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第5話 表と裏

遭遇 Episode:08

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(何をする気なのやら)

 思うのとほぼ同時に、指が動いて検索をかける。しかし引っかかってこない。
 だが幸い追跡させておいた方から、場所を特定ができた。

「これは……!」

 普段はどんなときでも冷静なタシュアだが、さすがに驚愕の色を隠しきれなかった。
 打ちこまれたのは世界中の軍関係者が、熱望してやまないものだったのだ。

(シュマー……彼女はあの、シュマーの関係者だったのですか)

 その筋では伝説にもなっている、シュマー家。

 代々傭兵をし、子弟を戦場で育てるという曰くつきの家系だ。
 それ以外にも数々の兵器や武器防具を開発している等、噂は尽きない。

 だが裏の存在ということもあり、実態はようとして知れなかった。
 その内部通信網が、目の前にある。

(まさか、こんなところでお目にかかれるとは)

 だが、そこに若干の気のゆるみがあったらしい。
 その相手――どう考えてもルーフェイア――が、入らずに移動した。

(おや、追跡しているのがばれましたか? まぁ、場所はわかりましたから、かまいませんか。
 お礼に少し、遊んで差し上げましょうかね)

 場所さえわかっていれば、いつでも解析や傍受等は可能だ。
 タシュアの腕なら、もう入りこんだも同然と言えた。

 いったんシュマーのほうは諦め、追跡にかかる。

 例の相手は、転々と場所を移していた。だが、その速さはけして抜きんでたものではない。
 なにより、このように追われるのはおそらく初めてなのだろう。痕跡を慌てて消しているのが見て取れた。
 行動もまだ単純で、簡単に先が読める。

(ここからですと……なるほど、あそこのルートを使いますか)

 次に使うルートを予測したタシュアは、追跡の手をいったんゆるめ、行き先に罠を張る。
 案の定、相手はその網にかかった。

(まぁ、こんなところですかね? なにより収穫がありましたし)

 ものはついでと、おそらく震え上がっているかの少女の端末に、メッセージを送りつける。
 普通なら危険な方法だが、あの程度の腕ではとてもここまでは、逆探知できないはずだ。

 そこまでしておいて、タシュアはあらためてシュマーの内部へ入りこむべく、本格的なアクセスを開始した。
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