上 下
1 / 2

水溜り

しおりを挟む
 ポチャン。体が水溜りに沈んでいく。ご主人は少しだけ僕の方を見て、ため息をついて去っていく。
 はぁ、僕が1円玉だから。
 なんで1円に生まれてきたんだろうか。僕ひとりじゃ、うまい棒さえ見向きもしない。きっとご主人も100円だとか500円とかだったらきっと探してくれるのに。
 僕に価値なんて・・・。
「そんなに悲観することはないよ」
「だれ?」
 僕はきょろきょろと見回す。するとすぐ近くに5円玉が沈んでいた。
「君の5枚分の価値でさえ忘れられるんだ。私に比べれば悲しみは少ないだろう」
 なんだか感に触る言い方が腹だたしいが、確かにそうだ。
「いや、それだったら私の方がずっと悲しいさ」
 遠くで10円が言いました。
「うまい棒を振り向かせられるあなたがどうして?」
「最近は消費税というものが上がって私ひとりでは振り向いてもらえないんだ」
 10円は悲しそうに話した。1円はなんだか自分の悩みがバカバカしくなってきた用に思えた。
「元気がない時こそ歌いましょう」
「なぜ歌う?」
「歌が僕らを呼んでいる気がするからです」
「意味が分からない」
 1円は歌い始めました。始めはなんの意味もないとため息ばかりついていた5円と10円でしたが、顔を見合わせて驚きました。身体が泥から舞いあがって飛んでいるからです。
「こりゃあいい、1円、もっと歌おう、いや私も歌おう」
 5円と10円も歌います。
「うーん、こっちから何か聞こえてきたきがするのう」
 通りすがりのおばあちゃんは辺りを見回すと水溜りに浮かぶ5円玉を見つけて拾いました。
「ちょうどいい、神社に行こうと思ってたとこなんだよ」
 おばあちゃんは近くの神社に5円玉を入れると「孫にいいことがありますように」と拝みました。5円は残った二人にいいことがあるように拝みました。

 ポチャン。また仲間が増えた。ビンのふたのようなものが落ちてきた。価値は私たちよりもないだろうが私たちは元気に暮らそうと思っていたのでビンのふたの近くに寄っていきました。
 するとどうでしょう。ビンのふたは拾い上げられ、一緒に1円玉と10円だからが付いてきたではありませんか。
 男の子は喜んで近くのコンビニでうまい棒と交換しました。男の子はその出来事を神社帰りのおばあちゃんに話したとのことです。
しおりを挟む

処理中です...