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第9話 至高の日常

開始 Episode:12

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「ですが大人と違って、子供は容易にパニックに陥ります。そうなれば、しなくて済む怪我をする子が出るでしょう」

 ましてやあの倉庫は狭い。
 万一子供たちが暴れでもすれば、いくらルーフェイアでも犯人に近づけない恐れさえある。

「気は進まないでしょうが、誰か責任者に話をして、ミルクに睡眠薬を混ぜてください」
「――わかった、話してみるわ」

 どうやら主任が納得した。

「そうするとあの子を除いて……入院してる子14人と大人3人だから、17人分でいいのね?」
「いえ、全部で18人分お願いします」
「え?」

 主任の混乱したような表情を無視して、タシュアは説明を続けた。

「グラスのデザインを変えて、3つに大人用の薬を。子供たちの分は1つだけデザイン違いを用意して、それにだけ薬を入れないようにしてください。
――可能ですか?」

「それは出来るけど……でもほら、金髪のあの子が間違えて飲んだら大変よ。
 1つ少ないほうが、いいと思うんだけど」

 もっともな質問を、主任が問う。
 だが相手はルーフェイアだ。

「ヘタに数が合わないと、かえって犯人の不審を招きます。それにグラスのデザインを分ければ、彼女はすぐ気が付くでしょう」

 なによりシュマーの総領家だ。うっかり飲んだとしても効かないだろう。

「――可愛いのに、凄い子ね」

 普通の人ならば大抵が抱く感想を、この主任も漏らした。確かにルーフェイアは、外見だけなら華奢で儚げな少女だ。

――もっとも学院生は、そういう者が多いが。

 タシュアやシルファ、イマド、また他の学院生も皆、ひと目で「戦闘要員」と分かることは、まずない。

「いずれにせよ、その方向で話を進めて下さい。
 何か問題が生じた場合は、連絡して頂ければ出来る範囲で対処します」

「わかった、そうするわ」

 主任が身を翻し、後ろ向きに手を振って病室を出て行きかける。
 その背へタシュアは訊いた。

「何か忘れてはいませんか?」
「あ、忘れてたわ」

 答えながら彼女が、なにやら畳んだ布を差し出す。

「はいこれ。例の部屋の床頭台に、置いてあったわ」

 出されたのは、どう見てもただの布だ。ただ、中に何かが挟まっているようだった。

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