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第1話 憧憬

再会 Episode:12

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 ◇Caleana

 かなり長く続いてるうちには、ひとつの言い伝えがある。
 そしてそれは……あの子と関係があった。

 ただの言い伝え。自分でも、そう思うのだけれど。
 でもどうしても引っかかった。それも今になって。

 あの話には、後日談があると言われてる。

 でも、そう言われているだけだった。
 内容は家に伝えられてる物のどれを見ても、きれいに消されている。

 誰が何の意図で消したのかは、分からない。
 けど徹底してるとこから見ても、その内容を伝えたくなかったのは分かる。

 それが果たしてあの子を守るものなのか、それとも破滅へ追い込むものなのか、それも分からない。
 そんなものをなんで、いま急に気にするのか。自分でも理解できやしない。
 だいいち内容もわからないっていうのに。

 なのに……何かがそうしろと、頭の奥から告げてた。
 今起こっていることは、その消された後日談と関係があるのだと。
 そしてうちの子とこの目の前の少年とは、一緒にいたほうがいいのだ、と。
 だから、この子に言う。

「あの子のこと――頼むわね?」


 ◇Imad

「すごい、ここが……シエラ学院?」

 船に揺られながら、ルーフェイアのヤツが呆然と見上げた。
 行く先の島は濃い緑で覆われて、その間からそびえる尖塔が見える。
 MeSっていう先入観とは、かけ離れてるってやつだ。

 MeSってのはMercenary Schoolの略、要は傭兵学校で、世界中に乱立してる。
 ってのもここの出身は、兵役につかなくて済むからだ。

 だいたいどこも午前中は勉強して、午後から訓練だのなんだのやって、何年間か過ごす。
 で、卒業するころには「一通り終わった」ってみなされる寸法だ。
 
 まぁイザとなれば呼び出し食らうけど、それさえなけりゃふつうに暮らしてける。
 だから金持ちの親が大枚詰んで、こぞって子供たちを入学させてた。

 んでその中でもシエラ学院は、いちばん古くていちばん有名なとこだった。
 あとその成り立ちの関係で、親に見離されたり死別した子を、数多く受け入れてることでも有名だ。

「けっこう、大っきいだろ?」
「うん」

 なんたって、小さいたって島が丸ごとだ。
 つか実地訓練用の場所まで入れたら、このチビ群島全部が学校だった。

 俺らあのあと、アヴァンから海越えてユリアス国入って、そのあと列車乗り継いで、シエラ本校のあるケンディクまで来た。
 ただそこでいろいろ手続きだのあるってことで、ルーフェイアのヤツがシエラのケンディク分校でちっと足止め。

 んで今日になって、本校に行く書類が揃った。
 それを迎えに来たとこだ。

 つか学院長、本気でこいつのおふくろさんの知り合いだったらしい。

 ホントなら親アリは審査で何ヶ月とか待たされるし、春までは分校生やるのが決まりだ。
 なのにこいつよっぽどなのか、速攻って言っていい速さで、分校飛び越えて本校への入学許可出てたりする。
 たぶんあの複雑な事情を話したんだろけど、それが言えるってことは、かなり仲がいいんだろう。

 逆に考えると、最初っからここ来てりゃさっくり入学できたわけで、その意味じゃルーフェイアのヤツはかなり運がない。
 まぁ、いまさらだけど。

「この本島に、寮と校舎あってさ。実地訓練なんかは別の島でやるんだぜ」
「そうなんだ……」

 その間にも船は進んで、船着場に着く。
 狭い場所に高速艇まで停泊させてるから、間縫って接岸するのが大変だ。
 綱が渡されて、船がしっかり繋がれる。

「気をつけろよ、時々落っこちるバカいっから」
「うん……」

 揺れる足元を確かめながら、桟橋へと飛び降りる。
 切り立った崖の間の、坂道を登ってくと、いつもみてぇに視界が開けた。

「きれい……」

 ルーフェイアが声をあげる。

 石造りなのに微妙な曲線が多い建物と、上手く配置された五つの塔。
 周りの木とか草花も専門の庭師――半分ボランティアのじっちゃんばっちゃん夫妻だ――がきっちり手入れしてるから、絵に描いたみたいな調和ぶりだ。

 じっさいけっこう評価も高いらしくて、年に何回か、庭の一般解放までされてる。

「……なんか、夢みたい」

 ルーフェイアのヤツが立ち止まった。

「でも、夢じゃない……よね? あたし、ここに行けるんだよね……?」

 不安げな表情で、こっちへ振り向く。

「夢なわけねぇって。
 ――おい、頼むからここで泣くんじゃねぇぞ。おれが泣かしたと思われるかんな」
「だいじょぶ……」


 ――そしてこの後二人は、この学院で十年の歳月を重ねることになる。



◇あとがき◇
 お読みくださり、ありがとうございます!
 第1話の「憧憬」はここで完結し、次からは新章になります
 今後もよろしくお願いします

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