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第10話 空(うつほ)なる真実

閑話休題、孤島にて Episode:13

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「冷めないうちに飲んだらどうです?」
「そうだな」

 手を伸ばし、揺れるカップの中身を見ながら思う。
 「将来」と言われてもピンと来ない。

 それに私は、タシュアといっしょにいられさえすれば十分だ。
 タシュアといられれば、それで……。

「……タシュアは、何か考えていたりするのか?」

 ふと思い至って聞いてみる。

 もしかすると私と同じで、今回状況が変わって初めて、考え出したのではないか。
 そんな考えが頭をよぎったのだ。

「ええ、そうですね。考えてはいますよ」
「そ、そうなのか。やっぱり私とは違うな……」

 よく考えてみれば、私にそれを問うタシュアが、考えていないはずはない。
 けれど次の言葉は、意味深だった。

「正確に言えば、その道以外はないと言うところですか」
「……その道?」

 聞き返す。

「戦場ですよ」

 自嘲気味に、彼が答えた。

「そんなことはないだろう……? タシュアなら、それこそ大学にだって……」

 教官からの評価が低いという問題はあるが、タシュアは実技と同じくらい学科も出来る。

 しかも在籍しているのは、英才教育で知られるシエラの本校、それもAクラスだ。
 どんな難関校でも難なく入れるはずだった。

 だいいち私には、軍とは関係ない進路があると言っている。
 なのに自分はまた戦場へ戻るなど、矛盾だらけだ。

 言葉を続けるタシュアから、表情が消える。

「私は、そういう存在ですからね。他に行くべきところなど、ありません」

 凍りついたような、表情のない横顔。
 深い溝が、そこにはあった。

 たぶん、心のどこかで期待していたのだと思う。
 私がタシュアと居られればいいように、彼にも同じであってほしいと。

 だがそんな思いが、どれほど甘いものだったのかを思い知る。

「すでにこの身は血塗れです。直間接を問わなければ、手にかけた命は、ゆうに三桁を越えるでしょう」

 私さえも見たことがない、そういう修羅場を知っている者の言葉。
 何か言わなくてはと思うが、声にならない。
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