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第5話 表と裏

恐慌 Episode:05

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「シルファ、先ほどの噂は本当なのですか?」
「聞いた話だから……どうかしたのか?」

 そう尋ねたシルファだが、タシュアが答えるより早く意味を知ったようだ。
 埠頭のところにいる金髪の少女は、どうみてもあのルーフェイアだった。

「嘘だったのか」
「単純に回復しただけかもしれませんよ。おや、気づいたようですね?」

 少女が振り返りながら、立ちあがる。

「またお会いしましたね」

 何気なく――タシュアにとって先日の出来事は日常風景の一つでしかない――言ったのだが、少女の表情にあきらかな怯えが走った。

「い、いや……」

 様子がおかしい。

「タシュア、なにか変じゃないか?」
「そうですね。――ルーフェイア?」

 さすがのタシュアも声のトーンを小さい子に話しかけるような、そういうものに変える。
 だが少女は、さらに怯えただけだった。

「いや……来ないで……」

 わずかにあとずさる。
 どうみても、普通の精神状態とは思えなかった。このまま放っておくのは危険だと判断して、タシュアは少女に近づく。

「ルーフェイア、どうかしたのですか?」

 普段のタシュアからは考えられないほど、穏やかな調子の声だったのだが、少女の反応はあまりにも唐突だった。

「いやぁっ!!」

 叫ぶといきなり、踵を返して駆け出す。
 だが、その先に足場はない。
 華奢な少女の身体は宙に投げ出され――水面へと落ちた。


◇Rufeir

 立ちあがって振りかえった先、あたしの視線が捉えたのは――タシュア先輩。
 とたんに恐怖に襲われる。

「またお会いしましたね」

 あの、冷たい声。

 ――怖い。

「ルーフェイア?」

 ――来ないで。

 先輩の声に、思わずあとずさる。

「ルーフェイア、どうかしたのですか?」

 先輩が近づく。

「いやぁっ!!」

 思わず逃げ出した。
 後ろへ。

「あ……」

 いきなり足元が途切れる。
 身体が宙に浮いた。

 ――落ちる?

 次の瞬間、あたしの身体は海中に沈んでいた。
 水底から見上げる水面が、奇妙なくらい綺麗だ。

 ――そうか、これで死ぬんだ。

 不思議なくらい冷静だった。

 でも考えてみれば、今までだって、生きてこれたのが不思議なくらいだ。だからいつ終わったって、おかしくない。
 それが今だってだけなんだろう。

 息が詰まる。
 そこで、あたしの意識は途絶えた。
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