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第2話 抱えきれぬ想い

学院 Episode:03

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 内戦の時代は終わったものの、各地で凶暴な竜族その他が暴れているのは相変わらずだったし、内戦に代わって国家間の小競り合いが始まったこともあって、傭兵を育てて売り出すという目論見は大当たりだったそうだ。

 もちろん賛否両論だったけど、当時はまともな孤児院さえ少なかった。
 まして孤児がきちんとした教育を受けられる場所など他になく、文字通りシエラは孤児たちの、最後の頼みの綱になったのだという。

 今は学院の分校がケンディクや首都のイグニールはもちろん、アヴァン国なんかにもあるし、金持ちのための「箔付け専用」分校まであるらしい。

「この本島に、寮と校舎あってさ。実地訓練なんかは別の島でやるんだぜ」
「そうなんだ……」

 いちばん古いMeSというからには、それなりだろうとは思っていたけど、予想以上に本格的らしい。

 その間にも船はすべるように海を進んで、船着場へ着いた。
 意外と大きくて、幾つか高速艇まで停泊してる。

「気をつけろよ、時々落っこちるバカいっから」
「うん……」

 揺れる足元に気をつけながら船を降りて、歩き出した。
 切り立った崖の間の、坂道を登っていく。
 だんだん視界が開けてくる。

「きれい……」

 曲線がいろどる、滑らかな肌の建物。東西南北と中央、合わせて五つの尖塔。
 手前の庭や周りの木々もきれいに手入れがされていて、緑の間に花が咲いている。
 石畳の道と、あちこちに置かれたベンチ。
 あたしと同じくらいの子や、もっと上の人なんかがたくさんいて、すごく賑やかだった。

「……なんか、夢みたい」

 ほんの何日か前まであたしがいた世界と、まったく雰囲気が違う。

「でも、夢じゃない……よね? あたし、ここに行けるんだよね……?」

 なんだか不安になって、イマドの方へ振り向いた。

「夢なわけねぇって。
 ――おい、頼むからここで泣くんじゃねぇぞ。おれが泣かしたと思われるかんな」
「だいじょぶ……」

 イマド、けっこう言うことがひどい。
 そのまま歩いて、彼は玄関のところで受付の人に話しかけた。

「すいません、こいつ、ルーフェイア=グレイスって言うんですけど。連絡来てますか?」
「おかえり、イマド。今年はいつもより、早く帰ってきたんだね」

 言いながら受付のおじさんが、何か紙をめくる。

「ルーフェイア……ああ、この子だね。
 ちゃんと聞いてるよ。このまま真っ直ぐ、学院長室へ行きなさい」

 予想と違って、あっさり通してもらえた。
 分校からきちんと、連絡が来てたらしい。

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