ではない。
「ふざけるな……」
草臥れた体で立ち上がると、制服は埃と土で汚れ、澪音は袖口で口を拭い、青筋を立てた拳を握りしめた。
――この女、マスターの前で言うちゃうことを……
と、契約とテレパシーを通して、澪奈はすべてを見て、すべてを感じた。
澪音は金髪女の発言から、月渚や秋風が襲われる確率がゼロではないことに気づいた瞬間、憤怒がこみ上げてきた。
「うわぁ! まだ立てるね。やはり殺される価値はあるようだなぁ……ん?」
相手の心境変化を薄々感受した金髪女は、元の姿勢に戻り、少し調子を落とした。
「その目……あらあら、もしかしてもしかして、怒ってんの?」
「ああ、その通りだ! てめぇの目的が何であれ、命を踏みにじることも犯罪も、『僕と関係ねぇ』の言い訳で無視できる。でも、僕の幼馴染を巻き込まれたなんて、死んでも許さないぞ――!」
「へえ、死んでもだって?」
すると彼女は小さく頭を下げた。
次の瞬間、人間の限界を超える速度で澪音の傍に瞬時に姿を現し、耳元で囁い、
「じゃあ一度、死んだら?」
振り向く余裕も、防御する余裕もない。
愕然として目を見開く前に、無数の拳が澪音に次々と叩きつけられる。
一秒三発。
一秒四発。
一秒五発。
拳が霞んで見える。攻撃の数と強度は時間とともに増えていく。
「どうだ! この前、友人に教えてもらった新技! まだ誰にも使ってねぇんだ」
「……ッ」
金髪女は興奮状態に入り、瞳に嗜虐の色を輝かせる。
澪音は虐げられる側として、無言でパンチを受けていた。
何度も吐き気に襲われ、意識が飛びかけて、苦しみを終わらせたかった。
だが、一度倒れたら二度とひっくり返ることがないのではないかと気を抜くことができず、一分間の一方的な対決を耐えた。
「ふう、面白い奴! あれだけ殴られてよく生きているねぇ! おまえが敵でなければ、私たちはきっと相性がいいだろう!」
「いやよ……てめぇみたいな変態と一緒にすんな……」
面前まで来てとどめを刺そうとする金髪女を見て、澪音は一歩後退した。
傍目には、死の恐怖に見えるが、彼の真意を知るのはたった一人、というより一人の契約精霊だけだ。
「澪音、まさか……ダメだ! 危険すぎる!」
澪音は二度目の忠告には耳を傾けなかった。
「使用者が死ねば魔法は解ける……だったっけ?」
「ふん! まだ甘いなことを……殺すどころか、私を倒すこともできない! 負け犬は負け犬だ」
鞘から短剣を抜き、金髪女は血なまぐさい処刑の準備を整えていた。
ただ――、
「今だ!」
その刹那。極小の隙を捉え、澪音は奇襲をかけてきた。
敵一瞬の油断を見計らって、足に力を入れ、不意に彼女の腰にしがみ付く。
ついでに武器使用権も封印した。
「なっ、何をやって……放せ!」
少年の意図が読めず、金髪女は体を揺らして逃げようとするが、力が入らない。
澪音は彼女の耳元に這い寄ってきて、
「死んでも許さないって、決してきれいごとじゃない……」
「なに?」
「一緒に、死んで」
「はっ?!」
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