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第10話 空(うつほ)なる真実

アヴァンにて Episode:06

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「行こう」

 ルーフェイアを連れて、目の前の海岸へと出る。

 アヴァンの街は大陸の東端だが、大きな湾沿いの、かなりの範囲に広がっている。

 ちなみに湾の西側から大陸方面にかけては、旧市街とでも言うべき古い町並みで、王城があるのもここだ。
 以前ルーフェイアを連れて任務で行ったのも、その西側の地域だった。

 逆に東側は港湾都市かつリゾート地として有名で、いちばん東は弧を描いて突き出した、砂浜を抱える岬になっている。
 今いるのがまさに、その辺りだ。

 だからここからは、西側にも広がる海と、その向こうに連なる大陸の山々がよく見えた。

 その遠い山に、陽が沈もうとしている。

 緩やかに燃える太陽。
 空に流れる、澄んだ薄紅色の雲。
 陽を浴びて、金色にまたたく海。

「きれい……」
「そうだな」

 2人で魅入る。

 橙色から朱色へ、朱色から金赤へ、そして緋、紅、赤、茜……。
 最後に夕焼けを残して、陽は彼方へ沈んだ。

「……行くか」
「はい」

 暗くなり始めた夕暮れの町に、あちこちの窓や街灯の明かりが浮かび上った。
 だんだん気温が下がってくる。

 心配になって、薄着のルーフェイアに声をかけた。

「寒くないか?」
「だいじょぶです」

 確かに見た限り寒そうなところはないが、それでも心配だった。
 夜風にあたって、風邪でもひいたら可哀想だ。

「ルーフェイア、その……良かったら、服を少し買わないか?」
「え、でも……」

 視線を落として、ルーフェイアが困ったような顔をする。

 だがこんな格好でこの子がいるのは、元はと言えば私の責任だ。
 幸い自分の服代や、今日の宿泊代が浮いたおかげでお金もあるし、何かしてやりたかった。

「それだけだと、困るだろう? お金は私が出す」
「あの、でも……自分で買うつもり、だったので……」

 はっとする。

 この子は最初から、持ち物が足りないのは承知していたのだ。
 それでも私の様子から、最低限のものだけ持って飛び出したのだろう。

「――本当に、すまなかった。無理に連れ出して」

 普通に考えれば、素直についてくること自体あり得ない。
 それを黙ってついてきてくれただけでも、十分だった。

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