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第10話 空(うつほ)なる真実

閑話休題、孤島にて Episode:02

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 学院やケンディクでの、恋人同士のべたべたした、甘ったるい言動を思い起こす。
 シルファがああいったのを望んでいるとは思えないし、そもそも望まれても自分には無理だ。

 そして、何よりも自覚していることがある。
 他人に何かをして欲しいと思わないだけに、他人に対して何かをする、ましてや喜んで貰おうという考えが、自分には欠落していることを。

(良い機会なのかもしれませんね……)

 自分自身のシルファへの、そしてシルファ本人が己の感情を見直すのに、だ。

 学院で最後に顔を合わせてから今日まで、およそ3週間。

 一緒に居るようになってから、これほど長く顔を合わせなかったのは、初めてのことだった。
 とは言うものの彼女の実家を調べていたこともあってか、普段よりもシルファのことを考えていたような気がする。

 現状、自分に最も近しい他人。

 単純に構うだけなら、できるとは思う。
 声をかけ、誘い、話せばすむことだ。

 だがやはり……それは何か、違う気がした。

 一人になるのが嫌いなシルファ。
 一人でも生きていくと決めた自分。

 見ているところがあまりにも違うのに、一番近い。

 交友関係が広がり、親しい友人ができ、自然と薄れていけばよかったのだろう。
 だが、何の巡り合わせか、彼女はタシュアの近くにいるようになった。

 それを見るたび、思うのだ。

 いつでも側にいられるために、逆に一人になるのを怖がっていないか。
 かえって依存する結果になっていないか。

 自分の隣にいることが全てになってしまい、それ以外の可能性を考えられなくなっていないか。
 シルファが精神的に立ち直る機会を、そうとは知らずに奪っていないか。

 出遭ったころの記憶をたどる。

 最初は、間違いなく偶然だった。

 次でシルファを助けたのも、気まぐれに近い。
 当時の自分はシルファどころか、他の人間すべてに興味などなかったのだから。

 だがそういったことが重なるうち、気づけば彼女は側に来るようになっていた。
 そして自分も追い払うようなことはせず、時に相手をした。

 ただどれも、偶然の産物だ。

 どこかで何かが少し違ったなら、いまだにお互い、赤の他人に過ぎない。
 あるいは違う誰かが彼女の側に居あわせたなら、やはり自分は無関係のままだったろう。

 そんな思いが、常に頭の隅にある。
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