独裁国家とわがまま王子

八十三広

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快刀

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アイラム「次どうしよ…」

ソウカン「そんなに急ぐ事も無いかと思われます。国民も混乱してしまいます」

アイラム「うーん」  

アイラムはそれはそうかもしれないと考えたが、まだ納得出来ない。  

そこでロイアードは「アイラム王子。宮内庁という物を作るとお聞きしましたが、どの様な物かお聞きしとうございます」

アイラム「ああ、それか」  

アイラムはロイアードに説明した。 

ロイアード「なる程。でしたら、この王宮内に先に伝えたらどうでしょう。どの様な物か分からない事を急に申し付けても理解するまで時間が掛かると思われます」

アイラム「それもそうか。ソウカン、海外のテレビ局の取材の申し込みがあるなら受けてくれ」

ソウカン「かしこまりました」
アイラム「うん。2人ともご苦労、下がって」ロイアード「はっ」  
ソウカン「かしこまりました」

アイラムは数人を空室に呼びつけ、王宮内に宮内庁という組織の作成をする事、王族には処罰する権利どころか解雇する権利は無い。

暴力を振るわれていた者、強姦されていた者には順次必ず慰謝料を払うと明記した紙に目を通し、自身も納得した上で王宮内のいたる所に貼らせた。  

王宮内に働く者に安心を与え、今まで常に緊張しながら働いていた者達は心の休まる結果となり、アイラムは偉大な王になるのではないかと思い始めた。  

2人の葬儀は執り行われたとの報告を受けた。  
王族籍を抜かれた者への参列者は居らず、ミエノとミエモ、葬儀を担当した者のみの寂しい葬儀だったらしくアイラムは想像してしまい、悪い事をしてしまったと思ってしまった。 

ミエノの呼び出しの報告も受けたのだが、もう王妃でもない唯の女であるが、部屋に足を運んだ。 

たった1日でやつれた王妃にアイラムは驚いた。  
ミエノはアイラムを見ると顔は狂気を孕んで飛び掛かって揉み合いになる。  

「王宮を出るまでは付いていろ」と命を申し付けた女達は急いで引き剥がそうとする。 

ミエノ「お前のせいで愛する息子達が死んだ。お前も苦しみ抜いて死ね!!」と叫び、アイラムを掴んで離そうとはしない。  

この騒ぎに部屋の前に立たせていた女兵士達が部屋に入った。  

アイラム「引き離してくれ!乱暴に扱わなくていい!」

兵「は!! 了解しました!!」  

鍛えている兵士達により、するりと離されて床に座らされたミエノは睨み、怨嗟を撒き散らしていたが、やがて泣き始めた。 

アイラム「もう良いから。離してやって」
兵「はっ!」  

女兵士達はそっと離す。  

大きい泣き声をあげ、亡くなった息子達の名前を呼ぶ。 

この部屋にいる者は同情を感じ、哀れみの雰囲気となった。 

突然にアイラムの脚に縋り付いた。 

ミエノ「お願いアイラム! もう王妃じゃなくても良い! 王宮に居させてえ! 外でなんてどう暮せばいいか知らないの!」  

兵士達は慌てて引き離そうとミエノの身体を身体を掴む。

アイラム「……ミエノさん。今後は自分の財産で暮らす事。もう王族では無いのでちゃんと自分の身分を改める事。それが出来るなら、この部屋で住む事を許可します。ミエモの事は私が責任を持って教育を施します」

ミエノは、表情を明るく変えた。

ミエノ「良い! それで良い!」

アイラム「では、生活に関わる事を教えてくれる者を雇い入れましょう」

ミエノ「おお !ありがとう! ありがとう王子! 貴方は心の優しい子だからきっと許してくれると思っていたわ!」  そこでやっとアイラムの身体を離した。 

アイラム「では失礼します。兵士達も出よう」  
これ以上見ていられない。 

呪い殺すかの様に罵倒しておきながら、縋ってまで見捨てないでくれと泣いて頼むミエノに、心が変調をきたしていると感じた。   

アイラムとしても、ミエノに恨みがある訳では無かった。  

ミエノはアイラムを息子としては愛していなかったが、1人の少年として可愛がっていた。  

確かにミエノは長らくロウアイの妾として長く王宮に住んでいたので何かは誰かが世話していたので母と子のみでは生活出来ない。  

アイラムとしては2人の教育の失敗のけじめとして王宮から退去させたかったのだが、生活が出来ないなら仕方ないと思い、許した。  

髪を引っ張られて頭皮は痛く、服は皺になったし頬は爪で引っ掻かれて散々だが、「息子を死に至らしめた者を見ればこうもするか」と納得して我慢した。 

部屋の前に立たせていた兵士の任を解き、兵士の詰め所に戻る様に命を下し、去った。 

王族籍の女達が住む区画を出てすぐにメイド達に引っ掻き傷を指摘された。 

「妻と痴話喧嘩した」そんな嘘をついて誤魔化した。 

髪は纏まりを欠いて服は皺があるので、そうも見えなくもないが妃は居ない事は誰でも知っている。  

櫛で梳かれて消毒をされたアイラムは執務室に入り、机に着く。  

アイラム「オレンジジュースとお菓子。それからミエノ、ミエモは王宮で暮らす事になったけど王族では無い、唯の一国民だから今までの様な扱いをしなくて良いから。それと、あの2人の家族だからといってイジメや暴力、憎しみをぶつけるのは禁止だと王宮内に広めといて」  
人に指示を下し、程なくして持ってきたオレンジジュースとお菓子を楽しむ。  

違法薬物の製造を停止した報告を受けていると、ローアとローアの父が訪れた。 

ローア「二人共お帰り。家はどう?」

ロ父「はい。やっと家具の搬入も終了して元通りとなりました」

アイラム「良かった。悪い事をしたと気にしていた。で、父君は宮内庁の創立と長官の座を受ける?」

ロ父「ありがたく拝命させていただきます」

アイラム「そう。出来るだけ早く任命式をするか。ローアはどうする?」

ローア「どうすると申しますと?」

アイラム「俺の世話係を続ける結婚出来る暇があるかどうか分からないよ? 結婚したいなら辞めるか?」  

ローアはアイラムの本心は離れたくないと思っている事を知っている。  

「家に泊まりに来てまで離れたくない癖によく言う。一緒に居てほしいなら素直にそう言え」と心の中で思うも、男の子らしいと感じる。  
ローア「結婚なぞ元よりする気はございませんので引き続きお世話させていただきます」

アイラム「そうか。じゃあ俺が死ぬかお前が死ぬまで世話をしてもらう」  

ローアはアイラムによるロイアイとトミアイへの仕打ちは聞いているし、嘔吐して倒れた事も聞いている。  

心配になって一段落してから様子を見に来たのだが、やはりアイラムは何処かおかしく感じる。  

ロ父「いや、娘は嫁がせる気はありませんのでご安心して使ってください」


アイラム「それってあれ? やっぱり娘を取られるのが嫌だから?」  

こうして普段通りにしているが、アイラム自身悲しみや義務感が精神に影響を及ぼしているのに気付いていないのでは無いか。  

視察が終わると父と兄を殺され、逃亡して舞い戻り、仇を討ったのは良いが悲惨な死に方をさせ、義母の心痛を感じる。  

この一連の出来事がアイラムに影響を及ぼさない訳は無いのだが、民の為というスローガンと努力と周囲の環境がアイラムに弱音を吐く事と嘆く暇を与えなかった。 

ロ父「王子なら嫁いでも良いのですが」

アイラム「お互い無理。うるさいし、風呂入ってても平気で中に入ってくるんだから。男として扱ってないからねコイツ」

ローア「13歳なぞ子供ではありませんか。それに、ちゃんと服着て入っているでしょう」

アイラム「風呂の世話なんて要らんから。父上や兄上じゃあるまいし」  

ローアと馬鹿な事を言っていると、呼ばれて法務省の者が来宮した。  

「お呼びでしょうか」

アイラム「うん。収容施設に入れた者のうち、不敬罪の者、食うに困って盗みを働いた者、国への奉仕を拒否した者を即刻解放させてくれ」

「しかし、不敬罪の者はさすがに如何かと思われますが……」

アイラム「不敬罪がどうしたの? 批判を口に出した、王族に見立てた人形や写真で遊んだ叩いた踏んだ火をつけたぐらいで騒ぎにしない様に警察にも言うから」

「まあ、王族の方がそう言うのでしたら……では、局長にそう伝えます」  

その者は少し困り顔で退出した。 

アイラム「では、二人共。任命式まで休んでてくれ」

ローア「私はこのままお世話します」

ロ父「私は王宮内の者達と交流していきます」

アイラム「そう? じゃあ、二人共頼む」  

こうしてローアも王宮に戻った。 

ローア「人が多いですね」

アイラム「壁の修理業者、父上や兄上の私物に家財道具、それにあの2人のも売却するのに査定に来た者や運び出しに連れて来られた者もいるから」

ローア「少し急過ぎるのではありませんか? ちゃんと休息は取られてますか?」

アイラム「取ってる取ってる。ローア、ベッドズタズタにされたから疲れても昼寝させてやれないぞ」

本当に素直でない子だとローアは思う。

ローア「はいはい」  

3日経った昼、拉致被害者とその家族が飛行機に乗って去った。  

見送りと謝罪をしたアイラムは被害者の罵声と恨み節と各国の報道カメラマンとフラッシュで疲れている。  

精神的に疲れたようで王宮に向かう車の中でローアにもたれ掛かった。  

車内にはソウカン宰相と護衛責任者が乗り合わせているのに。 

アイラム「大変だった…っ! 帰ったらお爺様と父上の墓荒らそう」

ソウカン「そんな暇はございません。宮内庁長官の任命式と各国に向けた謝罪会見と亡くなった者の説明が控えています」

アイラム「謝罪は良いんだけど説明がなあ…拷問で死なせたとかお爺様と担当者は馬鹿なんじゃないのか。加減というものを知らないのか。馬鹿か。馬鹿か」  

恨みを持ったアイラムは悪態をつくもローアにもたれ掛かったままである。  

王宮に到着するともう関係者も集まって待機していたので直ぐに始めた。  

各省の長やロイアード元帥、長官の家族に宮内庁に編入される者の代表者達を大広間に集め、形式に則った任命式を終わらせた後、「嫌な事はさっさと済ませれば楽」だとローアからアドバイスを貰ったアイラムは休憩を挟まずに会見を開いた。  

各国へ謝罪し、残った者の名と理由、それに死亡している者の名と死因を説明した。 数々の質問に答えていくアイラムであるが次第に疲れで声も小さく顔色も悪くなっていく。  

質問の中には非難めいた物や王族としての責任を追及する発言さえ合った。 

3時間に及んだ会見の後、アイラムは休憩を挟んだ。  

休憩はソファに座って始まった。  

朝から非難や罵倒される時間の長かったアイラムは茫然としていて、医者が呼ばれる事態になった。 

1時間の呆けから我に返ったアイラムは自分の足で自室に入って新しく購入した慣れないベッドに入った。  

とっくに夕食の時間が過ぎた時間に目覚めたアイラムはスープとジュースという組み合わせの食事か水分補給かよく分からない事を済ませた。  

ローアに帰宅を命じたのだが、頑なに拒むので断念して入浴に入る。  

一人で入らせるには心許ないのでロウアイの入浴の供をしていた女性達に要請した。  

3人にも及ぶ女達との入浴は鬱陶しいとは言わないが素振りは見せる。  

昔から身体を洗われたり何かあった時の為の見張りで供をされるので恥ずかしさはない。  入浴が済むとまた眠気が起きた。  

アイラム「ローア、帰らないならお風呂入ってベッドで寝たら?」

ローア「かしこまりました」  

看護婦に後を任せて、女達が使用する浴場に向かう。  10人程が使用しており、挨拶を受けてアイラムの容態を訊ねられた。  

もう王宮内どころか各省にも伝わっていて、直ちに報告しなければならない事も無いので王宮を訪ねる者は居ない。  

風呂を済ませてアイラムの自室に戻る。 看護婦を下がらせて、ベッドに入った。  
  
アイラムは、ローアが王宮に泊まる時は自分のベッドにローアを入れる。

泊まる場合は女達の集団部屋のベッドで寝る事になり、落ち着けずベッドも硬いだろうという配慮だった。  

「やはりローア様が一番みたいだ」と他の女達は噂しているのを知っているが、アイラムとは伽の相手といっても一緒に寝る程度で、身体を慰める事はアイラムもローアも望んでいないし、ロウアイもそんな命を下していなかった。  
アイラムにもそろそろ夜伽の相手を探してやろうと思っているうちに暗殺されてしまったので実現はされなかった。

ローアを夜伽の相手に選ばなかったのは未婚であったし、あくまでアイラムの世話係兼話し相手としてロウアイも頼まなかった。  

お互い意識していないので何かが起こる事も無く朝を迎える。  

各国は帰国者を指導者クラスが迎え、感動の対面とセレモニーが行われた。  

謝罪と死亡した者についての説明の会見については質問される度に段々と体調が悪くなる少年に同情する声が多く、不透明な部分も無かった為にこれ以上の質問や疑問は無いようで問い合わせは数件程度しか発生しなかった。  

これで各国はアイミエ一族の口座凍結を解除し、それぞれの国に要請した食料支援が始まった。  

一族の海外口座にあった現金と、金貨は現金化して帰国した拉致被害者、死亡した被害者の遺族に多額の賠償金を支払った。  

これで拉致問題は解決となったが、後世まで汚点として語り継がれた。 届いた食料支援は一般市民に公平に分配とホームレスの配給に回り、軍による徴発の禁止もあって食料事情は改善を見せる。  

王宮内の王族による被害に遭った者達に1人1人謝罪し、慰謝料の支払いも済ませる。  

核兵器の所有数は5発を残し、処分する事を決定した。  

各国の関係者を数人に国連の職員を招いて監視の元に処分する日を定めて世界に発信した。  

アイラムは王族の財布は10億エルスと定めたがソウカン宰相と話し合い、各国債や株の所有は認めてもらって王族自身が稼げる様にする。 ただし、現金は10億エルスまでなので配当で上限を超えた分は国に還元を約束した。  

起業するのに資金が不足していて実行できない者にはソウカン宰相の元に届け出を出させ、5000万エルスを無利子・無期限・無催促で貸した。 

これは半年限りの政策とした。  

これにより仕事はあるのに人手が足りない様相になると、軍人の数を削減して民間に戻した。 

国民は仕事があり、強制であった奉仕と処刑が無く、徴発されず、逮捕や拷問も無い暮らしを多いに喜び、アイラムの人気は爆発的に上がって国王の就任を希望する声が増えた。  

アイラム「面倒だから嫌だ。格式張った事をしないとダメなんだろ?」 

国王になる事を待ち望んでいる国民の話しは前から報告を受けていた。  

嫌がるアイラムに、とうとうソウカンとロイアードが揃って国王の座に就く事を願いに来た。 

ロイアード「高々10分くらいではありませんか。後は見物やお祝いに来る民衆に姿を見せて挨拶すれば終わる事です」

アイラム「高々10分だか20分を大勢の前で格式に則らされて言葉遣いと気を遣うのは俺だぞ!? 絶対各国からカメラマンも来るし、緊張するから嫌だ。王冠載っけて終わりで良いと思うんだけどな。な、長官」

ロ父「そういう訳にはいきません。最低でも政府の高官に各省の長官や局長達の前で王となった事を示しませんと。民衆にも同様ですし、嫌な事はさっさと済ませれば楽でございます」

アイラム「あのアドバイスはお前の受け売りだったのかよ!? お陰であの後大変な事になったぞ……」  

宮内庁長官は困った顔で何の事を言っているのか分からない様子である。  

アイラム「それにまだやる事がある。国民が押し寄せて迫るならともかく、声が上がってる程度ではまだだ。ローア、アップルジュースとオレンジジュースが飲みたい」

ローア「持って来させます」  

ソウカンとロイアードは頭を抱えたくなる。  

言葉遣いは普段からちゃんと遣っていれば上手くいくし、緊張するなら緊張すれば良い。  

まさかこの執務室でオレンジジュースとアップルジュースを飲みながら仏頂面した王子に王冠を載せた姿を報道する訳にはいかない。 

アイラム「それに、俺まだ女を知らないのに王なんかになれるか。そんな王が欲しいか? お前達も国民も」
「は……?!」  
ソウカンとロイアードは2人同時にローアを見る。  
ローアは「今まで何をやってたんだ!」と非難する目を向けられて困惑と自分の無実を証明する。 

ローア「ロウアイ国王陛下からその様な命を受けておりませんし、アイラム王子はまだ13、もう少しで14歳の子供ではありませんか!?」

ロイアード「男なんだから充分に出来るわ!」

ロ父「お二方、娘にそんな事はさせませんぞ!」  
いい歳のお偉方3人も揉め始めて執務室は大騒ぎになる。  

オレンジジュースとアップルジュースを運びにきたメイドは驚いて盆を倒しそうになった。 

ソウカン「いっその事知らないまま即位して誰か見繕えば宜しいではないですか」

ロイアード「いっその事ローアを妃として迎えさせれば早いとは思うが?」

ロ父「娘は誰にもやりませんぞ! 生涯私の手許に置きます!」  

母と息子、姉と弟、主と従者という様な間柄だと認識している2人を差し置いて好き勝手にああするこうするだの侃々諤々の話し合いをとしている。 

ソウカンとロイアードがローアを絡め、ローアの父である宮内庁長官が突っ撥ねる。 

ロイアード「いっその事メイドはどうです?」

ソウカン「病気の恐れがありますし、後でうるさくなるやも知れません」

ロ父「では、政府高官の未亡人は?」

ロイアード「となると歳が行き過ぎておりますぞ」

ソウカン「女を知らないまま妃が初めてとなりますと関係が上手くいかないのでは? お互い初めてとなると、伽の最中に指南する者が必要になります」

アイラム「お前達、さっきから黙って聞いてたら好き勝手言いやがって! 放っとけ! まるで恥ずかしい事みたいじゃないか!」

ロイアード「そもそもがロウアイ国王陛下とアイラム王子が悪いのですぞ! 陛下が誰かに頼むか王子が高官の娘でも口説けばこうはなりませんでした!」

アイラム「俺かよ!?なんかすみませんでした!!!」  
ジュースを手に怒る王子を見て「男って何故こんなに馬鹿なのだろう」とローアは思ってしまった。  

謝罪の連続と王族への非難の嵐が過ぎた後は回復したアイラム。

一時期、意思や感情に関係無く頻繁に涙を流す様になり、王宮内や幹部は少し困惑と心配と焦りの雰囲気になっていたので安堵する。  

医者は緊張の面持ちであり、兵士は困惑し、メイド達は慌てていた。  

「もうアイラム王子は限界なのだろう」と皆が噂し、ローアは1日も休まずに常に離れなかった。  

ソウカンでは王子の身代わりは務まらないし、ロイアードは元々何もしてやれない。  

皆が気を揉んでいたのだ。  

回復した今でも食事量は減ったままで、体重も少なく医者は病気と心労を警戒したままである。 

各国マスコミは王子の体調不良を連日で放送し、エルストロウ王国の危機を叫んだ。  

誰も彼もが「アイラム王子の死によって危険な国家に戻るのでは」と固唾を飲んで見守った。  

今やアイラムとエルストロウ王国は世界中の注目の的である。 

「エルストロウ王国アイミエ・アイラム王子。童貞のまま即位」  

そんな事を国内外に知られたくないし報道されたくないとアイラムも思っているが、相手がいないし暇も無い。  

今、国は他国との約束事を果たさなければならないし、国内の事を注視しなければならない。  

3人は記憶から女性を検索し、名前を挙げるが何かと不都合な点があるらしく、纏まる気配が無い。  

アイラム「貴様等、これ以上話しが逸れるなら下がれ」  

アイラムも我慢の限界が近く、父譲りの激しさと母譲りの冷徹さを表す。 

顔は憤怒なのだがオーラは冷酷な印象を受ける。  

執務室は時間が止まったかの様に、歩行を止め、資料の遣り取り、パソコン操作、命令の申し付けを止まらせた。  

3人は姿勢を正し、謝罪する。  

アイラム「疲れるから怒らせるな。その2つの件は保留にせよ。ロイアード、余った兵器はそのまま置いておけ。アメリカ、ロシアから兵器を購入するから、順次入れ替えよう。ソウカン、必要無くなったと見なされた兵器は買い取ってくれる国があれば売れ。買い取りの無い兵器は軍事訓練の的にでもする」

ロイアード「かしこまりました」
アイラム「ロイアードは下がって良い」
ロイアード「はっ失礼しました」  

肝を冷やしながら礼をして下がる。 

アイラム「ソウカン、それと15%の税率がこれからも適正かどうか調べさせろ」
ソウカン「かしこまりました」
アイラム「下がれ」
ソウカン「はい。ではこれにて」  

ソウカンも下らせた。  

アイラム「お前達、中断させて悪かった。もう動いて良いよ」  

そう言われ、執務室の中は動きを再開した。 

歩行した者はどこに行くつもりだったのかを忘れ、資料の遣り取りをしていた者はどの資料を受け、渡すか分からなくなり、命令を下していた者は内容を忘れ、パソコンを操作していた者は何をする気だったか忘れた。  

アイラム「長官。一応は戴冠式の際にどの賓客を招くかを話し合え」

ろ父「かしこまりました。では」  

長官は逃げる様に下がる。  

ローア「王子。確かにお怒りは分かりますが、今後は怒らない様に努めてください」

アイラム「なんで?」

ローア「皆に影響を与え過ぎます。緊張と恐怖を振りまいて、悪くない者まで萎縮させてはなりません」

アイラム「……」

ローア「その様な王になるのですか?」

アイラム「……いや。分かった。今後は怒らない様に努力して我慢するよ」

ローア「お聞き入れ下さり、有難く存じます」

アイラム「……ローア」
ローア「はい」
アイラム「ごめんね」

ローア「謝れるぐらいは反省してもらえて何よりでございます」  

アイラムはローアに言われると弱ってしまう。

世話をしてもらってる相手であるし、半分母親みたいなものなので諫言されると聞かなければならないと思ってしまう。

アイラムはジュースを飲み終わって、ローアを連れて執務室を出た。

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