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第8話 言葉ではなく

交渉 Episode:04

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「間違いないです」

 でもそれをものともせず、イマドはきっぱりと答えた。

「俺ら、あの時ダグさんと一緒でしたし、その襲ってきた連中はどう見たって中年でしたから。
 あと詳しいことは、ゼロールさんがそこそこ知ってると思いますけど」

「そう言われても、俺のほうも証拠はないんだが……」

 どうやったら上手く信じてもらえるか考えている調子で、ゼロールさんもさっきの、『ホームレスの人が別の犯人を見た』という話を繰り返す。

「別に偏見を言うつもりはないが、ホームレスのオヤジさんが小銭欲しさにでっち上げたって可能性も、否定は出来ない。
 ただあの怯えぶりからすると、多分本当じゃないかと思うんだ」

「だったらその話で、こっちの濡れ衣は晴れたことになる。それとウィンの件に関しては、向こうが関係ないのを認める。
 ただそれ以前のことに関しちゃ、向こうがやったってのは否定出来ないな」

 これだけの話をきいてもガルシィさんは冷静だった。

「向こうがやってないのを証明できなければ、こっちとしては許すわけにはいかない」
「そんな……」

 ここではよく言う「疑わしきは罰せず」という原則が、通用しないのだとあたしは気付いた。

 でも……。
 本当にどちらも相手チームの子供を殺していないのなら、抗争はやるだけ無意味だ。

「ほんの二、三日でいい。祭りの延期は出来ないか?」
「こっちとしてはする気はない。ただ、向こうの出方次第では考えてもいい」

 ゼロールさんの懇願に、ガルシィさんが冷徹に言い放つ。

 ともかく歩み寄る気配はなかった。
 どうやったら上手くいくのか、必死に考える。

 ――そうだ。

「あの、ガルシィさん……。ダグさんと会っていただけませんか?」
「冗談を言うな」
「ルーフェイア、そいつはムチャってもんさ」
「もう、ルーフェイアったらおめでたいなぁ」

 もし直接話が出来れば、なにか変えられるかもしれない。そう思って言った言葉に、ガルシィさんどころかシーモアやナティエスまでが反対した。

「でも、会ってみれば……」
「会ってどうなる」

 にべもない返事。
 自分に力がないのが、悲しくてたまらなかった。

「でも、でも、殺し合いなんて……」

 そんなの、いらない。
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