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第8話 言葉ではなく
団欒 Episode:09
しおりを挟む抗争を控えたチームのトップなら、自分だけじゃなくて、家族まで巻き込まれる可能性がある。
だから見知らぬあたしたちがあがりこんでるのを見て、とっさにあんなことになってしまったんだろう。
「すみません。そんなこと知らずに、上がりこんだりして……すぐ帰りますから」
「え? あ、いや、もう今更だからかまわねぇよ。
ほら、座んな」
帰りかけたあたしを、お兄さんが引き止めてくれた。
「すみません……」
「気にすんなって。こっちも濡れ衣着せたしな」
「あ!」
お兄さんが言った『濡れ衣』で思い出す。
「ゼロールさん、さっきの話……」
「ああ、そうだったな」
そういえば、と言う調子でゼロールさんが顔をあげた。
――まさかとは思うけど、忘れてたんだろうか?
「ダグくん、これは何度か君のところを訪ねたのと、関係あるんだが……」
一瞬覚えてないんじゃないかと不安になったけど、ゼロールさんは無事話し出す。
「どうも今回の子供殺しの件、裏がありそうな気がするんだ」
「ハッ。言うに事欠いてそれとはな。
ウラもなにも、あいつの傍には連中が使ってるナイフが落ちてた。それに見てたやつだっているんだぜ?」
「その目撃者が誰かは知らないが……本当に見たのかい?」
ゼロールさんの言葉に、思わずイマドと顔を見合わせる。
「――どういう意味だよ」
お兄さんも同じことを思ったみたいで、鋭い声で訊き返した。
「例えば、なんだがね。
その目撃者が、嘘を言ってたとしたら?」
「嘘……?」
みんなの困惑を無視して、ゼロールさんが続ける。
「たまたま現場近くで寝てたっていう、ホームレスから俺が聞き出したのじゃ、君のところの子供を殺ったのは、中年の男なんだそうだ。
ただ報復が怖くて、人には言えなかった――そう言ってたよ」
「信じらんねぇな」
ダグさんが一蹴した。
確かに「聞いた」という以外になんの証拠も無いから、そう言われても仕方がないだろう。
――けど、いったいどれが本当なんだろう?
シーモアたちは、『縄張り争いの腹いせに殺された』と言った。
だけど疑われてるダグさんの方も、誰か子供が殺されてるらしい。
そしてシーモアたちの仲間がやったと思っている。
しかもゼロールさんは、ぜんぜん関係ない第三者がやったと言っていて……。
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