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第9話 至高の日常

策謀 Episode:11

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「ほんと、学院ってのは凄いとこね。
 部屋は――まず3号室、それに7号と8号、あと12号室が空いてるわよ」

 さすが主任なだけあって、即答だ。

「その4つとなると、3号室しかありませんかね」

 こっちも即決する。

「どうして?」
「他は全て外に向いていますが、三号室は中庭に面しています」
「――?」

 まだよく分かんねぇらしい主任に、今度はシルファ先輩が追加の説明をした。

「犯人の注意は、だいたい外側へ向く。だから中庭のほうは、比較的見つかりにくいんだ」
「あ、なるほど……」

 やっとこの人が納得する。

「見つからないようにしないと、意味がないわけよね」
「そういうことです」

 さらにタシュア先輩が指示を出した。

「もしできるようでしたら、3号室の窓を開けてカーテンだけにしておいてください。そのほうが潜入の際に、リスクが減ります」

「いいわ。それで、その子が来たらどうすればいいの?」

 少し先輩が考え込む。
 どうもありそうな状況をシミュレーションしてるらしい。

「そうですね――騒ぎが起こった場合にのみ、危険のない範囲で様子を見に行ってください。
 それともうひとつ、騒動が収まったあとに部屋の片付けをお願いします」

 主任が憮然とした。

「それは、言われなくてもやるわよ」

 プロ意識とやらが、傷ついたんだろな。

 ――もっともこの先輩、んなの意に介さねぇ性格だけど。

 今も平気?で説明続けてるし。

「そうではありません。
 彼女が潜入の際に、何かを持ってくる可能性があります。ですからその後部屋へ行って、もし見つかれば確保しておいて頂きたいのです」

 主任が首をかしげる。

「――なんかよく分からないけど、それも分かったわ。
 それでもう話はない? あんまり一つの病室に、長居するわけにはいかないのよ」

 時計を気にしながら、この人が訊いてきた。

「ええ、今のところはもうありません。
 それから潜入の件ですが、他言無用に願います」

「わかった。師長だけにするわ」
「そうしてください」

 その言葉にうなずいて、主任が部屋を出てく。

「――それにしても、ルーフェイアも思い切ったことをするな」
「まぁ、あいつですから」

 シルファ先輩の言葉に、俺は答えた。

 ルーフェイアのやつは確かに大人しくて繊細だけど、反面とんでもないことを平気でやらかすことがある。
 ただ、そうなる条件はひとつだ。

 ――それがいいとこなんだけどな。
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