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第9話 至高の日常

遊戯 Episode:02

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 タシュアと同じでこの子も、丸腰というのは落ちつかないらしい。
 しかも太刀はタシュアの両手剣に比べて携帯が楽だから、学院外でもたいていどうにかして持ち歩いている。

 そうやっているうちに、市が立っている広場へさしかかった。

「人が……ずいぶん多いな」
「陽気がいいですからね。それにけっこう、観光客もいるようですし」
「確かに……」

 言われてみれば、ツアーらしい集団も時々見受けられた。

 と、不意に前を歩いていたルーフェイアが立ち止まる。
 イマドが気軽な調子で振り向いた。

「どした?」

 私とタシュアもこの子の傍へと行く。

「何か……あったのか?」
「いえ……」

 ルーフェイアの言葉は歯切れが悪かった。

「はっきり言いなさい。言わずにわかってもらおうなど、虫が良すぎますよ」

 だが珍しくタシュアのきつい言葉にも泣かず、ただこの子は首を振る。

「なんだ、自分でもわかんねぇのか?」
「――うん」
「では、気のせいだったのでしょう」

 あっさりとタシュアが切り捨てて、おしまいになった。
 ただ例によって、彼は一言付け加える。

「だいいち、この世の中にあなたを気にする人が、そうそういるとも思えませんしね」
「ごめんなさい……」

 また冗談?を間に受けて、この子がうつむいた。

 ――朝から何度目だろうか?

 普通とは違う意味で、タシュアとルーフェイアは相性が良すぎる。

「ほら、泣いてっと置いてっちまうぞ?」
「や、やだっ!」

 イマドの言葉に驚いたのだろう、この子が泣くのを止めて慌てて走り寄った。

「ば~か、ウソだって」
「もう!」

 それにしてもイマドも、案外意地が悪いような……。

「ほら、怒るなって。向こう着いたら、めずらしいチョコでも買ってやっから」
「……♪」

 さすが保護者を買って?出るだけあって、対応が見事だ。ルーフェイアが嬉しそうな表情になる。

「チョコレートひとつで釣られますか」
「………」

 こっちも対応が見事だ。
 今嬉しそうにしていたこの子が、たちまち悲しそうな表情に変わる。

 それにしても大人しいなりに表情がくるくると変わるルーフェイアは、見ていて飽きなかった。

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