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第10話 空(うつほ)なる真実

閑話休題、孤島にて Episode:08

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 タシュアの養母であるローズとカレアナは、意外にも親しかったらしい。
 だが何度か聞いた話を総合するに、一緒にいたのは1度だけ、それも短期間だったようだ。

 なのに不思議とウマが合ったのか、その後も時折、連絡を取っていたようだった。

(その相手がシュマーと知ったら、どうしたでしょうね……)

 養母がそのことを、知っていたとは思えない。
 実際自分でさえ、ルーフェイアのミスからシュマーの通信網へもぐりこむまで、まったく分からなかったのだ。

 いずれにせよ養母のローズがカレアナの背景を知る機会はなく、故にあの性格同士で意気投合して、別れたあともたまに連絡を取っていたのだろう。

 そして、あの性格のカレアナだ。

 友人に子が居た――ルーフェイアからの連絡で気づいたのだろう――と知って、保護のために策を立て、こんな形で庇護を与えようと思いついたに違いない。
 それがシルファにまで及ぶとは、さすがに思わなかったが……。

 当のシルファはまだ、不思議そうだった。

「ともかく、買われたんだな……。何を、どうすればいいんだ?」
「何も。なにしろこの買い取りは、保護が目的ですから」
「保護? 意味が分からないんだが……」

 当たり前だと思う。こんな常軌を逸した話など、分かるほうがおかしい。
 その「常軌を逸した話」を、シルファに順を追って説明していく。

「買取りというと分かりづらくなりますが、これは言うなれば、無期限の任務のようなものです。
 ですからこれを盾に、他の任務を断れるのですよ」

「え……?」

 任務を断る学院生は、まずいない。
 断れば何らかの不利益が発生し、最悪の場合退学となるからだ。

 それが可能ということが、どれほどの特権なのかは、上級隊のシルファにはすぐ分かったようだった。

「もちろん、限度はあるでしょうがね」
「そうだろうな」

 いくら盾があるにせよ、生徒の面倒を見ているのは学院だ。
 その学院が損失をこうむるようなことは、さすがに許されないだろう。

「それにしてもそんなこと、誰が、何のために……」

「『誰が』は、ここの主ですね。
 何のためにというのは先ほど言ったとおり、当人にでも訊いてください。まぁ状況から察するに、保護を与えたくなった、と言ったところでしょうが」

 シルファが考え込む。
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