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第9話 至高の日常

開始 Episode:09

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「意外に、豪快なことをするな……」
「イザやるとなると、あいつけっこームチャしますって」
「確かにそうだが、それにしても、もう少し……」

 廊下では当然のことだが、不審者を咎めるテロリストの声が上がっている。

「誰だっ!」

 だが驚いたことにそれを、別の声が遮った。

「待って! 病室はあたしが行くわ」

 例の主任看護士だ。

 その後しばらくやり取りがあって、ルーフェイアはどうやら思惑通りに連れていかれたようだった。
 太刀の方も、なんとか持っていけたらしい。

(しかし、無計画といいますか)

 この状況で堂々と太刀を持っていこうというのだから、ある意味たいしたものだ。

 その一方であの少女は、他人が自分をどう見ているか意外によく把握している。
 普通はあの華奢な身体で猛然と太刀を振るうなど、想像も出来ない。

(人を見かけで判断すると、ロクなことにならないのですがね)

 そのツケは後ほど、犯人たち自身が支払う羽目になるだろう。

 その後もしばらく、病棟内はざわついていた。

 どうも中へ入ったルーフェイアが、またひと騒動起こしているようだ。
 看護士たちの動きが激しくなる。

「今度は、何が……始まったんだ?」
「なんか、ミルクっつってるみたいですよ?」

 同じ言葉をタシュアの耳も捉えていた。
 他にも切れ切れに聞こえる単語を合わせると、「子供たちにミルクと食べ物」と言うことらしい。

「連中、チビらの面倒、見る気になったっんですかね?」

「テロリストの態度が変わったと言うよりは、ルーフェイアの要求が通ったのでしょう。
 ここまで来て、彼らが態度を変えるとも思えませんから」

 他人のこととなると向こう見ずなルーフェイアだ。
 中へ入った途端に自分の身のことなど忘れて、要求を出したに違いない。

 そのうち例の主任看護士が、この部屋へも来た。

「ごめんね、食べる物持ってる?」

 タシュアがうなずく。

「一応、あります。
 ――この話は、ルーフェイアの要求ですか?」

「え?」

 訊かれた主任が怪訝そうな表情になった。この辺りのことは、さすがに知らないらしい。
 そもそも犯人側も、こういうことはあまり告げないだろう。
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