上 下
307 / 743
第8話 言葉ではなく

団欒 Episode:09

しおりを挟む

 抗争を控えたチームのトップなら、自分だけじゃなくて、家族まで巻き込まれる可能性がある。
 だから見知らぬあたしたちがあがりこんでるのを見て、とっさにあんなことになってしまったんだろう。

「すみません。そんなこと知らずに、上がりこんだりして……すぐ帰りますから」

「え? あ、いや、もう今更だからかまわねぇよ。
 ほら、座んな」

 帰りかけたあたしを、お兄さんが引き止めてくれた。

「すみません……」
「気にすんなって。こっちも濡れ衣着せたしな」
「あ!」

 お兄さんが言った『濡れ衣』で思い出す。

「ゼロールさん、さっきの話……」
「ああ、そうだったな」

 そういえば、と言う調子でゼロールさんが顔をあげた。

 ――まさかとは思うけど、忘れてたんだろうか?

「ダグくん、これは何度か君のところを訪ねたのと、関係あるんだが……」

 一瞬覚えてないんじゃないかと不安になったけど、ゼロールさんは無事話し出す。

「どうも今回の子供殺しの件、裏がありそうな気がするんだ」
「ハッ。言うに事欠いてそれとはな。

 ウラもなにも、あいつの傍には連中が使ってるナイフが落ちてた。それに見てたやつだっているんだぜ?」

「その目撃者が誰かは知らないが……本当に見たのかい?」

 ゼロールさんの言葉に、思わずイマドと顔を見合わせる。

「――どういう意味だよ」

 お兄さんも同じことを思ったみたいで、鋭い声で訊き返した。

「例えば、なんだがね。
 その目撃者が、嘘を言ってたとしたら?」

「嘘……?」

 みんなの困惑を無視して、ゼロールさんが続ける。

「たまたま現場近くで寝てたっていう、ホームレスから俺が聞き出したのじゃ、君のところの子供を殺ったのは、中年の男なんだそうだ。
 ただ報復が怖くて、人には言えなかった――そう言ってたよ」

「信じらんねぇな」

 ダグさんが一蹴した。
 確かに「聞いた」という以外になんの証拠も無いから、そう言われても仕方がないだろう。

 ――けど、いったいどれが本当なんだろう?

 シーモアたちは、『縄張り争いの腹いせに殺された』と言った。

 だけど疑われてるダグさんの方も、誰か子供が殺されてるらしい。
 そしてシーモアたちの仲間がやったと思っている。

 しかもゼロールさんは、ぜんぜん関係ない第三者がやったと言っていて……。

しおりを挟む

処理中です...