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第10話 空(うつほ)なる真実

孤島にて Episode:16

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(片腕と呼ばれているのは伊達ではない、ということですか)

 そんなことを考えながら案内された部屋まで行き、示された席に着くと、お茶と軽食とが出された。

(おや、ありがたいですね)

 細身の身体の割に、食べるタシュアだ。

「お口に合うかどうかは分かりませんけれど、どうぞ」
「では、遠慮なく」

 口に運ぶと、材料も調理法も手が込んでいるのが分かる。

 毒の心配は、別にしなかった。
 最高権力者のルーフェイアとカレアナがここに居て、なおかつそういう気がないのだから、取り越し苦労になるだけだ。

 だいいち彼女らが本気なら、ここへ来る間にどうかなっている。

「それで、シルファさんのことなのですけれど」

 間をおかず、サリーアが話を切り出した。

「私に言われても困りますが? 先ほどの様子から見ても、シルファは自分の意思でここにいるようですし」
「……ホントにタシュア、あなた分かってないわねぇ」

 話を聞いていたカレアナが、また突っ込んでくる。

「あなたが何かを分かっているつもりなのは、分かりますがね。そのつもりとやらを、私に強要しないでいただけますか」

 女性二人が、顔を見合わせた。
 少し間を置いて、サリーアが訊いてくる。

「シルファさんが旅行に出られたのは、ご存知ですわよね?」
「ええ。ですがそれが何か?」

 たしかに勧めたのは自分だが、シルファ自身が決めたのだ。
 幼児ではあるまいし、自分が口を出すべきことではない。

 だがサリーアは、やれやれというようにため息をついた。

「何か言いたいことがあるのでしたら、はっきり言っていただきたいですね。人外のシュマーはともかく、他人の頭の中などというものは、ふつうは理解できませんから」

 こんなことで連れて来られた挙句、よく分からない話を聞かされるのではたまらない。
 手をつけた軽食だけ食べ終えたら、さっさと帰るのが吉だろう。

 タシュアの考えを知ってか知らずか、カレアナがまた横から口を挟んできた。

「だからね、シルファがうちの子連れて、旅行に出たのはいいとして。
 ルーフェが言うにはその旅行、アヴァンからここまで延々、半月近くかけて南下したらしいわよ?」

「そうでしたか」

 大陸沿岸を縦断は初耳だが、だから何だと言うのか。
 ただカレアナのほうは、タシュアの答えに驚いたようだった。



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