上 下
477 / 743
第9話 至高の日常

急転 Episode:04

しおりを挟む
 でも全館避難の指示が出ているところをみると、爆破予告がいちばんありそうだった。

 ――信じられないけど。

 なにしろこのケンディクは、独立の時でさえ激しい戦闘がなかったほど平和な国だ。
 海の向こうのロデスティオ大陸は紛争やテロ事件が絶えないけど、この国でそんな話は――。

 そして、気づいた。

「まさか、テロ……?!」

 どうやっても信じられないけど、ことこういう事では「信じられないこと」がいちばんよくある。

 あたしは病院の建物を見上げた。

 もし本当にテロなら、どこかの病棟かフロアが占拠されて閉鎖されたはずだ。
 けど現場によくある話で、情報が手に入らない。

 かといって、ここを離れる気にはならなかった。
 何か――嫌な予感がする。

 仕方なく目立たないようにしてその辺りに立っていると、しばらくしてどこかの通信社が報道を始めた。

『え~、現場です。
 ここ、ケンディク西総合病院がテロリストに占拠されたとの第一報があってから、二十分弱が過ぎました。
 現在こちらでは――』

 ――やっぱり。

 どうしてこのケンディクでこんな話になったのかは分からないけど、嫌な予感は当たっていた。

 もう一度建物を見上げる。

 ――イマドと先輩たち、どうしただろう?

 みんな学院生だし、もう外へ出て来てるとは思うけど……。
 報道はまだ続いていた。

『犯人グループは占拠したフロア以外から全員退去するよう命令しており、従わない場合は病院を爆破すると宣言しています。
 そのため現在こちらでは、閉鎖された7階以外のフロアからの避難が続いて――』

「なっ、7階?!」

 血の気が引くのがわかった。7階は――みんながいた場所だ。
 もう何も考える間もなく、病院の入り口へと向かう。

「こらっ、キミ、入っちゃダメだっ!」

 入ろうとしたあたしを、警官が止めた。

「でも、中に、友だちが――!!」
「気持ちは分かるが、ダメだ。ここは私たちに任せて、向こうへ行きなさい」
「けどっ!」

 どうにも埒があかない。
 気が焦る。

 中には、イマドが――!


しおりを挟む

処理中です...