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第8話 言葉ではなく

知らせ Episode:10

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「悪りぃ、待たせた」
「ううん、あたしも……いま来たとこ」

 翌朝、船着場で待ってると、時間ピッタリにイマドが来た。

 時間が早いから、まだ人は少ない。
 吐く息が白い中、任務らしい先輩が二人居るだけだ。

 ――シーモアたち、大丈夫だろうか?

 助けた子供たちの話から、シーモアたちが向かったのは、昔いたベルデナードのスラムで間違いないのが分かった。
 しかもよく聞いてみると、これから大規模な「祭り」――つまりは抗争があるという。

 とんでもない話だだった。

 あたしも実際に見たわけじゃないけど、シュマーには世界各地のスラムから、一族へ加わった人も多い。
 そんな彼らから伝え聞いた話だと、それこそ殺るか殺られるかだっていう。

 それを承知で、シーモアたちはスラムへ向かったらしかった。
 だとすれば、早くしないと二度と会えないかもしれない。

 気が気じゃなかった。

 あたしが育った戦場では、人が死ぬのは当たり前のことだった。
 ついさっきまで一緒に話をしていたはずの人が、一瞬にして骸となる。そういう世界だった。

 だから……いつも怖かった。今日は誰がいなくなるのかと。

 やっとそう思わなくなったのは、学院へ来てからだ。
 もちろん父さんや母さんには、その危険がいまもあるけれど、少なくとも友達や先輩にはそういうことはない。

 ――それなのに。

 これ以上誰かがいなくなるのは、絶対に嫌だ。

「さっさと行こうぜ。乗り遅れるわけにゃいかないからな」
「そうだね」

 学院の方にはさすがに本当のことは言えなくて、あたしはアヴァンの親戚宅――実際にそこにあるのはシュマーの施設――へ、イマドはアヴァンの叔父さんの家へ行くと告げてあった。

 少し気が咎めるけど、「ベルデナードのスラムへ行って、抗争に加わります」なんて言ったら、絶対に出かける許可はもらえない。

 もっとも一度学院の外へ出てしまえばあとはノーチェックだし、中には「私用」と言って強引に許可をもらう先輩――タシュア先輩かも――もいるというから、ルーズといえばルーズだ。

 ともかく学院側には内緒にしたまま、どうにかあたしたちは外へ出る許可がもらえた。

 ただこれは、ムアカ先生のおかげもかなりある。

 いつどこでどう話を訊いて気付いたのか分からないけれど、先生にはあっという間に、あたしたちのしようとしていることを見抜かれてしまった。
 なのに先生、そのまま黙って自分の名前で、許可を出してくれたのだ。

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